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泉州弁が怖い

以前、運輸系企業様の「サービスマインド向上研修」の講師をさせて頂いた際の出来事です。

あるバス会社役員の方は3日間、熱心にご聴講下さり、研修が終わった日、私のところにいらっしゃいました。

「先生、実はうちの乗務員へのクレームで多いのが、『泉州弁が恐い』というヤツなんです。

 乗務員には悪気はないのですが、
 泉州弁ってキツイんですわ。

 お客様から見ると恐いんです。

 どうしたものかと思うのですが、
 言っても直らんのです。」

たびたびクレームがあり対応に苦慮している、と。

さて、
あなたなら、どう助言しますか?

1 接客マナー研修を受けさせましょう
2 方言は地域性だから、どうしようもないですよ
3 逆に方言をネタにコミュニケーションを深めては
4 その都度謝るしかないかなあ

99%、サービスに関わる人は「1」を支持するでしょう。 接遇マナー講師なら特に。

「客商売なんだからキチンとさせるべき」
「その都度、注意して教育を徹底すべき」

正論です。

とはいえ、
私としては何だか面白くありません。

私の思考回路はこんな感じです。

1 わはは判ります。直らないですよ。
どんな言葉に、お客様は立腹されたのでしょう。
2 本人はどう思っているのでしょうね。
3 上司であるあなたはどう思っているのですか。
4 本当に直したほうがいいですかね。
5 言葉を直せばサービスの質は一気に向上しますか。
6 問題の本質は、本当に「言葉」でしょうか。

この上司のお悩みを聴いて、
私はあることをふたつ思い出しました。

ひとつはスイスのビアホール。
もうひとつは福祉施設の言葉遣いの話です。

だいぶ前になりますが、
チューリッヒのビアホールでお客様と賑やかに
乾杯しました。

満席のテーブルを縫って働くのは、
強面でうっすらヒゲも生えているおばちゃん。

考えられないくらい恐かったのです。

接客とかおもてなしではなく、恐い。

 ビールを注文すると怒る
 私のピッチャーからグラスへの注ぎ方を見て怒る
 おつまみを食べようとすると怒る

私達のテーブルはレッドカード出されっぱなし。
なぜか、最初は判りませんでした。
(今でも判らない部分はありますが)

それでも、
うまいビールを何杯もお替わりしながら
酔った頭で考えてみると、こんなことを
思いついたのです。

 →そもそもドイツ語は恐く感じる
 →何を言っているか判らないから更に恐怖が増す
 →言葉だけじゃなくて表情も恐い(ような気がする)
 →悪気はもちろんない
 →仕事は熱心にしている
 →もちろんビールは絶品
 →そして働く姿、立ち居振る舞いは見事にプロ
 (ドヤ顔でジョッキを20個位、平気で持ち歩く姿)

もうひとつ、思ったことがあるのです。
それは、

 →自分達お客は大切にされて当然との思い込み
 (日本は客の側が「そう思えば」それが正しい
との決めつけがある)

日本ではほとんどのサービス業がお客をとても大切に扱ってくれます。
それはそれは優しく慇懃無礼に時にはお姫様のように。

それに慣れてしまった私はスイスのビアホールで「あり得ない」とびっくり仰天したのです。

場所はスイスと日本ですが、バスのドライバーさんにも同じことが言えるのではないでしょうか。

 →そもそも技術系職場の人は恐く感じる
 →何を言っているか判らないから更に恐怖が増す
 (泉州弁は慣れない人には聴き取りにくい)
 →言葉だけじゃなくて表情も恐い(ような気がする)

だから放置して良いというのではありません。
大事なことを二つ補足します。

 →でも、運転技術は最高
 →働く姿、立ち居振る舞いは見事
 (欲を言えば、高倉健のように)

このふたつがくっつけば、クレームには
ならないような気がするのです。

「恐い」というクレームは多くの場合、
その場では出ません。

あとから営業所や本社に申告があります。

と言うことは、単に「泉州弁」の問題だけではなく、乗車したバスのサービス全体について「五感」で何かを感じた可能性があります。

私が、接客や立ち居振る舞いが大切だと、
いつも力説するのは、

渋滞によるバスの遅延、満席などの混雑、
他の乗客の携帯電話やリクライニングへの
不快感など、さまざまな「プチストレス」が
巡り巡って、乗客としての臨界点を超えた時、

「泉州弁が恐い」

との表現で私達の前に現れるのです。

もしも、このような基本的な接客マナーに
関わるクレームの申告があったら、

「他に何か、お気づきになったことはございますか?」

と深堀りしてみてください。

「いや、言葉遣いだけだよ。それ意外は良かった。」

ということは少ないはずです。

クレームは「1点」のみを突いて表現されますが、その根っこには「本質的なサービスの軸」にスキがある場合がほとんどです。

だから、言葉遣いだけを直してもダメで、
むしろ、言葉はそのままで良いので、
運転技術を磨き、車内マナーの啓蒙をしっかりし、安全への意識向上を乗客と共に図る。

このような取組みが充分になされていない
ことへの「イエローカード」が出されているとの気づきを貰ったと考えるのが良いでしょう。

ふたつ目の「福祉施設」については、
長くなりますので、別の機会に書いてみます。

高萩徳宗

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