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一度だけの話

ジミンちゃんの言葉を借りるならば、

"私の人生に1度だけの防弾少年団"

ある年、私は"異常"になった。学生から大人に変わる選択が迫った頃、それまで私の心の中で静かに住んでいた、だけど確実に育っていた色んなことが、堰を切ったように姿を現した。今まで当たり前に出来ていたことが当たり前にできなくなってしまった。

それからは文字通り狂気にまみれた日々を過ごした。素質としてあった完璧主義や感受性は悪い方に出て、強迫観念へと変身した。コンプレックスは醜形恐怖へと肥大化し、マスクをしても家からたった数歩の自販機にすら行けなくなった。鏡を割ったり隠したりして、深夜部屋の窓を何重にも布で覆ったりした。不眠と過眠を繰り返し、ストレスで体の至る所に異常が出た。体重に囚われると食べるもの全てをグラム数で測り、今度はその反動で過食症にもなりかけた。

帰り道でも電車の中でもスイッチが入ると人目を気にせずお構い無しに泣いていた。ある時、泣きすぎて危険だと脳が判断したのか、泣いてる最中に意図せず勝手に笑いが止まらなくなった時は、自分でもちょっとだけ怖かった。

四六時中稼働する感情に心底疲れ果ててしまった。自分から解放されたくて生まれたことも呪っていた。生きていることが正解なのかどうかの証拠が欲しかった。変われない自分に苛立って屋上まで行ってみたけど飛び降りれなかった。

未来はどうでもよくて、とにかく今解放されたかった。死ぬことも簡単にできないことが、かえって絶望を永遠に感じさせ、気力を奪っていく。

短い文章では全然伝えられない。繰り返した試行錯誤はこんなものではない。泣いても傷つけてもどうしようもなく、一番自分を許さないのは自分自身なのだと気づいてもなお、どうにもならなかった。ただ死ねなくて生きていた。

私が変わってしまっても、ずっと味方でいてくれた友達や、無償の愛をくれる家族、他にも手を差し伸べてくれた人達や温かい言葉は思い出すとすぐに泣いてしまうくらい私のそばにあった。

1年が過ぎ、結局生きていた。死ねないから生きていた。酷くもがいた時間の中で変われたこともあったけど、呪いは複雑で簡単には解けなかった。

映画「猟奇的な彼女」にお気に入りの台詞がある。

__運命は努力した人に偶然という名の橋を架けてくれる

私が努力した人かどうかはわからないけど、今思えばあれは偶然という名の橋だったように思う。あるいは、こういうものはその人にとって1番必要な時に必然的に出会うものなのだと感じる。どうやって辿り着いたのか今ではしっかり覚えていないが、"人生で最も美しい瞬間"という意味の「花樣年華」に纏わる話が気になって調べ始めたのがきっかけだった。

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これは気を抜くととんでもなく好きになりそうだなと思い、やってしまった〜と怖い気がした。

それまでも韓国アイドルが好きだった歴は色々あって、彼らの存在は勿論知っていた。それでも彼らが何故他と比べて飛び抜けた人気を誇っているのかは知らなかった。

扉の先に

当時、複雑すぎる感情の棘を張り巡らして生きていた私は、正直どんな言葉を貰うかよりも、私が話す言葉を相手が間違えずに理解しているかが重要だった。アドバイスも慰めの言葉も必要ない、ただ私が話す言葉の色が、相手にそのままの色で咀嚼される感覚が得たかった。伝わらないと感じると、棘は一気に逆撫でられて大変なことになった。他人に向けた棘はかえって私自身に容赦なく刺さった。それでも私の話をやめなかったのはやっぱり分かって欲しかったからだと思う。

いつも、分かって欲しくないけど、知っていて欲しかった。死なないでと無責任に言って欲しくないけど、死んでいいよと言われたい訳では決してなかった。

扉を開けた先にいた7人の青年達は、魔法使いのように見えて、ただ、「僕の話を聞かせてあげる」と言った。

君と同じなんだとさえ聞こえた。それまで手放しに受け取れなかったような優しい言葉は、不思議とすんなり溶けていった。

自分自身を許して愛することは、当時自分のために用意されたように思えた。

自分が自分のことを呪っていた時、その痛みは飛び立つための翼が生えるためかもしれなかった。沢山の星にあたるために。

躊躇っているのは分かってる 本音を言ったって
結局全て傷跡として戻ってくるから
「元気出して」なんて分かり切った言葉は言わないよ 僕は自分の話を聞かせるよ 聞かせてあげる
  _Magic Shop

俺は自分を信じるよ
この背中の痛みは翼が生えるためだって
俺はお前を信じる
今は弱くておぼろげだとしても最後は威風堂々と飛び立つんだ 
_Outro:Wings

冷え冷えとした夜の視線 醜い僕を隠そうと酷くもがいたけど
あの沢山の星にあたるために僕は落ちていたのかな
あの数千個の眩い矢の的は僕一人だ
 どうしてしきりに隠そうとしてばかりなの  君の仮面の中へと
自分の間違いでできた傷跡まで全て僕の星座なのに 
_Answer:Love Myself 


(아미さんの和訳を使わせて頂きました。いつも素敵な和訳を有難うございます。)


特別な人の魔法

ユンギさんはとりわけ私にとって特別だった。
寝ずに迎えた朝方にミックステープを聴いた時、救われたと思ったのは歌詞に描かれた彼の背景のためじゃなかった。
"私が話す言葉を相手が間違いなく咀嚼している感覚" を住む世界が違うはずの人に感じることが出来たからだ。直接言葉を交わしてすらいないのに。
専門の先生でさえ、その感覚が得られる人と出会うのは本当に大変だった。家族や友達がどんなに私のことを想ってくれようとも、その感覚が得られるかはまた別の話だった。

「光が見えればそっちに行けばいいのに、その光さえ見えないから絶望して進むことができないんです。それで僕の音楽を聴く方々が慰められて少しでも歩いて行けることを願っています」とユンギさんは言う。

ユンギさんは夢を現実以上のものにして遥かずっと遠くにいる。強くて誰も敵わないように見えた。だけど、座り込んでいる人や彷徨っている人を置いて先には行かず、ちゃんと隣にしゃがんでくれるみたいだった。

実際、私の隣に見える形ではいなくても、音楽は本当に一緒に居てくれる。寡黙で繊細な、だけど1番欲しい言葉をくれる優しさが、体の中を通って温度を上げてくれる。棘が溶けて、涙が暖かくなって、光が差し込んで息を吹き返す。大丈夫。きっとやっていける。

そばにいるよ あなたの誕生と終わり
どこでも一緒にいることを憶えていて
いつでもあなたの人生を慰めるから
どうか僕に時々寄りかかって休んでいって
( 이소라 / 신청과( Feat. SUGA of BTS) )

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(特別なユンギさんの話の続きはまた今度にしておこう、、)

言葉の愛

"来世は石に生まれたがっている"というユンギさんに、テヒョンが「心配しないで。僕がいつもそれを身につけて、あなたと美しいところにたくさん行くよ」と詩を読むのを見た時、まるで自分が言ってもらったような衝撃で安心して泣いてしまった。

テヒョンが言葉の裏にある心理を読んでいたのかはわからない。ユンギさんの"石になりたい"にある心理は、こちらが思うほど複雑なものではないのかもしれない。

だけど石になる、何も考えなくていいものになることを否定しないままに救えるその言葉は、何気ないように見えて中々誰でも言えることではない。

もしも暗い夜空の下で、消えて無くなってしまいたいと言っても、きっと彼らや彼らの音楽は、無責任に生きて前を向けとは言わないだろう。ただ一緒に寝そべって、彼らの話をしてくれるかもしれない。一緒に探そう、一緒に歩もうと言ってくれるみたいに。

彼らは、どんなに高い場所にいても人間の弱さを受け入れて隣に寄り添ってくれる偉大な魔法使いみたいだった。本当は同じ人間なのに。

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魔法の芽

運命の扉を開けた日から少し経ったある日、自分が前よりほんの少し強く、優しくなっていることに気がついた。

私の心の中に静かに住みつき、確実に育って溢れ出した暗闇のように、私の心の中にまかれた魔法の種はキラキラと渦巻いて芽を出し、確実に育っていたのだ。

生きる前提で将来を考えるようになることは大きな進歩だった。運命は、満足気に微笑んでいるのだろうか。

自分自身を許して愛することは、そう簡単じゃない。暗闇が時折顔を出しては、全てを簡単に覆い尽くしそうになる時もある。落とし穴はそこら中にあるのだから。

でも、振り返ればいつでも彼らがいることはとても大きなお守りみたいだった。時には背中を押してくれたり、一緒にしゃがんでくれる彼らの存在は、とても心強い。そのお陰で、私は今までより少しだけ強気になって歩けるのだろうと思う。

自分にかけた呪いを解けるのは自分自身だけだ。本当に必要な愛は自分自身によるものだ。本当に必要な味方は自分自身だ。

もうひとつ気が付いたことがある。彼らの幸せを祈る、大げさじゃなくても些細なこと、例えば彼らが今夜ぐっすり眠れますようにといつも願っているうちに、自分の棘も浄化されているみたいだった。他人に向けた棘が私自身に刺さるように、他人に向けた優しさは私自身にかえってくるのかもしれない。

いつかは彼らに対して向けるような優しい気持ちを、自分自身に対しても持てる日が来るといいなと思う。

"私の人生に1度だけの防弾少年団"

彼らの魔法はいったいどれだけの人の心を照らしているのだろうか。

今夜はぐっすり眠れますように。幸せな夢を見て。彼らも、出来たら私も。
そしてこれをここまで読んでくれたかもしれないあなたも。

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