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【ショートショート】火星の別件逮捕#毎週ショートショートnote

 郷に入っては郷に従え、と先輩に肩を叩かれて行った先は火星だった。火星は数年前まで鎖国ならぬ鎖星していたのだ。手足が二本ずつしかない僕を遠巻きに見て、ひそひそと話しているのが視界の隅に映る。なんだか落ち着かない。

 家に帰ると、寝室にある水槽のクラゲに、ただいま、と声をかけた。地球から連れてきた唯一の仲間だ。腹を割って話ができるのは彼等だけだ。


 ある日、仕事帰りに立ち寄った小料理屋で、彼女と出会った。彼女はクラゲのようにたおやかに揺らめいていた。僕を見て、きらきらと体を発光させる。

 僕はテーブルに乗せた彼女の手にそっと触れる。途端に彼女は手を引っ込めて、体を黒く尖らせた。すぐに制服姿の火星人が現れ、僕を拘束する。

 知らなかったのだが、初対面の異性に触れるのは火星では違法らしい。

 お前は叩けば色々とホコリが出そうだな、と警官はにやりと笑うと、部下と家宅捜索の令状の話をする。僕は家で待つクラゲの事を心配しながら連行されていく。


(410字)



前回に引き続き、たらはかに(田原にか)様の企画に乗っかっています。

今回のテーマは「火星の」「別件逮捕」。

……先生! 火星の法律がわかりません!
ルールの分からない世界のルールの隙間を突くような話ですね。
諸先輩方のを読んで勉強させていただきます。

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