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【ショートショート】銀河売り#シロクマ文芸部

「銀河売りになる」

 楓真が真面目な顔をして私に宣言した。私は型に流し入れた羊羹から手を放し、もうすぐ六歳になる我が子を見つめた。

「あら、ママと一緒に作ってくれるんじゃないの?」

「ちがうよ。パパが取ってくるでしょ、それをママが作るでしょ、それをぼくが売るの」

 良いことを思いついたというように、胸を張って嬉しそうに笑う。自然と私の顔も緩んでしまう。

 夫はタイで出会ったバタフライピーに魅了され、日本で仕入れ、販売を始めた恐らく最初の人だったと思う。販売をはじめて七年はほとんど売れなかった。

 味はクセが無いどころかほとんどしない。だが、日本人には青い飲食物はそう受け入れられなかった。私は夫を手伝いながら、バタフライピーの青を利用したレシピを考案し続け、クックパッドに乗せ続けた。今では専用サイトでバタフライピーティーだけでなく、青空ゼリーや二色の深海ゼリー、アジサイゼリーの販売を始めている。

 そして今度は和菓子に挑戦しようと、羊羹のレシピを考えているところだ。

 昨日の三度目のレシピは真夜中色の羊羹に金粉を散らしたものだった。夕飯後にみんなで味見をしようと取り出すと、楓真は目を輝かせて「銀河だ」と叫んだ。

 元々は七夕に合わせて「天の川」という名前で売り出そうと思っていたけれど、「銀河」なら年中販売できるな、と夫と話した。

 私は二層に分けた四度目のレシピの羊羹をそっと冷蔵庫に入れる。

「じゃあ楓真。この羊羹が固まったら、ばあばに売りに行こうか」

「うん!」

 楓真は早速、宇宙柄のリュックとつばの広い帽子をかぶり、ソファで足をブラブラとさせて冷蔵庫をじっと見つめる。私は苦笑しながら二つのコップに麦茶を入れた。


(696字)



シロクマ文芸部に体験入部中です。

今回のテーマは「銀河売り」。
例によって続く言葉が浮かばないやつです。

なお、バタフライピーとは↓こういうやつです。レモンとかを入れると青→紫へ変わります。リトマス試験紙みたいですね。


で、天の川ようかんというのはこれ。
天の川というのは一般的な呼び名になってきているようです。


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