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⑨ チビチリガマ、オスプレイの羽音

電気の会社に居る時、沖縄に何度も出張させてもらいました。デビューしたての難しいパソコンや子供向けパソコンの営業でパソコンショップと大型量販店を巡ったり、町の電気屋さんのリニュアル改装に関わったりさせていただり、広大な見本市会場でのたくさんの県内の電気屋さんの合同展示即売会を企画したり、それなりに県内の営業仲間の方々と意思疎通をしていたつもりでした。仕事が終わればオキナワステーキやディスコティック、ライブハウスも楽しみました。

ただ同行してくださった10歳近く年上の先輩から「沖縄の酒を飲んで、遊びたかったら遊べ」でも「お前の後姿を見る限り、セールスとしては下の下だ」と言われました。具体的な事象はわかっていませんでしたが、都会の本社に対する沖縄の方々の微妙な遠慮とそれに負けないご当地のプライドをそれなりに感じていましたので、セールスとしてはゲのゲという響きは堪えました。ホテルの部屋で、ワンワン泣きました。

それからどうでしょう、30年は過ぎていると思います。若い僧侶の方の「沖縄に平和学習に行きませんか?」という提案で3年前から2年続けて沖縄戦の爪痕や現在の基地の街を訪ねる機会を得ました。

米軍が上陸した浜辺、従軍看護師を祀る「ひめゆりの塔」、地元の方が追い詰められて自害した防空壕「チビチリガマ」、その様子を描いた巨大な絵を展示する「佐喜眞美術館」、戦闘機の往来する「普天間基地」、埋め立てが進む基地移転先の「辺野古」、兵士による悲劇に出会った少女の現場、県知事の選挙を応援するライブハウス。そのすべてが30年前の出張では出会わなかった、いやほんとは出会うべきであった、ほんとうのオキナワがありました。

そこに案内してくださったのが、同じく浄土真宗のみおしえのもとに暮らす朋友(わたしたちの宗派でいう、仲間をあらわす言葉)でした。その方は「オスプレイの羽根が回転するヒュルヒュルという音には、神経を逆なでされるようなんですよ」と仰いました。そしてその方の話される言葉のひとことひとことが、30年前の先輩の言葉と同様に堪えました。気持ちを理解してさしあげられない「ゲのゲ」の自分でした。

だからどうなのと第三者に言われても、自分には答えようはありません。沖縄の方に対して、どうしようもありません。そのことを沖縄の方々は決して責めたりはされないのです。「いいんですよ、レジャーに来てくださいね。沖縄には透き通った青い海があります。きれいな女性が水着姿で戯れるビーチがあります。目の保養に来てくださってもいいんですよ」みたいなことを仰るのです。「でもあなたに少しでもわたしたちの気持ちが通じたならば、今日まさに目にされたオキナワの事実を、まだ知らない内地のお知り合いにお伝えいただけませんか」と付け加えられます。

2年続けて沖縄に行く機会になった若い僧侶の方には、ただ「よく提案してくださって有難う」と言葉を返したいと思いました。

まだ沖縄をご存じない方はコロナ禍があけたならば、青い海と水族館に行き、琉球料理と泡盛を楽しみ琉球民謡を聞き、そして沖縄戦の爪痕を訪れて帰って来られることをおすすめします。ここで理屈を述べる気はしません。