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V-eautiful days


薄い薄い靄がかかったような、薄い薄い水色の空。ご機嫌斜めな太陽が少しだけ顔を出してくれた午後。


しんと静まり返った空気の中、彼のはなうたが聞こえてくる。優しいメロディの伴奏はカタカタと弾むような車輪の音。


豪奢な洋館の前に広がる広い広い庭園に、ぽつりと置かれた小さな小さな丸いテーブル。

皺ひとつない、柔らかなクリーム色のクロスの上には柔らかなパステル色の花々。

そこに添えられるのは、慎重に造られた見目麗しい焼き菓子と丁寧に淹れられた香り高い紅茶。

私を食べてと誘惑する小麦色に、大胆にガブリと歯を立てる。舌の上でほろほろと解けていく生地、噛むほどに鼻を抜けていくバターの香り、ごくりと喉を鳴らし、通り抜けていくそれを追いかけるように繊細なティーカップに唇を寄せる。



こぼれ落ちそうな花々も、贅沢な午後の楽しみも、だんだんと近付いてくるハーモニーも、髪を遊ばせる悪戯な風も、私が持ちうるすべての感覚点を通して私の一部になる。そしてひたひたと音を立てて私のこころが満たされていく。そしてその喜びは全身に満ち満ちていく。



会ったこともない、ましてや話したことも触れたこともない異国の青年に、こんなにも幸せな気持ちにしてもらっていいのだろうか。いつかバチが当たるのかもしれない。それくらいの、浮き足立つような幸福感。


こんな甘やかな幸福感を、

私は、

他に、

知らない。


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