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フェニ(Feni) インドの地酒。

BenFiddichの鹿山です。

世界には様々なお酒があり今回はインドの地酒
Feni(フェニ)探訪。

BenFiddichにある様々なFeni(フェニ)
①ココナッツ原料のフェニ
②カシューアップルのフェニ
③ココナッツ原料のフェニにクミンやサルサパリラの根のフレーバーをつけたボタニカルフレーバーフェニなど様々


因みに味わいはというと、カシューアップルのフェニの蒸留酒はリンゴとパプリカを足して2で割ったような酸のある味わいと香りで、ココナッツのフェニはふくよかな酸のあるボディの味わい。もっちりとしている。

良いフェニは例えば昨今世界のバーテンダーが愛用しているメキシコのメスカルやソトル、もしくはペルーやチリのピスコと同じような使い方ができる。(カクテル)


然しながらFeni(フェニ)はメスカルやピスコのようにはバーテンダーに残念ながら知られてはいない。

だから僕はこのFeni(フェニ)というお酒には
大きな大きな可能性を感じている。

このFeni(フェニ)を世界へ発信させ
Feni(フェニ)の地位向上と地元の伝統産業を
守り継承してゆくFeni(フェニ)界の若きリーダーハンセルさんと僕は出会い今回フェニについてバーテンダーとして色々と研修体験をさせてもらった。

まさかの同い年(38歳)

Feni(フェニ)の原料はカシューアップルジュースもしくはココナッツジュースから作られるインド南部ゴア州の伝統蒸留酒。


Feni(フェニ)は2タイプあり

①カシューアップル原料
②ココナッツジュース原料

となる。

生産時期にも季節性があり

ココナッツのフェニは通年作られるのに対し

カシューアップルのフェニの生産時期はカシューアップルの実が実る
3月〜5月の時期。
因みにカシューアップルがよくわからない人は
ざっくり言うとミックスナッツに入ってるカシューナッツがあると思うがそれの果実である。

カシューアップル
足で潰して圧搾し果汁を搾り取る。
縄で縛り重しを乗せて最後まで果汁を搾る


因みにカシューアップルのFeni(フェニ)は
日本酒やテキーラも保持している
地理的表示GI(Geographical Indication)を取得している。
GIとはざっくりいうと
その産地固有の地理的条件(この場合はゴア州伝統)
確立された製法、特定の地域で造られた酒類や農産物などの品質を守り伝統を保護されるべき酒類となる。


そう、つまりFeni(フェニ)はその地域伝統の文化を守る事が国をあげて奨励されている。

いまでもFeni(フェニ)の生産者はゴア州だけで
2000以上もの造り手がいる。
だいたい一つの集落に最低1家族がフェニを生産している。

とある集落のフェニ達人のお家にお宅訪問
銅製の蒸留機に粘土で固め覆うスタイルが
ゴアの一般的な蒸留機スタイル
納屋小屋のような小さなスタイル
フェニ達人爺さん。
代々フェニを作っているが息子達はフェニ造りを継がない為、自分の代で終いにするそう。
フェニ飲み比べ。
個人蒸留なので中身はペットボトル。
レモングラスやクミンなどフレーバーをつけたフェニも作っている。



Feni(フェニ)は地理的表示GI(Geographical Indication)を取得している酒類でありインド政府からのお墨付きがある。
それは文化を守り継承してゆく為に個人蒸留と個人販売が許されている。
日本のドブロク特区のようなものといえばわかりやすいかもしれない。


Feni(フェニ)は実はほとんど海外へ輸出されていない。(正規で輸出されてるのはなぜかカナダのみ)
ほとんどが国内消費となる。それもインド北部の人はフェニを毛嫌いしておりほぼ南部に限る。
そもそもなぜ毛嫌いされているかというとやはり生産がfarmer distiller(個人蒸留)が多く粗悪なものも確かにある。
インド人のほとんどは若かりし頃にこれを飲み過ぎたが故のトラウマ的な思い出を持っている。中国人がバイチュウ、韓国人がソジュとの若かり頃の思い出を携えてるようにどこの国も同じ。

然しながら今フェニ業界は変わりつつある。
非常にクオリティの高い、そして品質の安定したFeni(フェニ)が増えている。

その立役者がフェニ業界を担う若きリーダーハンセルさん。


ハンセルさん曰く現在Feni(フェニ)の造り手は
ゴア州だけで2000ヶ所(家庭蒸留)

そのほとんどが各家庭で季節性的にFeni(フェニ)を造り、売り先はというとその集落周辺の地元の人達に空きペットボトルに詰め替えて量り売りするというスタイル。
評判の高い造り手だと遠くからも噂を聞きつけて買いに来る人がいるらしい。

ゴアの人々は皆が皆お気に入りの農家のFeniの造り手を持っててその農家を贔屓にしている。
そしてその農家も顧客を幾分か個人的に抱えていて季節性の蒸留なので副業的にやっている農家が多い。


故にFeni(フェニ)は安定しない。


そこでハンセルさんは元々自分が所有している
Feniの蒸留所(Kazulo蒸留所)とは別に
6つの集落の造り手からもFeniを買い上げ全てをブレンドしてボトリングをしている。
いわゆるスコッチウィスキーのブレンデッドウィスキーの様なスタイル。それはゴア州にあるBarcem村、Morpilla村、Neturlin村、etc...
などにある信頼できる個人の蒸留家から買い上げている。

ハンセルさんが所有するKazuloブランド
複数の農家のフェニをブレンドして品質の安定を図っている。
Feni(フェニ)のセラー
三つの村のフェニの飲み比べもさせてもらった。



量を集める事ができればブレンドする事によって味を安定させる事もできるという利点がある。それは個人の蒸留家の域を超え世界と戦っていく為の準備段階だとのハンセルさん曰く。



そんなハンセルさんの心意気。ハンセルさんが所有するKazuloの蒸留所を見学させてもらった。

土中は温度が一定の為、南国ゴアでは伝統的なのは
こういった土中発酵が採用される。
ハンセルさんの蒸留機


僕がゴアに伺った時期は7月。
カシューアップル原料のFeni(フェニ)の仕込み時期は4月頃の為もう終わっており代わりに
通年作るのがココナッツ原料のFeni(フェニ)であるのでココナッツフェニの製造工程を見せてもらった。

ハンセルさんが呼び寄せたココナッツ収穫の達人を
呼んで講義してもらった。


ココナッツジュースのお酒というのは世界中にあるのはもちろん知っていて国ごとにそれぞれのココナッツ酒の呼称がある。ただそもそも知らなかったのがココナッツジュース原料のお酒というといつも頭の中でこれをイメージしていた。

ココナッツの実のジュース



いや違うのだ。僕だけだったかもしれないが。
花蜜を使うのだ。

ココナッツの苞(ほう)の中身から花蜜がポタポタと採れてこれが糖分が高く煮詰めて精製されてココナッツシュガーになったり、又は発酵させてアルコールにしたりなるのだ。
中身はこんな感じ。ココナッツの木は雄雌同株で細かいのがおしべで丸いのがめしべとなる。ここから花蜜がとれる。

ココナッツ達人おじさんに色々と講義してもらった。カシューアップルと違いココナッツの木は全て収穫時期が違うのでココナッツ収穫職人が木に登ってそれぞれの収穫時期を見極める。
一日に40本の木に登りそれぞれ管理するとのこと。

ゴアの道端で見たココナッツの木に登る人


ココナッツの苞(ほう)の蕾が開花直前になると花蜜の収穫タイミングであり、三日間かけて定期的に苞(ほう)を叩いて中の道管の繊維を破砕させて花蜜をとりやすくする。
4日目に切り込みを入れるとドバドバと花蜜が流れるらしい。一本の苞(ほう)の蕾から2ℓ〜4ℓ花蜜のココナッツジュースが収穫できるとのこと。

このように縛って切り込みを入れてココナッツの花蜜ジュースを収穫する。

因みにこれが採れたての花蜜のココナッツジュース。ココナッツネクターとも言う。
現地ではカルパラスという。透明である。

これは現地ではとても貴重でこのココナッツネクターの寿命はわずか当日。翌日になるとココナッツトディという呼称になる。


これがココナッツトディ。色が白くなる。
自然の酵母が死にそれが白くさせる。
アルコール発酵が進行している証拠。

いわゆるこれがパームワインとなる。


このパームワインを三日間発酵させ
一回目の蒸留液がモロップという。
二回目の蒸留液がココナッツフェニになる。

三日間発酵させたパームワイン。


これを蒸留する機会にも立ち会えた。

赤土が多い土地。粘土が豊富でありこの粘土を縄に染み込ませる。
蒸留器の接合部に巻いて気化したアルコールが漏れないようにする。
枯れ木で蒸留する。この火の温度の調整が特に熟練の技となる。
冷却炉はこのように。
ここからポタポタと滴り落ちた液体がフェニである。


フェニ(Feni)には二種類の原料があるのは冒頭で書いた。
①カシューアップル原料のフェニ
②ココナッツ原料のフェニ

そして③つ目のフェニがある。
それがフレーバーフェニ。

これは②のココナッツ原料のフェニに
ボタニカルを浸漬させて蒸留するフェニの事だ。
フェニは二回蒸留。
一回目の蒸留液にボタニカルを浸漬させて二回目の蒸留で同時にフレーバーをつけるというもの。
よく使われるフレーバーはクミンやレモングラス、そしてサルサパリラの根。
サルサパリラの根はドクターペッパーやルートビアの飲料に使われるあの独特なやつ。
実は南インドにはサルサパリラの根がたくさん自生している。
サルサパリラ根掘り体験もさせてもらった。

ドクターペッパーなどのような
湿布のようなフレーバー。
フレーバーフェニとしてはサルサパリラ根は定番
サルサパリラ根フレーバーフェニ造り体験もさせてもらった。
蒸留器の中に投入



そしてガラファオと呼ばれる大きめの瓶に入れ瓶内熟成を施す。


そして有難い事にBenFiddichチームに
一つのガラファオ瓶に詰められたフェニを
プレゼントしてもらった。

そしてこれを一年間沼熟成。
Kazulo蒸留所ではいくつかのスペシャルボトルとして一年間沼熟成されたスペシャルフェニが存在する。
瓶詰めされたBenFiddichフェニも沼熟成させてもらった。

しっかりと固定
儀式的な感じでボタニカル花吹雪を回せながらラッパを吹いてフェニ沈める。
インドは暑いから気持ちいい


そしてそこかしこにフェニが沈んでるので水中の足元に気をつけながら沈める。


僕らのフェニは一年後に引き上げ飲めるらしい。

お楽しみに。
(沈める前のBenFiddichフェニ)



最後に。

世界には様々な酒類がある。

フェニもその一つ。

僕の中ではメキシコのメスカル、チリやペルーのピスコなどが昨今世界中のカクテルBarでもてはやされている。
個人的には次はカシューアップル原料のフェニがきても面白いんじゃないかなって思っている。
リンゴとパプリカを足して2で割ったような酸のある味わいはカシューアップル原料の特徴唯一無二。

実はフェニは一部では徐々に認知度が上がっている。
2022年度におけるAsia Best Bar50のランキングにおいて4位にランクインしたインドのゴアの【Tesouro】というBarがある。
そこはやはりフェニの地元であるからして
フェニカクテルを推している。

Asia Best Bar50の4位のTesouro外観
たくさんのフェニカクテル
クミンフレーバーのフェニやレモンフェニなど



こういったTesouroのような影響力の強いBarがインド国内のカクテルカルチャー及び海外にも波及してフェニを有名にしていっている。

今後が非常に楽しみなお酒である。


因みにBenFiddichでしばらくFeni飲めるので気になる方はどうぞ!

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