Miss Americana

Miss Americana

今や全米、世界で最も愛されているといっても過言ではないアーティストTaylor Swift。

Taylor Swiftと聞いて誰もが一番に思い浮かべそうなのは、
彼氏をとっかえひっかえして、いつも恋愛ソングを歌っている金髪白人美女のイメージだろうか。(とはいえ、Taylorは14歳かそこらでデビューし、今30なのでこの16年間で実際真剣に付き合ったのは8人程度。と、考えると別に彼氏の数はいうほど多くもないので、これもメディアの思うツボなのかもしれないが。)

意外にも(?)デビュー当時から(私も当時高校生だったが)Taylorの曲を聞いて育ち、
これまではアルバムが出るたびに多少聞く程度でそこまでのファンでもなんでもなかったのだが、
1989以降彼女への見方が大分変わったといってもいい。

カントリーシンガーと銘打ちながらも、
カントリーには染まり切れていなかったTaylorのPOP節が1989で80sシンセPOPという新たな境地で花咲き、
これを機にTaylorを聞き始めたというインディーファンも多かったのではないかと思う。

Taylorのデビュー当時からの、ではないがReputation以降のTaylorを追ったNetflixドキュメンタリーのMiss Americanaを見て、
そんな彼女の成長物語に図らずも涙してしまった。

というのも、Taylorは知っての通り皆が知っているようなアーティストだが、
特にTaylorがどうやって物事を考えているのか、どういった軌跡を歩んでアルバムを出してきたのかというのは、正直1989以前はどうでも良かったというか、気にもならなかった。

アーティストとしての彼女の心境や成長がここまで色んな人にとって気になるものになったきっかけ、
ろんな人がTaylorを話題にするようになったきっかけ、そしてTaylor自身が変わったきっかけは、やはりKanye West vs Taylor Swiftの論争の件だろう。

一連の流れの始まりは、VMAでの授賞式のこと。
VMAでKanyeが受賞の喜びにあふれたTaylorからマイクを奪って、VMAはBeyonceが受賞するに値する!と叫んでTaylorは言葉を失った。
その後仲直りするも、その後KanyeはTaylorのことをうたった曲を出し、その一部にはTaylorが認めていない内容まで含まれており、
言った言ってない論争に発展。

その後Kanyeの妻Kim Kardasianが無断で録音した電話を勝手に公開。

これは後でTaylorが正しかったことが判明するのだが、もちろんKimは夫Kanyeに都合の良いように録音の内容を切り取って公開した為、
一気にTaylorは嘘つきだとメディアにこき下ろされたり、Twitterで#TaylorIsOverPartyなどというハッシュタグが一時TOPになるなど、彼女に対するブーイングが世に渦巻く。

Miss Americanaを見て知ったのは、
彼女がデビュー当時から、知らない人やファンたちからの賞賛を得ることにこそ人生の重きを置いていたこと、
そしてそういった人たちにどうみられるのかを軸にしていたということだ。

メディアに悪く書かれないような容姿を保つこと、政治的発言をしないこと、頑張って多くの人に認められるような曲を出すこと。

アーティストというのは確かに多くの人に認められてこそ人気が出て有名になって稼げるわけだが、
そこまで他人からの承認欲求に飢えて、それが人生そのものになっているとまでは思わなかった。
(セレブや有名アーティストというのは、時に自分勝手なことをしてこそアーティストとも思っていたので)

だが、Miss AmericanaでTaylorはこのKanyeとの騒動で、今まで築き上げてきた自分の望むような賞賛をほぼ全て失った。
自分の価値観をひっくり返され、他人の賞賛を頼りに生きるのを辞めようと決意する。

それで出来たのがReputationだ。
結局このアルバムはこれまでのように色々な賞は獲得できなかったが、それでもTaylorがこうしたメディアや世間からのバッシングを糧にむしろそれを昇華しつくした素晴らしい対抗心的なアルバムだろう。

こうしたバッシングなどを受けまくって正常でいられる人間はそう多くないはずだ。

Taylorは今までもこうした世間からの目線に常にさらされながらも、ドラッグや酒におぼれたこともないし、
強い精神力で作品に昇華してしまうというところが本当にすごいと思うし、実際にTaylorの母親も同様のことをドキュメンタリーで口にしていた。

実のところTaylorのライブには一度も行ったことがないのだが、
昔見ていたライブ映像などでは笑顔で舞台を跳ねまわりながらギターをかき鳴らして楽しそうに演奏する姿が印象的だった。

だが、RepuationツアーでのTaylorのライブを見てそれまでのTaylorへのイメージががらりと変わった。

Taylorはこのドキュメンタリー以外のインタビューで、Reputationリリース当時はKanye騒動での世間のバッシングをまだ乗り越えられておらず、
ツアーにツアーをこなし、ただファンの為だけにライブをこなしてやり過ごしていた、と言っていたが、
舞台上でそんな彼女を批判する人たちも寄せ付けないような、シャウトしまくり、頭を振り回しながら全身全霊で表現する彼女の姿はもはやそんな世評なんかどうでも良いぐらいカッコよかった。
(NetflixにはReputationのツアー動画も上がっているので是非見てほしい)

また、もう一つドキュメンタリーでメインとして取り上げられていることは、Taylorが最近自身の政治観を公にし始めたことだ。
きっかけは、Taylor自身がティーンの頃に受けた性的暴行に対する裁判だ。

とあるラジオ番組に出演したTaylorがその時の番組ホストと写真を撮った際に、後ろからおしりをつかまれ、
それをすぐさま番組側に訴えたところ、そのホストは番組から解雇された。

そうして職を失ったラジオホストがその後職が得られず、Taylorを訴えたのだ。

性的暴行をしてそれを咎められた本人が、性的暴行をした人間にさらに裁判という形で貶めようとするなど、聞いただけで恐ろしいが、
Taylorはそれを受けて立ち、そして勝った。

だが、裁判に勝ってもTaylorは全く嬉しくもなかったし、
むしろ裁判の最中に受ける加害者の弁護側からの質問などでとても人間性を踏みにじられて、傷ついたということを強調していた。
Taylorの場合十分な証拠と、目撃者がおり、難なく勝訴出来たが、もし証拠不十分だったら?ということを考えると...

Taylorの地元ナッシュビルはカントリー音楽の地ともいえる場所だが、同時に保守的な地域でもある。
そんなTaylorの地元で、女性だが女性が持つべき権利を全て否定する女性が上院議員に当選しようとしていた。

そんな女性が選挙に当選し、女性の権利を踏みにじることに耐えられなかったTaylorが、ここで初めて自身の政治観を公開したのだった。

そして彼女のおかげで多くの若者が投票に行った(結果はすんでのところで勝てなかったのだが)

だが、彼女が自身の政治観を公開するまで、多くのメディアはTaylorの地元がナッシュビルということもあって、
保守党支持なのだと思っていたというところが驚きである。

Taylorは、私は常に世の中で自分が正しいと思える側にいたい、と言っていた。

政治観を公開する際、自分のレーベルの重役でもあった父親たちには大反対されており、
そんなことをしたらスタジアムに入るファンが半分になるぞ、と言っていたが、それでも数年後に絶対後悔する行いをしたくないというTaylorの主張に根負けした。

そしてそれは彼女があこがれていたカントリーミュージシャンのDixie Chicksが自身の政治観を公表して、
驚くほどのバッシングを受けたり炎上した過去があったからである。

女性でカントリーアーティストが当時のブッシュ大統領のイラク出兵に反対しただけで、
あのバカ女だとか、調教が必要だとか、そういった大批判にまで発展していたのだ。

結局選挙には得票数が足りず民主党は落選してしまうが、
それでも若者に希望を失わないTaylorが書いた曲、Only the Youngは今までのTaylorからは考えられないほど政治色に満ちた曲だ。

個人的にティーンやこれまでのTaylorはただきれいで恋愛の曲ばっかり書いている、恋愛中毒の女の子としか思っていなかったが、
こうした数々の常人が乗り越えられないような困難をいくつも乗り越えて、さらにアーティストとしても人としても格段に成長してきたのだと思うと、もはやTaylorの母親になったような気分で、よくやったTaylorと叫びたくなる。

また、この1時間のドキュメンタリーでは、上記の性的暴行の裁判事件やTaylorの政治観、Kanyeとの騒動にメインフォーカスが当たっているが、
個人的にもっと見たかったと思ったのは、The Manの製作過程で、プロデューサーがTaylorに対してそんなに毎日計算しながら生きてこないといけなかったんだね、と言っていた場面だ。
Tayloはそれに対して、毎日世間に何をしたらどう思われるかを計算しながら生きていかないと蹴落とされる、でも計算高すぎると嫌われる、でも慣れた、と言っていて、
世間からどう思われるのか毎日考えながら生きないとあの世界では生き残れないのか、とゾッとしたりもした。

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