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「え」

東日本大震災があった次の日から登録していないケータイ番号から何度も何度も掛かってきて「だれ!?何度も何度も!!」って取らなかったんだけど、ある時スマホの画面を触れたと同時にその番号から着信、そして受けてしまった。
「もしもし」と言う前に相手が「あーよかった!生きてたのね!」...一瞬で悟った。電話の向こうで泣きながら男の子の名前を呼ぶ女性。矢継ぎ早に早口で何か言ってるけど泣きじゃくりながらなので何を言ってるのか分からない。僕はなんて言えばいいのか分からなかったので、とりあえずその女性の話が終わるまで待った。
地震直後から連絡が取れなくなった息子を心配して何度もこの番号に掛けてきていたんだなと憶測した。
女性の声が途切れたタイミングを見計らって「あの、すみません、わたし○○さんではなく○○と言うものです。お掛け間違えのようですが...」
すると「え...」と女性の一言。絶望感の「え」。これはいまでも耳に残っている。
わたしは仕事中だったけど、5分程その女性の話を聞いていた。
わたしは「早く息子さんに連絡をとってあげてください」と言い、女性は「また後でお電話差し上げます」と電話を切った。

もう一度掛かってくるんだなぁと思い、今年で10年。

その女性のケータイ番号はいまでもわたしのスマホの中に登録してある。

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