コウモリは何故多くのヒト感染症を媒介するのか?


こちらの動画を観て内容をまとめました。間違ってる所あったらごめんなさい。

少なくとも11種類のウイルスがコウモリを媒介してヒトへ感染することが知られているようです。COVID-19がコウモリ由来なら12種類だとか。

コウモリは唯一自力で飛ぶことができる哺乳類です。これはすごいですね。

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https://www.fromthegrapevine.com/nature/why-bats-cant-help-flying-windows


コウモリは飛ぶために必要な多量のエネルギーを生産するため、ミトコンドリアがせっせと働きますが、エネルギーと共にROS(Reactive oxygen species)という細胞の酸化ストレスを誘導する物質が副産物としてできてしまいます。酸化ストレスはDNAにダメージを与えるため、一般的にはガンを誘導することが知られています。しかし、コウモリは多量な酸化ストレスの割にはガンになりません。不思議ですね? なんと、コウモリはDNAの修正機構が非常に発達しているそうです。また、DNAダメージを負った細胞が増えるのを強く抑制する機構も備わっているようです。なるほど納得です。


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Int. J. Mol. Sci. 2019, 20(19), 4690; https://doi.org/10.3390/ijms20194690


通常、ROSによる酸化ストレスでDNAにダメージを負った細胞は、炎症を誘導することで免疫細胞に見つけてもらい、ガンになる前に除去してもらいます。いくらコウモリが優れたDNA修復機構を持っているとしても、ROSによる多量のDNAダメージにより、実際、コウモリの体では常に炎症が起き続けているそうです。そんな状態でよく生き続けられますよね? 研究により、コウモリはSTINGというDNAダメージセンサーの働きが弱く、PHYINという哺乳類で保存されるDNAセンサーが欠損していることが分かっています。こうやってDNAダメージによる過剰な炎症を抑えているようですね。

また、コウモリ以外の哺乳類では、ROSによるDNAダメージと、ウイルス感染もSTINGセンサーを活性化します。ウイルス感染でダメージを負った細胞は、炎症を誘導することで免疫細胞に認識してもらい、ウイルスと一緒に除去してもらうのですね。

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Dunphy et al., 2018, Molecular Cell 71, 745–760 September 6, 2018 https://doi.org/10.1016/j.molcel.2018.07.034

あれ?コウモリはSTINGが弱いってことは、ウイルス感染にも弱いってこと? そうなんです。コウモリはウイルスの排除が弱く、常に様々なウイルスを抱えて生きているようです。その中には、エボラウイルスや、SARSウイルスなど、ヒトにはとても危険なウイルスがいます。そんなウイルスを抱えているのも関わらず、コウモリは症状を見せないのです。なぜでしょうか?

ウイルス感染時に、インターフェロンという、炎症を誘導し免疫細胞を活性化する物質が細胞から出るのですが、コウモリでは、このインターフェロンが常に出っぱなしになっているそうです。また、Ribonuclease Lという、ウイルスのRNAを切断する酵素も、同じく常に働いているようです。このように、常に免疫細胞やRNAの切断酵素を準備しておくことで、ウイルスに対抗しているわけですね。

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Virology 344 (2006) 119 – 130 doi:10.1016/j.virol.2005.09.024


こう聞くと、なんだかコウモリはウイルスをすぐやっつけてしまいそうですね? 実際、個々のコウモリがウイルスを保持している時間は、それほど長くないと言われています。では、なぜコウモリはずっとウイルスを媒介しているのでしょうか? これには、コウモリの生態が関わっているようです。コウモリは、洞窟で集団を形成し生活しています。つまり、「密」な状態なわけです。もうお分かりですね? お互いにウイルスを移し合うことで、集団の中でウイルスが保たれている状態になっているんですね。

(ただ、この集団理論だけでは説明できないらしく、個々のコウモリの臓器に、ウイルスが少ないながらも潜伏し続けているのではないか、とも言われています。)

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ということで、集団の中では様々なウイルスが維持されているけれど、個体としては、出っぱなしのインターフェロンなどの強い免疫により、ウイルスに強く対抗しているようでした。

実は、コウモリの強い免疫系がヒトにとって危険なウイルスを生み出していると考えられています。例えば、コウモリが媒介するとても危険なウイルスに、エボラウイルスがあります。エボラウイルスの怖さはウイルス自体というよりも、ウイルスによって過剰に活性化される免疫系だと言われていて、サイトカインという炎症誘導物質が大量に産生されることにより、ウイルスに感染した細胞だけでなく、正常な細胞を含む全身が壊されてしまう、サイトカインストームが起きます。

コウモリの体内では、最初からサイトカインが出っぱなしになっているため、ウイルスもそれに対抗しようと、増殖しやすく強いウイルスが増えます。一方ヒトの体では、ウイルスを検知して初めてサイトカインを産生するので、感知されるまでの間にウイルスが増えすぎてしまって、免疫系がパニックを起こしているのではないかと言われています。おそろしいですね。

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Int. J. Biol. Sci. 2020, Vol. 16 1753-1766. doi: 10.7150/ijbs.45134


ここまで聞くと、とにかくコウモリは悪という印象が付いてしまうかもしれませんが、ちょっとまってください。

常にROSやウイルスと戦い炎症を起こし続けながらも、コウモリは体のサイズの割にとっても長生き(40年以上)なことが知られています。どのようにウイルスを食い止めているのかが分かれば、新たなヒトの感染症治療に活かせますし、どのように炎症から体を守っているのかを理解することで、炎症性腸疾患など、炎症性疾患の治療のヒントになるかもしれません。また、ガンの発症も少ないことから、ガン予防/治療法の解明にも繋がるかもしれません。ウイルスの媒介者という意味では危険な側面もありますが、研究対象として探っていく価値は大いにあると言えるでしょう。


長くなってしまいました。分かりにくかったらすみません。以上で終わります。少しでも新たな発見を持ち帰ってもらえたら幸いです。

びーさく

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