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「番狂わせ」とは言わせない! 菊花賞馬スリーロールス 激走のワケ?

「伝説の新馬戦」なるものがある。のちにチャンピオン級になる複数の馬たちが、偶然にも同じレースで対決していた新馬戦にほかならない。古い昭和の時代では、後にTTGとして語り継がれた3頭のうち、トウショウボーイとグリーングラスが同じ新馬戦でデビューしていたという話はあまりにも有名である。しかもそのレースには重賞3勝を挙げた名牝シービークインも参戦しており、後にそのシービークインにトウショウボーイが交配され、3冠馬ミスターシービーが生まれたというおまけまでついた。
 2000年代以降では、日本ダービー、ジャパンカップを制したジャングルポケット、朝日杯馬メジロベイリー、東京スポーツ杯2歳ステークスの勝ち馬で朝日杯フューチャリティステークス2着のタガノテイオーが合いまみれた札幌の新馬(2000年)、宝塚記念の勝ち馬アーネストリー、オークス馬トールポピー、皐月賞馬キャプテントゥーレがぶつかった阪神の新馬(2007年)などが有名である。

”伝説の新馬戦” アンライバルド、ブエナビスタ……


 そんな「伝説の新馬戦」の中で、もっとも有名な一戦と考えられているのは、2008年10月26日の京都競馬場で行われた芝1800メートルの新馬戦だろう。勝ち馬のアンライバルドは皐月賞馬となり、2着リーチザクラウンは重賞2勝でダービー2着、そして3着のブエナビスタに至っては桜花賞、オークスのクラシック2冠を含むGⅠ6勝という歴史的名牝として競馬史にその名を刻んだほどなのだ。
 この3頭が同じ新馬戦でデビューしていた事実だけでも驚きなのに、4着以下にもなかなかの馬が揃っている。5着のエイシンビートロンは、交流重賞勝ちなどダートのオープン馬として活躍していた。そして4着に入ったのが本稿の“主役”、スリーロールスである。

地味な血統 3戦目で未勝利脱出

  デビュー当初のスリーロールスは地味で目立たない存在であった。1~3着馬が最大手の社台グループ生産の派手な血統馬であるのに対して、こちらは日高の武牧場の出身。半兄にジャパンダートダービー2着馬のオペラハットがいるものの、社台系の良血に比べれば、いかにも地味であった。
 成績も同様で、1番人気に推された次走で5着に敗れ、3戦目にしてようやく未勝利を脱した程度だったのである。伝説の新馬で2、3着に敗れたリーチザクラウン、ブエナビスタがさっそく次走で勝ち上がり、その時点でクラシックの有力候補と見なされていたのとは、まさに対照的といわねばならない。
 初勝利を挙げたスリーロースのその後も、きらびやかな脚光を浴びるものではなかった。2勝目は3歳5月の500万下平場(現1勝クラス)。デビューから8戦を要していた。
 風向きが変わってきたのは、4か月の夏休みを取った後のことだ。復帰初戦こそ5着に敗れたものの、1000万下(現2勝クラス)の野分特別で4馬身差の圧勝劇を演じたのだ。
 勝ち時計の1分45秒0も極めて優秀だし、レース的にも「距離が延びればさらにおもしろい」と思わせる内容。ダンスインザダーク×ブライアンズタイムという血統も、いかにも長距離向きである。関係者や目の肥えたファンのあいだでは「菊花賞の穴馬」と目されるようになっていた。

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1番人気は同じ新馬戦で2着だったリーチザクラウン

 そして迎えた菊花賞。ダービー馬、ネオユニヴァース不在に加え、皐月賞馬アンライバルドの不調(ダービーで12着惨敗後、神戸新聞杯でも4着)もあってか、1番人気はダービー2着馬のリーチザクラウン。スリーロールスは8番人気だった。
 人気のリーチザクラウンは、いわゆる「危険な人気馬」だった。引っ掛かりがちな気性のため、距離の3000メートルが懸念されていたのである。そんな馬がレースを引っ張ったのだから、スタート直後から不穏な空気が漂っていたのは言うまでもない。
 一方、スリーロールスは好位の3番手あたりでリズムよく追走してた。しかも、1番枠の好枠を生かした距離ロスのないインピッタリの経済コースを通っている。向こう正面を下り、3、4コーナーを回っても脚色は衰えない。直線半ば過ぎでターフビジョンに驚いて外に膨れる場面はあったものの、逃げていたリーチザクラウンを交わすと、猛追してきたフォゲッタブルをハナ差だけ凌ぎ、先頭でゴールを駆け抜けた。デビュー目立たなかった馬が、なんと菊の大輪を手にしたのである。
 
 アンライバルドが皐月賞、ブエナビスタは桜花賞&オークス、そしてスリーロールスの菊花賞……。同じ新馬戦から3頭ものクラシックホースが誕生したのは競馬史上初めてのことであった。その後も同じ事象は起きていない。もっとも有名な“伝説の新馬戦”、あるいは“最強の新馬戦”と言われる所以である。
 ちなみに、3頭のGIホースを輩出した新馬戦には、2007年7月8日の阪神競馬場・芝1800メートルも知られるところ。ただ、こちらは阪神ジュベナイルフィリーズとオークスを勝ったトールポピー(2着)、皐月賞馬のキャプテントゥーレ(8着)が3歳クラシックを制したが、アーネストリー(1着)は古馬になってから宝塚記念を勝っていた。

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“お宝”は記憶の中にある!
珍宝堂井鶴斎先生の今年の菊花賞の予想は…… 👇

◎ハーツコンチェルト
〇ソールオリエンス
▲ドゥレッツァ

◎本命はハーツコンチェルト。新馬戦のときからの評判馬。前走の神戸新聞杯(GII、阪神芝2400メートル)は1番人気に推されたが5着。もともと叩かれて走る馬で、休み明け2戦目の上積みと日本ダービー(3着)で見せた、長くいい脚を使えるを強みに、最後の1冠を制す。

ちなみに、中京競馬デビューの馬は菊花賞で馬券になったことがない。そのジンクスも打ち破る。

○対抗は、皐月賞馬のソールオリエンス。日本ダービーは、タスティエーラをとらえきれず2着に泣いたが、皐月賞で魅せた末脚は驚異的。実績は3歳牡馬ナンバー1。

ドゥレッツァが▲単穴。4連勝で菊花賞に駒を進めてきた上がり馬。春のクラシックは棒に振ったが、勢いは1番!

さて、今年はどんなレースが待っているのか。
                                                                                                (珍宝堂井鶴斎)


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