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F おろうそくを想う(1)

お仏壇のろうそくは線香に火をつけるための道具くらいにしか考えてなかったのが、恥ずかしながら自分です。お仏壇屋に転じたことでお供え物は灯り・花・香りの三つが基本と知りました。灯りはほとけさんがわたしに向き合ってくださる時の智慧・花はほとけさんがわたしに注ぐいでくださる慈悲・香りはほとけさんとわたしのあいだに漂う清浄感。ご飯やお菓子以前に、灯り・花・香りが大事。

ろうそくというより、灯りが大事ということですが、ならばろうそくをどう考えるのか。

スーパーやドラッグストアで売られている白いろうそくは、石油化学製品です。お仏壇屋でも白いろうそくが一番たくさん販売されますが、これは大量生産が可能で価格が低いからです。お仏壇屋がかつて扱っていたのは、櫨(ハゼ)の実やハチミツなど自然のものから作ったろうそくでした。もちろん今でも扱っています。日本産の材料で作ったものは、和ろうそくと言います。

石油化学製品と自然の材料の品質的な違いで特徴的なのは、均一性です。一般的に道具は均一性が高いものが良いのかもしれませんが、木目の自然さが美しさを感じさせる建造物とかを考えると均一ばかりが良いとは限りません。和ろうそくの場合、その不均一さが灯りのゆらぎを醸しだしてくれます。

いきなり炎がおおきくなったり逆に小さくなったり。また時にはちいさくパチパチと音を立てながら炎が飛び散る様な燃え方をすることもあります。じーっと見つめていると何かを考えてるかのようです。熱くなったり落ち着いたりひらめいたり・・・。仏教において、灯りをほとけさんがわたしに向き合ってくださる時の智慧としたのは、灯りにゆらぎがあるからです。ほとけさんがわたしの揺れる心を見通し、智慧をフル稼働させて考えてくださるという感じです。大量生産のろうそくの灯りはけっしてゆらぎません。

旅先で、琵琶湖のほとりの町にある伝統的な和ろうそくの製造元を訪ねたことがあります。店主さんは百貨店の伝統工芸展などにも出られて、櫨の実を溶かした材料を素手で練ってろうそくにする技術を披露したりされているかたでした。「お線香はまだ伝統的な材料のものが求められていますが、ろうそくはみんな石油化学製品に代わろうとしています。このすばらしい和ろうそくの文化を絶やしていいものだろうかと世の中を心配しながら、わたしは伝統を守っています。」実に智慧を感じるひとことをいただきました。

櫨

ちなみにこの櫨は繁殖力が強いと聞きました。奈良の若草山を歩いた時に友人から教わったことです。もうすこし和ろうそくが盛り返してもいいのにと、思った次第です。