報道ステーションのWebCMについて

 報道ステーションのWebCMに対して一部のフェミニストの人たちが怒りの声を上げ、その結果、削除させられたことは、この国の病理を表しているように思われます。

 このCMが描いているのは次のような世界です。

① 主人公の女性は、普段はリモートワークできるような仕事をしており、その日は久しぶりにオフィスに出社した。
② 報道ステーションが始まる直前に帰宅している。
③ 主人公の女性の「先輩」は、「産休明け」であり、仕事に復帰している。
 この3点から、この主人公は、典型的なホワイトカラー労働者であり、それなりに重要な仕事を任されていること、この女性の勤め先では、「女性は結婚・出産したら仕事を辞めて家庭に入る」という旧来的な風習は終焉していることが描かれています。
 これを受けて、この主人公は、
「どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかってスローガン的にかかげてる時点で、何それ。時代遅れって感じ」
とテレビ電話に向かって語るわけです。
 このCMを批判する人の多くが、「ジェンダー平等」を時代遅れだと言ったのだと誤解して怒っているわけですが、この主人公が「時代遅れ」と感じているのは、「ジェンダー平等」という概念ではなく、「『ジェンダー平等』とかってスローガン的にかかげてる」政治家なのです。なぜそう感じたのかといえば、この主人公がいる世界では、「ジェンダー平等」が実現しているからです。
 その後、この女性は「化粧水買っちゃったの。もう、すっごいいいやつ。」という話をするわけですが、これは値の張る買い物をしたというエピソードを語らせたかったからだと理解することができます。それは、「それにしても消費税高くなったよね。」という発言につなげるためです。高い買い物をしたあとだからこそ、消費税率が上がったことを痛切に感じたというストーリーです。ストーリー展開的には、別に化粧水でなくても良かったと言えなくはありませんが、ある程度エリートコースに乗っているホワイトカラーの若い女性が消費税率の高さを実感するような買い物をするというストーリーで、ほかに何を買ったことにすれば良いのかというと、なかなか難しいです。「著作権法コンメンタール買っちゃったの。もう、すっごいいいやつ。」と言わせるのは、消費行動としては正しいのですが、CMとしては嘘くさくなります。
 そして、消費税が高くなったという話をしたあとで、「国の借金って減ってないよね?」と続けることで、消費税率の引き上げが財政赤字の削減という政策目標に繋がっていないことについて、主人公が納得していないことを表しています。
 そして、この主人公の女性は、9時54分になったのを確認すると、相手との会話を途中で断ち切って、報道ステーションを見始めるというふうにストーリーは展開していきます。ここでは、この女性の政治意識の高さは、報道ステーションを見ることによって養われているのだと言うことを示しています。この点について言いたいことがある人はいるでしょうが、報道ステーションのCMである以上、報道ステーションを褒め称えるのは当然のことです。

 この通り、このCMには、女性を差別する要素は何もありません。この主人公の女性は「おバカな女性」とは描かれていませんし、男女による役割分担の固定を支持しているようにも描かれていません。

 それなのに、「ジェンダー平等」という概念自体が時代遅れだとdisられたと勘違いした人々によってクレームを受け、作品自体を撤回するまでに追い込まれてしまったわけです。
 テレビ朝日は、「不快な思いをされた方がいらしたことを重く受け止め、お詫びするとともに、このWeb CMは取り下げさせていただきます」と表明したとのことですが、理解力の低い人たちが誤解して不快な思いをするたびに表現を撤回しなければならないというのは、由々しき事態です。あいちトリエンナーレ2019のときも《時代(とき)の肖像ー絶滅危惧種 idiot JAPONICA 円墳ー》を「間抜けな日本人の墓」と誤読(Japonicaには「日本人」という意味はない。)して騒いで「表現の不自由展・その後」を中止に追い込んだ人たちがいましたが、同じ構造が再び生まれてしまっているのです。

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