みずのさんたいへんか。①
「この子はわたし。
わたしも探しに行かなきゃ。
カイちゃんを。」
彼女は分厚いアンデルセンの本を閉じながら思いました。
春のある1日のことです。
電話を切って、初めて
彼が彼女にとって
何者かを理解したからです。
けれど手遅れでした。
受話器は置かれ、
繋がれていた糸は
ぷつんときれてしまつたのです。
耳の奥に残っている彼の声は
他に好きな子ができた、
もう連絡しないという
言葉だけでした。
もう何年も前に、
彼女はひとりぼっちになっていました。
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