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*凹的ソルフェージュ考①~音楽をネイティブに理解するために~

この場所は筆者が末永く仲良くしてもらえたら嬉しいなと思っている友人や仲間(音楽に縁のある人生を歩む人も、そうでない人も)に自分の考えや知識、ときには悩みを共有してもらってなにか広げていくヒントがお互いに見つけられたらというコンセプトで始めています。

そのため、以前の記事を読んだ友人から
『ソルフェージュって何?』と聞かれるなんてことにもちゃんと向き合っていきたいなと。

経験者にとって入口で出会う言葉だからこそちゃんと噛み砕いて説明するのが難しかったりもするし、
自分にとっても、自分と同じ界隈で活動している人にも共に再考する機会となればなぁという思いがあるので、一般向けになるべく要素を織り交ぜつつも真摯に向き合って書いていくつもりです。
なので別に分かるからいいよと素通りせず見て行ってもらえれば幸いです。


『ソルフェージュ』という言葉の意味

これについては書き方をマズると方々にケンカを売ることになりそうなのでここは敢えてWikipedia様の項目のリンクを参照いただきたいんですが、リンク先の文章を読んだって音楽に縁のない暮らしをしている方にはピンとこない内容ですよね?
なので


ソルフェージュ』『フォルマシオン・ミュジカル


というキーワードを用いてざっくり解説すると

①辞書に載ってる言葉を額面通り暗記し、とにかく早くその記憶を引き出せるための訓練をするのが『ソルフェージュ』(←リンクから飛べば簡単な実践もできるのでゲーム感覚でやってみるとなんとなくお分かりいただけるんじゃないかと思われます)

②長年居住して初めて分かる、辞書に載っていないニュアンスまで言葉の意味や根底にある思想を理解し尊重するための教育が『フォルマシオン・ミュジカル』(詳細ページへのリンクがうまく貼れなかったんですが、この方のページの中で解説されているものが分かりやすくてオススメです)


…とまぁこんな感じなんですが、
①に②の要素を含めて『ソルフェージュ』として教育されている場合もあったり、①にウィキのページでも出てくる『リトミック』や『インプロヴィゼーション』などを絡めた幼児期の音楽教育を行う音楽教室などはそれらを総称して『ソルフェージュ』と呼ぶことがあったり、だいたいの音大受験にソルフェージュと共に課せられる『楽典』と呼ばれる座学的側面に寄った分野が少し②と被る領域だったりもするので、①に関しては検索してヒットしたものがどこまでを指すかを見極める必要があります。

ひとまず今回は①と②をそれぞれ狭義として項目立てて解説していきます。

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①知るは最低限のコミュニケーションのマナー『ソルフェージュ』


近年ではご時世的な事情や出生者数の減少により一般的な受験者層が減少している為どこの音楽大学も学生の確保に苦戦を強いられており、楽典と共に受験科目としては設置しない受験方式を取る大学も増えてきているソルフェージュ。
それでも入学後に1ミリも取り扱わないということは基本的には考えられません。

既存の音楽を読み取るにはリズム・メロディー・ハーモニーなどを正確に聴き取る能力・読み取る能力が必要不可欠です。
前者はいわゆる『耳コピ』というスキルにも繋がってくるもので(これがあったからずいぶん重宝したという*凹の奇特な実体験については続編で書く予定です)現代は各種配信・記録媒体の充実により実践のハードルがグンと低くなりましたが、大昔は生演奏を聴く以外は楽譜として記されたものを読み解く以外に手段がありませんでした。
読み取るための訓練として書き取りを行いますが、書き取りができれば、既存のものだけでなく自分で作ったものを人に情報を広く伝えることができますね。

共通の言語を話せない相手にも伝えられる手段である楽譜を発明したり、より正確に情報を伝えられるように進化させていった先人たちは偉大ですね。

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では、聴き取り・読み取り・書き取りができれば実践の場で通用するのでしょうか?

プロを目指す若者へ向けた育成レッスンやプロの現場では、短いスパンで大量の楽譜を読みさばき、演奏の場に上げなければなりません。
レッスンピアニストやオペラの稽古ピアニスト、スタジオミュージシャン、現代曲のスペシャリストなんかは譜面を渡されて練習するまで期間がほぼ与えられなかったり、場合によっては初見で闘わなければならないこともザラです。
歌手のコンディションによっては、その場で移調しなければならないなんてことも。
そんな時、『時間を掛ければ読めるのに』は通用しません。

もちろん音楽に携わる人種の中でも速いタイプ遅いタイプはあって、必ずしもその速さがその人の持つ音楽性の豊かさとはイコールとは言えないですし、上記のタイプの仕事をする人間はある種職人的能力値に特化しています。

ですが、早く譜読みが終わればより深い練習に移行できるのは誰にとってもメリットと言えるのではないでしょうか。
質の高い練習の時間を増やすための訓練とも呼べるものが、ソルフェージュとも言えるでしょう。

また、前述の内容は主に独奏を想定したものでしたが、これがアンサンブルとなった場合、楽譜が読めるということがより重要になってきます。
パート譜だけを見て演奏するのは困難なほど複雑な作品の場合は全員が総譜(スコア)を見ながら演奏することもありますが、基本的には指揮者やピアニスト以外は全てのパートの情報が詰まった総譜ではなく、演奏中に譜めくりがしやすく、奏者にとって効率のいいパート譜だけを見て演奏します。

全奏者が予めスコアに目を通しておくことが理想的ですが、特に新作の場合、参考にできる音源なともなく、譜読み期間も限られていることから困難を強いられる状況も少なくありません。
指揮者やピアニスト・首席奏者らがイニシアチブを取ったり、みんなでスコアに齧り付きながら現場で交通整理を行うなんてこともしばしば。
そんな時、共通言語として読譜能力が必要になってくるわけです。
誰かが『あー俺ここ半拍ズレてんのね、オッケーオッケー』なんて言ってるそばで何のことやらチンプンカンプンではまるで闘えないというわけです。

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読譜力が必要なのはなにも演奏家に限った話ではありません。作曲家も、というかむしろ作曲家こそ欠かせないのです(何度も言うように、アイデアの天才かどうかや音楽の精神性の素晴らしさとこの能力はイコールではありませんが)。

今でこそ楽譜作成ソフトに頼って実音で入力して変換、なんてこともたやすいですが、とはいえリハーサルの現場では奏者は“自分の楽器のドレミファソラシド”【*1】で質問や要求をしてくるので、そんなハッタリは長くは続きません。多少の得意不得意はあれど、仕事が成り立つ最低限の読み書きは現場で独力でできなくてはなりません。


…というような実践に必要で高ければ便利なスキル、それが①でいうところの『ソルフェージュ』です。


②倫理であり、哲学であり、歴史であり、考古学である『フォルマシオン・ミュジカル』

①の能力が最低限備わっている事を前提として、あるいは①の内容にも触れながら音楽に対する洞察力を養っていくために必要となるのが②です。

作曲家のアイデアや作品に込められた精神性について掘り下げるのはもちろん、作曲家が生きた時代の音楽の様式や楽器の発展の歴史、ひいては宗教的思想や世界情勢が音楽に与えた可能性のある影響にいたるまで、分析・考察しうる視点は多岐にわたります。

そのうえで留意すべきなのは(これは領域の範疇を超えているようにも思われますが)様々な研鑽を積んできた相手が積み上げてきたものもまたかけがえのない財産で、誰からも侵されるものではない、ということです。

表現活動をする以上、確固たる信念を持って発表することはとても大切なことですが、他者の見地に対し妥協して合わせるわけではなく、尊重したうえで耳を開くという“思いやり”と、その先にある作曲家や作品に対する“リスペクトの気持ち”がないと、素晴らしいアンサンブルは生まれません。
この太字で示した2つの柱をモットーに能力を高める意識を持つことが最も大切なことなのではないかなと思います。

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①+②=【傾聴力】×【創造力】≒【読譜力】

発展途上な*凹の経験の中で得たものや周りの音楽家と呼ばれる方々を曲がりなりにも見てきたなかで思うに、①と②の最も豊かな融合点で得られるのが

【傾聴力】と【創造力】

ではないかなと。

音楽に限らず、人の話を正確に聞き取り理解するってけっこう会話力や人間力の要ることじゃありませんか?

『聞き上手こそ会話上手』とはよく言ったものですが、相手の話を最後まで聞いてから…でもなく完全に遮ってでもなく、いい塩梅で相槌を打って相手の話を引き出せるのって一瞬の才能だと思うんですが、これとよく似ている気がします。

出歯亀的に相手の音を逐一聴こうとすることは初期段階では必要なことかもしれませんが、実践の現場ではリアルタイムの反応ではなく『準備された反応』となってしまい、相手に窮屈さや恩着せがましい印象を与えてしまい、表現に制約を与えてしまうのではないかと思います。

…思い返せば反省することだらけですが。

空気の振動によって音は鳴るので、自分を取り巻く空気を味方につけ、同調する。
相手の発するものにも耳を傾け、同調する。けど、迎合はしない。

聞く』でも
聞いてるつもり』でもなく
聞こえてくる

…自戒も込めて書いてるけどこれ、つくづく宗教的な修行みたいなもんだよなぁ。

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傾聴力】と【創造力】を繋ぐものが【想像力】だと思ってるんですが、そんな架け橋の向こう側にある【創造力】が指すものというのは、決して作品を創作する能力だけを指すのではなく、

楽譜から読み取ったことを音に乗せて自由に遊ぶこと

なんじゃないかなぁと思います。

(これ、前記事の師匠の言葉にも繋がってくるんじゃないか。ひぃぃ…っ‼︎)


いつもいつも精度・解像度高く読み取って再現できているかと言われれば全然ですが、それでも自分なりのその時々での最高到達点かな…と思しき境地に立てた時には、
まるで楽譜がQRコードで、それを読み取って作曲家の言葉や息遣い、体温までもが感じられたような気がして、スルスル楽譜の内容が入ってくるような感覚が得られたりします。
息遣いや体温が感じられる仮想現実。魔法のランプの世界観てこんな感じなのかな。(なんか違う気がする)

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_仲間のためにも、音楽のためにも、豊かでありたい今日この頃。

【*1】楽器ごとにト音記号やヘ音記号みたいな音域をカバーするのに相応しいネイティブな譜表が存在して(なるべく加線が少ない、五線内に収まるものをチョイスしないと、総譜になった際に他のパートを突き破っちゃうからです。あと単純に毎回加線を数えるのも効率悪いですし)それぞれの譜表が指し示す『ド』が異なるのです。これを作曲家や指揮者は分け隔てなく読めなくてはなりません。…余談ですが*凹は学生時代お世話になったソルフェージュの先生から『あなたはネイティブに全部読めなくちゃいけない人種です(にっこり)』と告げられ、いj…鍛えてもらいました(にっこり)※その先生のことは今でも大好きです

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