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舞台「明るい夜に出かけて」感想

下北沢にある本多劇場で行われた舞台「明るい夜に出かけて」に、好きなアイドルがいるグループ「7 MEN 侍」の所属メンバー、今野大輝さん(以下「こんぴー」と呼びます)が出ているので、観てきた。「一瞬の風になれ」を始めとした様々な小説を世に送り出している作家、佐藤多佳子さんの小説を舞台化した演目だ。

観劇後、心が洗われるような気持ちになった。この心の動きを書き記しておきたい。
(2023年3月26日現在、まだ大阪と群馬で公演が控えているので、え、近いから行こうかなと思った方はぜひ。)

あらすじ(ネタバレ含)

主人公の富山は大学生だが、人間関係のトラブルにより現在休学している。現状をリセットすべく、知らない街で一人暮らしとコンビニバイトを始めた。深夜ラジオのヘビーリスナーで、『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』は今も欠かさず聴き続けている。

旧友やコンビニでのバイトを通じて出会った人達との関わりの中で、富山は過去に向き合ったり、新たに人間関係を丁寧に築いたり、コンビニの仕事への真摯さが増したりしながら少しだけ成長していく様が、深夜ラジオの描写を織り交ぜながら描かれている(と解釈している)。

生きてる実感をもたらす「怠さ」

主人公の富山は、うろ覚えで恐縮だが、「夏のバイトは、蒸し暑くて怠い。でもその怠さこそが、生きている実感って感じがする。」というようなことを言う。また、新しく入ってきたやる気なしバイトの「あらいさん」に少しでも協力して仕事をやってもらうべくトライするも、中々上手くいかない、という場面も出てくる。

自分は社会人になり数年が経つ。仕事は毎日ダルくて人間関係の神経戦もあって、でも劇中ではそのだるさを生きている実感と言ってくれたことがなんだかとても嬉しかった。
最近は仕事にも閉塞感があり、趣味の時間だってアイドルオタクという人間を一方的に消費している以上やるせない感情になることもあり、恋愛は嫌いで、長年の友達ともちょっとずつ違う価値観が育っていって昔みたいには盛り上がれなかったりする、そんな毎日だけど、そういうありふれてる少しささくれた日常のことだって、そっと肯定して貰えたような、そんな気分になった。

芝居から伝わる街の空気感

劇場の中にいながら、劇中に出てくる街の空気の手触りみたいな、そんな感じのものが伝わってきて、それも嬉しかった。
(おそらく富山にとって庭のような場所であろう)下北沢の古着屋の活気のある雰囲気とか、ほんとに下北に昼間遊びに来たみたいだった。
また、富山の働くコンビニのある金沢八景についても、神奈川の海のそばの、どこかのどかな雰囲気とか、潮の匂いとか、そういうのも少し感じた。先日、八景にほぼ初めて(うんと小さい頃連れて行ってもらった八景島シーパラダイス以来!)行ったのだが、劇中に感じた柔らかい街の雰囲気と、実際の八景の街並みの空気感は近いものがあるなぁと思ったりした。
劇場にいながら、知ってる街が目の前で再現されたり、知らない場所の雰囲気が想像できたりするのはとても素敵な体験だった。

アルピーANNの追体験

とか言ったらリスナーに怒られてしまいそうだが、馴染みのないラジオのネタの面白さをその場で一緒に、高い温度感で体験できるのは人間が目の前で言葉と身体で表現するからこそだったりするのかなぁとか思った(もちろん小説をはじめ、様々な媒体だからこそできる表現というのはあるのだろうけど)。そう思うくらい、どこかの街の知らない中学生リスナーがANNに投稿して、富山達も(そして劇場に座っている観客も)聴いているという情景を目の前で見たのは、アルピーラジオを聴いたことのなかった自分もその世界に連れて行ってもらえたようで嬉しかった。
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実は昔原作小説を読んだことがあるのだが、ほぼ同じ話なのに、いつどの媒体で触れるかによって感じ方が変わるものだなと思った。小説もまた読み返したい。

今、日々の生活にちょっと疲れている状態で、この演目を観れて良かったな。
私の好きなジャニーズJr.のユニット「7 MEN 侍」は個々のメンバーが様々な演劇作品に出る頻度がそれなりにあり、その思わぬ副次効果で演劇を観に行くことそのものが好きになった。お陰で好きなアイドルが出ている訳ではない演劇も観に行くようにはなったのだけれど、この作品については絶対にこんぴーが出てなければ観に行かなかっただろうなという確信があるので、アイドルを好きになることで素敵な体験ができて、すごく良かったな、と心から思えた。

また、こんな夜があるといい。

おわり

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