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キルシュの歴史(フランス編)


こんばんわBenFiddich店主の鹿山です。

最近またキルシュカクテル熱が出てきたので昔に書いたキルシュの歴史について改めてこちらのNoteにも転載したいと思う

キルシュオレンジサワー。
BenFiddichの最近のおすすめカクテル




そう、フランスの
キルシュ(Kirsch)について。





キルシュ(Kirsch)について書こうかなと
思ったきっかけは
鹿山の倉庫(秘蔵の古酒が眠る)から
1930年代のキルシュ(Kirsch)を開栓するに当たって皆様のお口に届く前に少しでも
キルシュ(Kirsch)の良さを
知ってもらえたらなと

(1930年代の古いキルシュKirsch)


キルシュ(Kirsch)は
ドイツ南東部のシュヴァルツヴァルトに
端を発した
キルシュヴァッサー(Kirschwasser)の呼称が
正式名称である。
ドイツでは
キルシュヴァッサー(Kirschwasser)
と呼ばれるが
フランスでは単に
キルシュ(Kirsch)と呼ぶのが一般的


ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州に
位置する森であるシュヴァルツヴァルト
ここがチェリーの蒸留酒である
キルシュヴァッサー(Kirschwasser)発祥地だ
(フランスの国境沿いに位置する)



ではフランスのキルシュ(Kirsch)の
一大生産地はどこなのだろうか?

先程のドイツはシュヴァルツヴァルトから
程近い
フランス北東部
Fougerolles(フジェロル村)だ。


ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏
オート=ソーヌ県に位置する
人口3721人(2014年調べ)の
小さなコミューン(集落)



ここがフランスにおけるチェリー界の桃源郷


あまり知られていないが
Fougerolles(フジェロル村)で造られる
Fougerolles kirsch(フジェロルキルシュ)は
フランスにおけるAOCに認定されている。

因みに
スピリッツでAOCの認定を受けているのは
コニャック
アルマニャック
カルヴァドス

であり
キルシュ
は2010年に比較的新しく
AOCのステータスを授与されている。

AOCの長い歴史の中で四番目となり
「Kirsch de Fougerolles」は
確固たる地位を獲得したのだ。

因みにAOCとは
Appellation d'Origine Controlee
(アペラシオン・ドリジヌ・コントローレ)の
略称で、原産地呼称。
法律により「Kirsch de Fougerolles」
と名乗るにはその明確に決められたエリア、製造方法、その土地のチェリーを使うことで伝統は今後も守られてゆく。

では原産地呼称のAOCの認定を受けた
「Kirsch de Fougerolles」
何が他のキルシュと違うのか?
どのように厳密なルールがあるのか?




実は鹿山は2016年に
Fougerolles(フジェロル村)に赴いており、
その時に訪問したPaul Devoille蒸留所の例を使い紹介したい。


①One pass distilling
又は
single pass distillingとも言う
半連続式蒸留(1回蒸留)

これは現代においてのフルーツブランデーの
作り方のメソッドとしては定説
粘土力のある果実において蒸気で熱し
一度でアルコールを回収する。
単式蒸留器に精留棚が数枚組み合わせたもの。

この精留棚がある事により一回の蒸留で
単式蒸留器の2回蒸留並みにアルコールが
回収することが可能になる
(アルコール度数70度程度)


Fougerolles(フジェロル村)にある
Paul Devoille蒸留所の蒸留機。
蒸留機のネックの部分に三つの窓がある。
この三つの精留棚によりアルコールが強化される。

因みに

従来のキルシュ及びフルーツブランデーの
製造方法は単式蒸留器で2回蒸留。
同じくキルシュの生産地でもあるアルザス地方でも伝統的な単式蒸留器での2回蒸留。


これは今でもヨーロッパで
広く伝統文化として残っている
家庭蒸留のやり方でもある。
家庭蒸留の場合は
直火なので焦げやすく、
温度管理は熟練を要し
アルコール回収率も悪いが
これはこれで伝統的な良さがあり
鹿山はこの世界観が好きだ。
下記写真は
フランスのとある集落の共同蒸留所。
各々が自分で醸した果実発酵液を
持ち寄り好きなように蒸留できる
歴史ある施設だ。



② 「Kirsch de Fougerolles」
熟成について


Kirsch de Fougerollesの熟成の大きな特徴として挙げられるのは
屋根裏に熟成庫がある屋根裏熟成だ。




【Paul Devoille蒸留所の屋根裏熟成庫】
【木の樽ではなくデミジョンボトルにて瓶内熟成をさせる。】


なぜ屋根裏なのか?


屋根裏ということは夏は温度が上がる。
この地の屋根裏の寒暖差は
夏は35°
冬は−5°となる。
この寒暖差での熟成において
夏の熱さでアルコール揮発させまろやかに。
冬の寒さでアロマが濃縮されるという考え。

またキルシュは
コニャックやカルヴァドスとは違い
木の樽にての熟成を施さない。
理屈としては
チェリーの発酵蒸留液には
充分なアロマがあり、
木の香りは必要としない。
デミジョンボトルというガラス製の瓶にて
瓶内熟成をさせる。




因みに
熟成に関しては最低何年という規定はない。



通常は3年〜6年瓶内熟成を経て出荷される



Paul Devoille蒸留所のスタッフ曰く
フルーツブランデーの中でも特にキルシュは
長く寝かせれば寝かせるほど(数十年)
味に深みが増して美味になるという。
樽に寝かせるわけではないが
瓶内熟成を経たキルシュは透明ではなく
半透明になる。これはキルシュに含まれる
油分と関係していて数年又は数十年の
時間を経るにつれてやや褐色を帯びている


③ 「Kirsch de Fougerolles」の地域区分





ブルゴーニュ-フランシュ-コンテ地域圏である
オート=ソーヌ県 (Haute-Saône)

グラン.テスト地域圏である
ヴォージュ県(Vosges)
の境界線にまたがる。

その中でも上記の濃い赤色が
Fougerolles村(フジェロル)であり
10000本以上のチェリーの木があり
この地域周辺のキルシュ生産の90%が
Fougerolles村(フジェロル)で担っている。

そのほかの薄い赤色の地区も
Fougerolles村(フジェロル)ではないが


『Kirsch de Fougerolles』の認可を受けれる


①Raddon村で数件
②Aillevillers-et-Lyaumont村では
19世紀から20世紀初頭においては
Fougerolles村(フジェロル)を凌駕する
生産量を誇っており、
元々のキルシュの生産地の本家は
こちらであったが最後の生産者は
1976年を最後に消滅している。
因みに鹿山が持っているこちらの
1930年代の古酒であるキルシュは
Aillevillers-et-Lyaumont産だ。

この時代まではAillevillers-et-Lyaumont村の方が
生産が多かったのだ






④『Kirsh de Fougerolles』における
地域圏はいつからキルシュを
作っていたのか?

(昔のFougerolles村の街並み)


1600年代には自生した野生種により
チェリーのブランデーを生産していたという
記述がある。
1700年代にはこの地で
チェリーの木の植樹が始まり様々な
品種が誕生する。
この時点ではまだ個人が仕事の合間の
小遣い稼ぎ程度での規模感
1800年代には産業革命の波を受けて
商業路線を確立し
認可された蒸留所が誕生し
町の人間達もそれに従事するようになり
一大生産地となる。
1800年代には45の認可された蒸留所が
Fougerolles村に存在した。


1900年代初頭になると
45あった蒸留所は半分以下に激減する。
理由として
フランスこそ禁酒法は施工されていないが、
アルコール依存症の社会問題、
第一次世界大戦と続き
そしてトドメとして
1915年におけるアブサン禁制

実はFougerolles村というのは
当時キルシュの生産地でもありながら
アブサンの巨大生産地でもあったのだ。

19世紀後期から20世紀初頭の
Fougerolles村は

キルシュとアブサン造りの二毛作スタイル
で街は大きく発展していたのだ。

アブサンのメッカというと
Pontarlier(ポンタルリエ)が有名。
第二のアブサン生産地のメッカは
Fougerolles村なのである。
1915年以前の
フランスで消費された
アブサンの16%を
生産していた記録もあるのが
Fougerolles村だ

(ニガヨモギ収穫図)



Fougerolles村のアブサン史については
別途いつか御紹介したい



1915年におけるアブサン禁制
第一次世界大戦、第二次世界大戦において
Fougerolles村の産業は衰退



第二次世界大戦以後は
嗜好品文化の多様により
キルシュ(Kirsch)文化は徐々に衰退。
この時期はまだ19の蒸留所が存在したが
当時あった酒税の優遇措置の法改正により
酒税が重くのしかかり、さらに数が減り
Fougerolles地域圏における
キルシュ(Kirsch)の生産蒸留所は
僅か4つの蒸留所となった。


ただ、この4つというのは統廃合が進み
一つずつの施設内に集積され
各々がそれなりの生産量を誇る大規模な
蒸留所となる。

最大の生産量を誇るPeureux蒸留所
(Fougerolles村内にある)


原産地呼称のAOCの認定を受けた
Fougerolles(フジェロル村)地域圏内には
大小様々なチェリー農家がいる。
毎年収穫期の6月〜8月に集められた
Fougerolles産のチェリーを
Fougerolles村内にある
4つの蒸留所に集められ
Kirsch(キルシュ)が生産され
原産地呼称のAOCを保っている。



⑤「Kirsch de Fougerolles」に使われる
チェリーの品種は?



スイートチェリーの品種となる
Guigne(ギーニュ)属であり
Prunus avium(プルネス.アビウム)
和名 セイヨウミザクラ



この品種が主体となる。
その他にも数十種類のチェリーの樹種が
使用されるがいわゆる食用とされる
糖分の高いスイートチェリーが使われる。


「Kirsch de Fougerolles」と名乗るには
Fougerolles地域圏内で収穫された
チェリーを使い
Fougerolles地域圏内で
発酵、蒸留、瓶詰めをその地域でやる事が
法律で決められている



⑥最後にキルシュKirsch
の良し悪しについて

左FougerollesのPaul Devoille蒸留所キルシュ
右1930年代古酒のFougerolles地域キルシュ



キルシュというのは冒頭に述べたように
ドイツのブラックフォレスト、
フランスのアルザス地方、
フランシュ・コンテにある
Fougerolles(フジェロル村)地域を起源とする。


ちゃんとしたキルシュ(Kirsch)というのは
100%チェリーからアルコールを醸し
蒸留したスピリッツとなる。

然しながら製菓用、
又は安酒のランクとなるであろう
キルシュ(Kirsch)というのは
10%〜70%のキルシュ
中性アルコールを希釈して
伸ばして出荷する。 


日本に出回ってる多くのものはこれだ。


キルシュの味わいを
中性アルコールで伸ばしてしまうので
チェリーの種子から由来する
アーモンド感を補う為に
アーモンドエッセンスを加えたりもする。
このような場合は
しっかりと表記がなされている

それが


『Kirsch FANTAISIE』表記




『Fantaisie』の仏語の意味は
直訳だと『幻想』

然しながら【Fantaisie】は広義で
「自由な創意」
「風変りで洒落た小物」
「斬新なアイディアの」
「奇抜なデザインの」
という意味合いに掛け合わせられる。


純粋なキルシュではない。
安価に仕上げるキルシュではあるが
ポジティブに捉えると
『自由な創意工夫』のキルシュということ。



純粋なキルシュに限らず
純粋なフルーツブランデーというのは
ウォッカやジン、ラムと比べると
単価は高価になりがちだ。
なぜならば素材が安価ではない。



例えば
アルコール50度のキルシュを1ℓ作るには
9kgのチェリーが必要となる



想像してもらいたい
9kg分のチェリーが入ったダンボール箱を。
キルシュボトル1本分にしかならないのだ。



原料100%で作ったキルシュというのは
凝縮されたチェリーの集合体



1930年代流通ボトルである
Aillevillers-et-Lyaumont村のキルシュ
(現AOC認定を受けたFougerolles地域圏内)


香りはハニートーストのように甘い香り。
味わいは時間経年によるまろやかさの中にも
杏仁が口中に広がる。


良い純粋なキルシュというのは
発酵過程のチェリーの種子が重要。
リキュールのアマレットを想像してくれると
わかりやすい。
バラ科植物(チェリー等)の種子は
果実を破砕、発酵の過程で
杏仁の味わいが生まれる。
果実と種子のバランスから
発酵〜蒸留の過程で生まれるあの味わい。



BenFiddich又は
弊社系列店の
フルーツブランデー専門Barである
『B&F』にて
是非味わって欲しい。



























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