王座戦における棋譜利用ガイドラインへの疑義

公益財団法人日本将棋連盟は、「王座戦における棋譜利用ガイドライン」を公表しました。

その第1条として、以下のような文言が記されています。

主催者は、日本の伝統文化である将棋の普及振興を図るため、王座戦の運営に当たっています。公式戦の対局記録である棋譜については、主催者が優先的使用権及び利用許諾権を有しています。これら主催者が有する権利は適正に保護される必要があります。このため、第三者が棋譜を利用するに当たって、ご理解いただき、守っていただくべき事項や手続き等を本ガイドラインに定めます。

しかし、主催者の「優先的使用権及び利用許諾権」の法的根拠は記されていません。市民が原則自由に行動することが許される立憲民主主義国家である日本国においては、公益社団法人が「ガイドライン」を定めても、それだけでは、市民による棋譜の利用を禁止することはできません。禁止権がない以上、利用許諾権も発生しません。

若柳拓志氏は、
ガイドラインは、主催者の権利について、「優先的使用権及び利用許諾権」と表現している(第1項)。著作権に関する議論に正面からは踏み込まないが、権利の内容としては著作権に準ずるものとして考えている姿勢がうかがえる。


と評価しているようですが、公益社団法人に、準物権的な権利を創設する権限がない以上、日本将棋連盟がガイドラインを作成する際に「権利」の内容としてどのようなものを考えているのかなんて意味がありません。

杉村達也弁護士は、若柳氏によるインタビューに対して、

ガイドラインを発表した以上、ガイドラインを守っている者が損をして、守らない者が得をする状況となることは望ましくありません。ガイドラインに違反をした者に対しては、適切な法的対応を取るべきだと思います。
そのような対応によって、『優先的使用権及び利用許諾権』がどのような範囲で認められるかについての裁判例が蓄積されることにもなりますので、法学的な視点からも望ましいのではないでしょうか。

と答えたとのことなのですが、そもそも訴訟物をどうするのか理解できません。不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とするのでしょうけど、被侵害権利をどうするのでしょうね。主催者たる日本経済新聞社の「公益社団法人日本将棋連盟が策定したガイドラインに基づく優先的使用権及び利用許諾権」を被侵害権利とするんですかね。「物権法定主義」って、法学部だと大体2年生の時に習うと思うのですが。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?