リツイート事件

最高裁判決についてリツイート事件最高裁判決について、いくつか気付いた点に言及したいと思います。

1.インラインリンクは、著作物の法定利用行為にあたらない。

 最近、若い弁護士を中心に、インラインリンクを貼る行為を送信可能化行為等著作物の法定利用行為にあたるとする見解が再び散見されるようになりましたが、後述するとおり、最高裁は、インラインリンクが法定利用行為にあたらない前提で上記判決を下しています。したがって、最高裁は、インラインリンクを法定利用行為に含めないという見解に立っているとみて良さそうです。

2.法定利用行為をしていなくても氏名表示権侵害は成立する。

 氏名表示権とは、「その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利」であり、著作者の選択した方法でその著作者名を表示することなく著作物を公衆に提供又は提示した場合には、原則として、氏名表示権侵害となります。
 公衆への提示については、その方法が制限列挙されている場合(例えば4条1項)とされていない場合とがあり、19条1項における公衆への提示については、その方法が制限列挙されていないのですから、著作物の法定利用行為による公衆への提示に限定されないとした最高裁の判断は自然なものです。

3.インラインリンクを含むツイートは、その流通により氏名表示権を侵害する情報を送信するものか。


 プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示ができるのは、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らか」な場合に限られます。しかし、インラインリンクを含むツイート自体には、その上下がトリミングされた画像データ自体は含まれないので、当該ツイートの流通自体によってはリンク先の画像の著作者の氏名表示権は害されないのではないかという疑問が生じます(上告受理申立理由にもなっています。)。
 公衆への提示とは、その複製物を公衆に交付することなく、その著作物たる表現を公衆に伝えることとされており、伝える方法についての制限はありません。特定の画像データにつきインラインリンクを貼ったツイートが公衆に向けて送信された場合、受信者は、当該ツイートの本文とともに、インラインリンク先の画像も同時に見ることになります。この状態をもって、当該ツイートの送信により、著作物(リンク先の画像)たる表現を伝えたといえるのかという問題です。両方の見解があり得るところだとは思いますが、今回、最高裁は、自己が情報の送信にならなくても、当該情報の送信が自動的になされるようにしたのであれば、「表現を伝え」たといえるのだと判断したのではないかと思います。
 そうだとすると、ツイートの受け手に伝わった情報としては、その著作者の指示に沿った著作者名の表示がなされていなかったので、19条1項に該当するとされたのだと思います。

4.「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」しているか


 申立人は、「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができることから,本件各リツイート者は,本件写真につき『すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示』(同条2 項)しているといえる」と主張していたようです。
 しかし、「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」していたかどうかは公衆に提示されたものを基準に判断するべきものですから、「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリック」したのちに表示される画像にその著作者の氏名が「すでに著作者が表示しているところに従って」表示されたとしても、19条2項に該当するとはいえないとは思います。

5.著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれ

 むしろ、「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができる」ということは、「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」(19条3項)ということを基礎づける理由として活用できるのではないかという気がします。画像データについてインラインリンクを貼った場合に上下がトリミングされる可能性があるtwitterシステムを利用して、トリミングされる可能性のある場所に著作者名表示がなされている画像データにインラインリンクを張ったツイートを投稿することが「公正な慣行」に合致するかということが問題とはなりますが(慣行の存在は認められるので、後はその慣行が公正なものかという問題だとは思います。)。

6.故意過失

 プロバイダ責任制限法4条に基づく発信者情報開示請求権を行使するにあたって、開示請求者は、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害された」ことの立証は求められますが、発信者に故意または過失があったことの立証までは求められません。故意過失の有無を基礎付ける事情の多くは行為者(発信者)側のものであるところ、発信者がどこの誰であるのか分からない開示請求者においてそれらの事情の有無を立証することは通常困難だからです。
 本件でいえば、リツイートに伴うインラインリンクによって氏名表示部分が表示されなくなることを予見していたのか、予見することができたのか、予見していたまたは予見できたとして回避可能性はあったのか等の事情は、発信者情報開示請求訴訟では斟酌する必要がそもそもないのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?