まわりくどい二人のまわりくどい気持ちの伝え方は大胆でむしろまわりくどいので舌打ちをしてしまう
幸運なことに今の僕からは信じられない話だけど、子どもの頃、体が弱くて入退院を繰り返していた時期があった。だから、僕はaikoの曲の中でも「舌打ち」が結構好きだ。
一般的には恋の病と言われる病気のことを、心が巣くうと表現しているのも僕はとても好きだ(aikoファンだから、僕はこの病気のことを「愛の病」というけど)。
もちろん、この舌打ちという曲、病気が主題なわけではなくて、素直に伝えたいことを伝えられなくて回りくどい言い方をしてしまう、そんな自分に舌打ちをしている、という内容だ。
この前の関ジャムのaiko特集で、「アスパラ」は歌詞にアスパラという単語が出てこないことに触れてたけど、この舌打ちもそのパターンで、歌詞に舌打ちという言葉は出てこない。
それでも、回りくどい、もどかしい、情けない自分自身に舌打ちしている情景を、畳みかけるような歌詞とアップテンポな曲調で伝えてくるのは、さすがaikoというしかない。
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回りくどい、で思い出したけど、最近とても回りくどい恋愛物の映画をアマプラで観た。「まわりくどい二人のまわりくどい気持ちの伝え方は大胆でむしろまわりくどい」だ。だいいち、タイトルからして超絶回りくどい。
このお話は「半径1メートルの君」というオムニバス形式の映画の一つで、吉本の芸人や旬の俳優や脚本家が集結して作られた8つのショートストーリーの一つだ。
この回りくどい話は、白石聖さんがカフェの店主、ジャルジャルの後藤さんが近くの服屋の経営者を演じていて、閉店間際の夜のカフェでの二人のやり取りというワンシチュエーションもの。脚本はジャルジャルの福徳さん。舞台挨拶では相方愛に溢れるいじりを炸裂させていた。
後藤さんが白石さんのカフェに通い始めて約一年、明らかにお互い好意を感じているのに、お互いにそれをストレートに出さずに、ともかく回りくどい会話が続く。「柴犬」の読み方でちょっとした言い争いをしたりとか、ミルクレープの隠し味の話とか。このミルクレープの隠し味の秘密は最後のほうで明かされるんだけど、まあこれが本当に回りくどい。
気持ちはわかる。何となく相手の好意がうっすらと伝わってくるし、自分の好意もうっすらと伝わっているようなほのかな感触がある時期。そのままの状態でも楽しいし幸せを感じるから、もっと相手のことを知りたいと思う気持ちとともに、現在のぬるい幸せをリスクにさらしたくないという気持ちも高まる。
結局、映画の中では、後藤さんが語るあまりにも回りくどい(というか、はたから見ればかなり気持ち悪い)話に白石さんが怒ってしまって、後藤さんはカフェから追い出されてしまう。その時に白石さんが店先で放った一言がとても印象的だった。
「そもそも、相手に気づかれないアプローチなんて無意味なんです。」
これ、白石さんが後藤さんに向けた言葉であると同時に、自分自身に向けた言葉でもあるところが、福徳さんの脚本の秀逸なところ。実際、一人になった白石さんは、舌打ちこそしていなかったけど、自分自身がした無意味なアプローチの跡を見ながら「まわりくど…」とつぶやくシーンが印象的だ。
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好意を伝えるのをためらう白石聖さんと言えば、2018年のLINE XmasのCMを思い出す。伝えたい好意があるなら、ミルクレープにわかりづらい細工をしている場合ではない。相手を呼び出すのにLINEを使っていいとしても、直接伝えた方がいい。LINEがCMでそう言っているんだから、間違いない。
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