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七夕の夜の来客のこと

多分、人生でもそう何度もないことかと思うので、忘れないうちに書き記しておく。これを読みながら、未来に、こんなこともあったよねと、子供に話すかもしれないから。

あれは七夕の夜のことだった。家族で出かけて、夜に家に帰り、テレビを見ていたらベランダから鳥の羽音がした。

うちはマンションである。そして5階よりも上である。暗がりから聞こえる羽音を聞きながら、「ははぁ、カラスか鳩かな」と思った。あとで汚れてないか見ておかなきゃな。そう考えながら、子供の風呂など用意していたら、家族が声をかけてきた。「ねぇちょっと、どう見ても野鳥じゃないんだけど」
ハァ?????
網戸をあけて覗いたら、いた。干してあるタオルに隠れるみたいにして。

青い鳥だった。

いや、これは、どこをどうみてもどうやっても野鳥ではない。確かに。わたしもなんにも詳しくないけど、あれだ。あれ。セキセイインコっていうやつ。「どうする?」と家族が聞いてくる。どうするって……。「とりあえずダンボール持ってくる」えっ持ってきてどうするのそれ、と思ってる間に、家人が新聞紙をダンボールに敷いて持ってきた。それを持って窓のそばに立つ家の人に、「私が行くの??」と聞く。マジか。

「知らないからね! 飛んでっても私のせいではないからね!」

繰り返すけども、うちはマンションの上の階である。ここまで飛んで来られたのだから(ひとつ上の階から落ちてきたとかでもなければ)飛んで逃げることは絶対に可能である。捕獲するにも扱いもわからないし、そもそも口がついている生き物を飼ったことがない。
別に、私は動物は特に怖くない。ということは、動物はだいたい私のことが怖いということだ。だから逃げられてもしょうがないと思ったし、そうだったとしても私には責任がないはず、と信じて、ベランダに出て手を伸ばした。

鳥は、逃げた。

まあそうですよね。そうなりますよね。羽根がありますからね。のばしたわたしの手から逃げて、飛んで。

……そして、家の人の持っているダンボールに自分から入った。

「はいっちゃったかぁ~~~~~~~」

いやぁ、長い夜になりそうだなと思った。直感的に。

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とりあえずダンボールに洗濯ネットをかけて、「どうする?」と話し合い。子供はこの時点で「とりさん? とりさん?」と大興奮だ。
「ネットで調べる?」「いや、博士に聞いてみる」「博士いるの?」「いる」
私は友達が多いので。一番の「有識者」であるところの、インコをダースで飼ってる(誇張表現)お友達に即座に電話をいれた。
博士、ビデオ通話で見るなり「あら~!」と言って、たくさん教えてくれた。とりあえずお水と、葉っぱ。
「葉っぱ? この時間に?」
本来は小鳥の餌がいいんだろうけど、この時間ですから、とのこと。時刻は夜十時くらい。家の野菜室には、該当の葉物があまりなかった。(子供はまだ葉物をなかなか食べない)
「葉っぱ、葉っぱねぇ」
と言いながら、近くの個人経営のスーパーにいき、指定された葉っぱをあるだけ買う。
ついでに近くの交番にいって、「鳥を拾ったのですが」と話す。おまわりさんは困惑して、「十年この交番にいるけれど、鳥の届け出がでたことはない」と言われる。
まあそうか、そうですよね、ととりあえず家に帰り、葉っぱと水をいれて、ご近所友達がいるSNSに、「誰か鳥わかるひといる?」と聞いて就寝。
寝覚めが悪いので、死なないでおくれよ、と夜中も何度か覗いてしまった。

翌朝になり、元気なのか元気じゃないのかはよくわからないけれど、とりあえず鳥は生きていた。子供を登園させ、よっこらせ、と洗濯ネットのかかったダンボールごと、近所の動物病院に。
開院と同時に入ったら、受付のおねえさんが、不安そうに、

「そのダンボールは……なに……?」

と聞くので、「そこのマンションの者なんですけども、昨夜、うちに鳥が……」と言うと、

「もしかして、保護!?」

目の色をかえて対応してくれた。
すぐに先生が見てくれて、ちょっと疲労はあるけれど、いたって元気で健康とのこと。指を出しても乗ることはないけれど、つかんでも暴れることがないので、やはり飼い鳥だろうと。羽根は切ってないそうだ。

「うちの餌わけられたらいいんだけどね、病気用しかないからね」

全然構いません、と私は感謝しきりだった。鳥の餌がドラッグストアで売っていることをはじめて知った。
お代を払おうとしたら、いらないと言われ、張り紙もつくってくれるどころか、窓口としても受けてくれるとのことだった。私は個人情報を出せないので、本当に助かった。
独身の頃、この動物病院の入っているマンションにも一時期入居していたことがあったのだけれど、いい人達だったんだな、と初めて知った。
博士や有識者達に聞きながら、ひとまずの環境を整えてるうちに、友達から「うちの家族が一時的にひきとりにいくよ」との連絡。友達が多くてよかった、と心から思った。
子供には、「鳥さんは一晩の宿を借りにきたのよ」という話をする。猫飼いの801ちゃんなんかは「べにたまさんちもついに~!!」とかしみじみしてたけど、飼いません。なんなら家の人はちょっと飼いたそうにしてたけど、年に何回も海外に行く人がなに言ってるの、と却下。

でも、ひとばんくらいだったけど、確かに、生き物とは情がうつるものだな、としみじみ思った。ライフスタイル的には、全然飼えませんけども。

博士も有識者もそれからお友達も、鳥飼いが口を揃えていうのは、「鳥は賢いですからね。面倒を見てくれる人の家にいきますよ」ということだった。
いや、うちで本当に正解か?????
と思いながら、鳥かごを持って迎えにきてくれた友人の家族に託した。
はりがみをはり、SNSなどでもその方が賢明に探してくれたのだけど(警察署にも行っていただいた)、見つかることなく三ヶ月。これで、一応、彼女の家の鳥になってもいい、ということになるらしい。
もちろん、探している人がいるのなら、見つかればいいなと思う。もしも北陸で、青いインコを放してしまったという人がいたら、一声かけてもらえたら嬉しい。
七夕の日にやってきた、青い鳥。
なんかオスっぽい? じゃ、仮名で、彦星のヒコちゃん、と適当に呼んでいたけれど、実はわかりにくいけどメスだったらしい。(有識者でも見極めが難しいそう)でも、まだヒコちゃんと呼んでいて、今は身をよせた家で、先に暮らしていた鳥さんと、仲良く肩を並べて綺麗に鳴いているそう。いい暮らしをしているのは疑いようもない。
人生、こんなこともあるんだねと思ったし、まあ、いつか、ライフスタイルがかわったら、鳥を飼ってもいいなって、ちょっとだけ思った。

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