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たくさんの子どもたちが芸術に触れる未来へ 〜ダリア・アチン・セランダーによるベイビーと障害のある子どもに向けたシアターづくりのレクチャー&ワークショップ


2023年7月28日と29日の2日間、スウェーデンの演出家・振付家であるダリア・アチン・セランダーさんによるレクチャー&ワークショップが開催されました。今回は連日大好評でお送りしたその模様をお届けいたします!

記事:枕木 きりこ







1日目:ベイビーと障害のある子どもに向けたシアターづくりのレクチャー


今回のレクチャーには、芸術関連の職業をもつ方に限らず、保育・教育に携わるお仕事や、学生の方など様々な分野の方々が参加してくださいました。

ダリアさんの自己紹介から始まり、ベイビーや身体・神経障害をもつ子どもたちに向けたシアター作品を作るに至ったきっかけ、児童発達心理学の分野から見るあかちゃんの特性、ダリアさんが大事にしている作品創作のポイントについての解説など、興味深いお話を存分にお聞きすることができました。

ダリアさんはコンテンポラリーダンスの分野を経てベイビーシアターの制作に携わるようになったそうで、現在も試行錯誤を重ねながら独学で作品作りをしているとのこと。

演出に限らず舞台美術や衣装など、公演に関わる全てのことを担当しているダリアさん。

今は公演の傍ら、ストックホルム芸術大学で「神経多様性(Neurodiversity)」の子どもたちのための舞台芸術の研究を3年間かけて行っているそうです。

【レクチャーの主な内容】

・あかちゃんの行動心理学、発達心理学からの観点
・上演時間に縛られないインスタレーションの制作
・あかちゃんと障害を持つ子どもたちの共通点
・作品制作のポイント・伝統的な舞台芸術のルールを壊していくこと
・同行者(あかちゃんや子どもたちを連れてくる人)に対する関わり方
・身体的表現を重要視する理由・パフォーマーに求められること

などなど、とても密度が高く貴重なお話をしていただきました!

また、ダリアさんの上演作品の写真では、作品の雰囲気だけでなく、パフォーマーや舞台の装飾に反応する子どもたちのいきいきとした表情も見ることができました。





2日目:ワークショップ


ワークショップは皆さまの自己紹介からスタート。自己紹介と合わせて、ダリアさんからのリクエストで、「今回のワークショップに期待していること」を一人ずつ発表していただきました。

芸術を通して子どもたちと繋がるにはどうしたらいいか探っていきたい、ベイビーシアターを社会に広げていくための手がかりに…、と参加した理由は様々。ダリアさんは、一人一人のお話にじっくりと耳を傾けていました。

ワークを開始する前には、作品を作る上でポイントになる要素の解説がありました。また、子どもたちの目線を体感するため、実際に視線を下げた状態を体験する場面も。

今回のワークでは参加者が4グループに分かれ、それぞれに与えられた4つのテーマに沿って一つのシアター作品を創作します。創作にはテーマだけでなく、観客となる子どもたちの年齢や身体的条件も指定されました。


【提示された4つのテーマと対象】

「旅」…身体障害をもつ子どもたち(約12歳まで)
「神秘的な庭」 …乳児たち(生後0~12ヶ月まで)
「水面下の愛」 …自閉症スペクトラム(約3~8歳まで)、ダウン症をもつ子どもたち
「不思議な生き物」 …上記3つの子どもたちが混じる
※全てのテーマで、子どもと同行者が10組来場しているという設定

創作中の疑問や質問を受け付けるということで、途中でダリアさんに意見を求めるグループも。

創作のアイディアを書き留め、小道具を使用したり、身体を動かしたりしながら取り組みます。

約2時間の作業時間のあと、創作した作品のコンセプトの発表に加え、場面の一部分を5分程度実際に上演しました。

1グループの発表ごとに、ダリアさんから講評をいただきました。観客役として何人か上演に参加した他グループの方からも感想を伺い、作った作品がどう受け止められていくか、どうすれば効果的か、などの発見をすることができました。

それぞれの発表をじっくり鑑賞し、作品で表現されたシーンに対する「意図」を尋ねるダリアさん。これは正解か不正解かの「ジャッジ」を行うためではなく、お互いの理解を深めていくための質問ですよ、と何度も伝えていたのが印象的でした。

全ての発表が終わり、質疑応答を経てワークショップは無事に幕を下ろしました。

皆さまお疲れ様でした!





<参加者の方々からの声>


・講義中に映される画像がとても魅力的で、この空間をあかちゃんとおとな達で楽しむことができる時間を作る喜びをより想像できました。

・ボリュームのある2日間でした。事前に配布された資料がとても参考になりレクチャーに入りやすかったです。通訳の方の献身さにも感謝です。受け取るものや自分の中での気づきの多いワークショップでした。また続編があれば今回のことをじっくり振り返り、また新たな問題意識をもって参加してみたいです。

・今回のWSで学んだことは普段のコミュニケーションのあり方としてもとても重要なことで、子どもや障害の有無に関わらずどんな人にも通じる事なのではないかと感じました。

・創作は早足でしたので、時間が足りなかったが、とてもいい経験になった。他のチームの発表を見れたのも良かった。発表後のダリアさんからの問いかけや言葉には多くの気づきがあった。
(中略)
また、観客役で参加した時の感じ方が衝撃的だった。パフォーマンスの仕方を間違えると子どもたちに恐怖心を与えたり、嫌な空間にしてしまったりしてしまうんだと感じた。「良かれと思って」したことが押し付けになっていないか常に自分に問いかけることは普段から大切なことだと思う。様々な子どもたちや大人たちに心地よいと感じられる空間で、心が動く作品の創作がいつかできたらいいなと思った。

(ワークショップ後のアンケートを一部抜粋して掲載しています。)





おわりに


あかちゃんや心身に障害をもつ子どもたちを対象とした作品作りは、舞台芸術の長い歴史において、まだまだ新しい分野だといえます。
これからもより多くの方々とベイビーシアターを通じて出会いながら、たくさんの芸術体験を作っていきたいと思います。

レクチャー&ワークショップに参加してくださった皆さま、ダリアさん、本当にありがとうございました!


ワークショップ概要

「ダリア・アチン・セランダーによるベイビーと障害のある子どもに向けたシアターづくりのレクチャー&ワークショップ2DAYS」

日時:2023年7月28(金)・7月29日(土)
場所:ロームシアター京都
講師:ダリア・アチン・セランダー
日英通訳:大谷賢治郎
コーディネーター:弓井茉那(BEBERICA theatre company)
主催:BEBERICA theatre company





【講師プロフィール】

ダリア・アチン・セランダー(Dalija Acin Thelander)

振付家・演劇創造者・文化創造者・研究家
HP: https://www.dalijaacinthelander.com

振付の概念を実践的に応用し、観客にもたらす作用、多感覚性、そして観客の位置付けなどに焦点を当てる。
2008年より定型発達の乳児ための感覚的イマーシブ・ダンス・パフォーマンスを想像するための観客と関わる様式の振付の実践ならびに研究を行う。2022年よりストックホルム芸術大学にて様々な脳の多様性(訳註・ニューロディバーシティ:発達障害や自閉症など多様な脳の違いを個性とと捉える概念)を持った最年少の子どもたちを対象とした感覚の即時性、運動感覚的身体反応とその影響、相互主観性の研究を3カ年に渡って行う。2021年アシテジ国際児童青少年舞台芸術協会の世界大会に於いて、最優秀芸術賞を受賞する。乳児のための作品はこれまでに日本、韓国、インド、中国、シンガポール、マカオ、香港、ブラジル、南アフリカ、ヨーロッパ各国で上演されている。
Impulstanz, Tanz im Augustなど数々の国際的なフェスティバルに参加、2008年にはウィーンのImpulstanz Festivalに於いてヨーロッパ大賞を受賞する。バルカン地方の子供のためのダンス・シアターの人材育成を目的としたプラットフォーム、「ジェネレーター」をベルグレード・コンテンポラリー・ダンス・ステーション・サービス、コンデンツ・フェスティバル、ノーマッド・ダンス・アカデミーと共同で設立する。また様々な演出家と共同創造を行い、演劇の振付で数々の賞を受賞している。
国際的に教育・講義も行う。
セルビア出身。2012年よりスウェーデン在住。

【日英通訳プロフィール】

大谷 賢治郎(おおたに けんじろう)

演出家。1972年東京都出身。サンフランシスコ州立大学芸術学部演劇学科卒。company ma主宰。

児童劇から人形劇、古典から現代劇、市民劇から国際的コラボレーションまで様々な形態の舞台芸術を演出する。2017年から2021年まで約4年間、アシテジ国際児童青少年演劇協会の世界理事を務め、国際的な児童青少年のための舞台芸術の発展のために力を注ぐ。また東京国立博物館の演劇的ガイドツアー、国内外での演劇ワークショップなど演劇を応用した活動も精力的に行なう。現在、桐朋学園芸術短期大学特任准教授、東京藝術大学非常勤講師、東京都立芸術総合高等学校特別専門講師を務める。

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