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今日はひどい雨

「雨の日って体力全部吸い取られるよね」

雨音で目を醒まし、天気予報を見る。
一日中雨でしょう、という天気予報士の言葉の後に必ずこう返答する。

「気圧のせいなんかな」
「頭痛くなるんよ」
「PMSかもよ?」

その割には饒舌に、倦怠感の原因は次々と並べられた。

一通り、思い当たる原因が出た。しんどいのは私たちのせいじゃないよね。そんな結論が、誰かが口にせずとも雰囲気で纏まろうとしたその時、ヤツが陰鬱な声を発する。

「また今回も天気のせいにして楽になれるならいいよな」

静まり返った。

ボソッと、しかしはっきりとそれまでの話し合いにケチつけた本人が見渡せば、これまで不調の原因をツラツラと並べていた他の者達は皆一様に口を噤み
ある者は罰の悪い顔で目を逸らし
ある者は苛立ったような不服そうな視線を送り
ある者は面倒くさそうにため息を吐いた。

しかし、誰も反論しない。
なぜなら皆、うっすらとそのセリフが心の片隅に居たからだ。

言われてみればそうなのかもしれない。

平日の朝、気怠く鉛のような体。二日酔いでも無いのに頭はじんじん痛む。

これは気持ちの問題では無いのか?
今さっきつらつらと出た仮説に因果関係は?

そもそもこいつは、そういう人間じゃないのか…?

こいつはいつも自分に甘い。金がないのは時代のせいして、容姿が悪いのは遺伝のせいにして、頭が悪いのは過去のせいにしてきた。
全てなにもかも悪いのは自分以外だと決めつけてきたのだ。それで心の平穏を保ってきた、悲しい生き物なのだ。

この不調も本当のところは、こいつの人間性によるものだ。意思が弱いから、体が弱る。ただそれだけの事だ。

僕はその結論を突きつけられた瞬間、吐き気がした。辛くなり、布団に潜る。

するとさっきまで不調の原因を懸命に探っていた、僕の頭の中の仲間たちはおぞましい姿になる。

ある者は学生時代に僕をいじめたクラスメイト
ある者は常に怒鳴り散らし、心無い言葉を「お前のためを思って」というお題目のもと矢のように浴びせた上司
ある者は勝手に期待して勝手に失望した親

物語に出てくる鬼のように、いや、それよりも威圧的に大声で頭の中で僕を責める。

いつか、外の雨音までも聞こえなくなった。

「お前のような人間は、いつか誰からも相手にされなくなる」

雨が降ると必ず頭の中の仲間は牙を剥く。僕は抗う気力も失い、消えたい死にたいと考え、されるがままだ。

悪夢のようなこの時間は、今回はいつまで続くのだろうか。
早く僕を雨音で叩き起して欲しい。

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