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社会人で必要なことは、すべて小田急で教わった【②駅員編<続き>】

小田急1年生は駅係員として働きました。温かくも厳しい(本当に厳しかった)先輩方に社会人のイロハを教えて貰い、田舎者が一人前になるために必要なことをたくさん教わりました。ひどく怒られたことは36年前の職場での出来事なのに、今でも鮮明に覚えています。

深夜1時前。ルーティーンの仕事で「線路清掃」というのがありました。日中は電車本数が多く、線路を歩けないので夜間、電車本数が少なくなる午前0時から1時にかけて、新人二人でほうきとちりとりを持って構内を掃除します。

ホームに散乱している吸い殻拾いと酔客の忘れ物(お好み焼きに形状がにた汚物)、そして線路に降りてタバコの吸い殻をトングで拾う。今でこそ駅構内は禁煙ですが、当時はホームでは普通に喫煙していたので、乗客が吸い殻をホームに捨てて足で火を消すのは当たり前。

吸い殻を、火を消さずに線路に投げ捨てることも普通でした。これを拾うのは本当に面倒くさい仕事です。タバコの吸い殻はほうきやトングで拾うのにコツが必要で、砂利の隙間に入った吸い殻を拾い上げるのは結構大変な作業でした。

清掃は必ずふたり一組でした。それには理由があります。作業安全です。一人がホームから線路に降りてタバコの吸い殻を拾っている間は、もうひとりは電車が接近してこないかを監視します。

とはいえ、作業に慣れてきて、かつ電車のダイヤは把握して頭の中に入っています。ある日、新人同期のSとふたりで、「ホーム清掃行ってきまーす」とほうきとちりとりを持って事務室を出た私たちは、ホームに上がると示し合わせて「お前は上りな、俺は下りホーム」と二手に分かれて掃除を始めました。どうせ電車は来ないし、寒いし、そのほうが時間短縮になるからと。

作業が終わり、ふたりで何喰わぬ顔で「戻りましたー」と報告すると、遅番の責任者であるH主任が鬼の形相です。どうしたのだろうと思う間もなく、

「お前ら、今、別々に掃除していたろ、コラ。」

と言うなり、近くにあった椅子をバコーンっと蹴飛ばしました。椅子は私のところへ飛んできて、避ける間もありません。

「あいたたた」。

「おどりゃー、お前ら。作業マニュアル通りにやらんかったら、命落とすぞ。死んでもいいのか」

どこかの組の方ですか、という迫力と鬼の形相に、私たちは身も縮まる思いで、ただただ謝るしかありませんでした。

作業マニュアルの順守は、駅で理念を叩き込まれ、車掌になってからも体に染みついてい日々業務にあたりましたが、その原点はH主任の椅子蹴飛ばし事件にあります。H主任さん、明け番でサングラスかけて事務所を出るとヤ〇ザにしか見ませんでした。本当に迫力ある主任さんでした。

【教訓】作業マニュアルには命が掛かっている。勝手に解釈してはならぬ

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