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黒子のバスケ

「いや、やっぱいらねえわ。お前にあげる。んで、もう帰れ。」


私は小学生の時ミニバスケのクラブに所属していた。

その地域はバスケ人口が少ないこともあって、スラムダンクに夢中で練習もたくさんしていたことから地域の選抜チームにも呼ばれたりしていた。

練習試合の相手は大抵、同じ地元の中学校のチームで中学1、2年生チームと私たち小学校6年生チームで毎月の様に練習試合が組まれていた。

私が育った地域は絵に描いたような田舎でぐれる人が多かったので、その中学校のバスケチームもガラが悪く、私たちはその練習試合の日がいつも怖かった。

それでも中には優しい先輩もいて、K先輩はその一人だった。

弱小のチームの中では唯一と言って良いほどバスケがうまく、背が高くて監督とのやりとりからも期待されている選手であることは明らかだった。

私の事を褒めてくれて、中学生になったらバスケ部に入る事を熱心に誘ってくれたりしていた。


バスケットボールだけでなく、身体能力も高かった先輩は、体力トレーニングの仕方、基礎のトレーニングの大事さ、ボール持った時の体の使い方、相手チームの動きからの作戦の立て方など、何もわかっていなかった私に丁寧に教えてくれた。

兄ができたようで本当に嬉しく、バスケットにどんどんハマり、練習試合の日が楽しみになっていった。


そんなK先輩がある日突然、練習試合に来なくなった。

どうやら部活も辞めたらしい。

ただでさえ荒れがちだった練習試合が、雰囲気を和ませる人を失った事でさらに険悪になっていった。


週末のある日、私と兄弟で地元のゲームセンターに遊びに行った時、K先輩を見つけた。

髪の毛は赤くなり、耳のあらゆる部分にピアスが開けられ、破れたみたいな真っ黒な服を着ていたけれど間違いなくK先輩だった。

私が見つけると、その視線に気づいた先輩が挨拶をしてくれた。


「これでさ、ジュース買ってきて。」

明らかにK先輩の周りの集団はそのゲームセンターの中でも異質を放っており、誰もが遠巻きに警戒しているのがわかった。


「何でバスケやめたんですか?上手かったのに。」

先輩は私の質問には答えず、「良いから早く」とだけ言った。


お釣りと共にジュースを渡そうとすると、鋭い目線になった先輩が、

「もう帰れ。こんなとこ来んな。」

と私と兄弟をゲームセンターから追い出した。


訳がわからなかったが、何か返答できる雰囲気ではなかったので大人しく退散し、向かい側のマクドナルドで兄弟とシェイクを飲んでいた。


そうすると、さっきゲームセンターにいた他の少年たちの何人かがなだれ込むように入ってきた。

「いや、怖!めっちゃカツアゲされたやん!500円も出してもうた!」

「あのピアスのやつ、目つきやばすぎるやん。もうあのゲーセン行かんとこうや。いややわ。」

聞き耳を立てていると、どうやら私たちがゲームセンターから出た途端にK先輩たちの集団が、ゲームセンターにいた他の少年たちを一斉にカツアゲし出したらしい。

どうしちゃったんですか?あんなに真っ直ぐにバスケやっていたのになにがあったんですか?私と一緒にバスケする約束はどこにいったんですか?

って言うかなり寂しかった感情が、思い出された。





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