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【ショートショート】理科室まがった

 学校内で曲がっているべき教室の一位は理科室だろう。

 僕は夢中で惚れ薬を作った。教室の腰を折る大きな柱の陰から呼び出しておいた彼女に向かって惚れ薬を揮発させて扇風機で流していく。うっとりした顔になったのを確認し、僕は風上から姿を現した。

 惚れ薬を嗅いではじめて見た異性の僕に、彼女は恋をする。その効果は何年にもわたり、やがて僕たちは結婚した。



 家庭内で曲がっているべき部屋の一位はLDKだ。キッチンからリビングは見通せないが、匂いだけは流れていく。

 リビングには中学生の時に、素敵な香りをプレゼントしてくれた彼がいる。

 彼が柱の陰から真っ赤な顔で現れたとき、私のためにこの香りを懸命に作ってくれたのだとわかった。そのひたむきな気持ちが嬉しくて、私たちは付き合ったのだ。


「この匂い、今日はから揚げだね。ポテトもあるかな」

 リビングから彼の声がする。私は「御名答」と返事をしながらほほ笑んだ。

 私は毎日この曲がった部屋で彼に魔法をかけている。


(409字)



前回に引き続き、たらはかに(田原にか)様の企画に乗っかっています。


今回のテーマは「理科室」「まがった」。

頭が固いもので、なかなか理科室を曲げられませんでした。
皆様のぐにゃぐにゃの理科室を観察しに行きます。


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