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[私小説] 霜柱を踏みながら

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私小説です。時系列でなく、思い出した順番で書いてます。私の個人的な思い出の物語です。
このマガジンは私の私小説風のエッセイで、月に3本くらい2000文字前後の作品を投稿していく予定です…
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2021年10月の記事一覧

そして、それでも生活は続く[最終話]

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 23[最終話]』 たとえばとてもいいお天気で、暑くもなく寒くもなく、窓を開けていると穏やかな風が遠慮がちに入ってきて、そんな中でソファに寝転がって好きな本を読んでいたらウトウトと眠くなって、猫が横でにゃ〜と鳴いても気づかずに深い昼寝に入っていく。手に持った本はバサっと床に落ちて、床で開かれたページはなんてことない小説で、そこには複雑な意図も何かの予言も何も書かれて

無花果なんてすべて思い出の果て

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 22』 小学生の頃の友達の家の庭には大きな無花果の木があった。学校の帰り道、その子の家の前に差し掛かると、玄関より先にその無花果の木が目に入ってくる。「じゃ〜ね、また明日。バイバイ」と手を振る。その子が玄関へ入っていくのを見送ると、私はもう一度大きな無花果の木を見上げる。夏になると立派な実をつけていた。後になって知ったことだが、無花果には「夏果」と「秋果」があって

油断した夜、ラブリーさが滲み出る

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 21』 私はまだ20代前半という年齢だったにもかかわらず、胃・十二指腸潰瘍を患っていた。原因はおそらくストレスだろうと医者に説明された。その医者の説明には1ミリも反論はなかった。その時は自覚できなかったが、今から思うと相当なストレスも抱えていたのだろう。それを紛らわすためにお酒も飲んでいた。友人たちはに「おじさんの病気みたいだね」とからかわれた。それに対しても1ミ