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実務者のための論理学的英文解釈法(1)

0. はじめに


論理学は西洋科学のみならず 、弁証法を始め撞着法や緩徐法などといったレトリックにおいても西洋文化の重要な一翼を担ってきた。したがって私は英文解釈に論理学の一部である記号論理学や集合論理学を活用することは不可能ではないはずだとずっと感じてきた。もちろん自然言語の全ての表現を記号論理学 や集合論理学で解釈できるはずもないことは重々承知の上での話である。しかし特定の分野、特に法解釈などにおいては論理学に基づいて英文を解釈することは非常に有用であるよう思えるのだ。特に日本語という言語は、そのような西洋の論理に裏打ちされていないため、西洋にその起源を持つ法律の解釈や英文翻訳 などと言ったシチュエーションでは、論理を意識して実務に当たることが極めて重要であるように思う。そういう経緯で今回実際に記号論理学を英語解釈に活用できないか試みることとした。

1. 定義

1.1 「文」
 
文とは、主語と述語を伴い(以下、「主述関係」という)句点で区切られたひとまとまりの語群をいう。
1.2「語」
 語とは、意味を持つ言語の最小単位をいう。
1.3「句」
 句とは主述の関係を伴わない、ひとまとまりの語群をいう。
1.4「節」
 節とは主述の関係を伴う文の一部を構成するひとまとまりの語群を言う。
1.5「接続詞」
 接続詞とは複数の文、複数の句、または複数の節(以下総称して「文の構成要素」)を接続する働きをする語のことをいう。論理学用語では「演算子」と呼ばれることもある。「接続詞」には「等位接続詞」と「従属接続詞」が含まれる。英文法上は接続詞は他にも存在するが、本書では
「等位接続詞」と「従属接続詞」のみをその対象とする。
1.6「等位接続詞」
 
等位接続詞とは、複数の文構成要素を主従なく等位接続する接続詞をいう。本書では「AND」「OR」「XOR」をその対象とする。
 自然言語の英語では、「and(および)」は「AND」と「OR」いずれかの意味で使われることがあり、「or(または)」は「OR」と「XOR」いずれかの総称用語であるため、どちらの意味で用いられているのか注意が必要である。なお、以降、自然言語の英語表現には小文字を含めて使用し、演算子についてはすべて大文字で表す。
1.6.1「AND」
複数の構成要素を接続する等位接続詞の一。本書では「AとB両方」という意味を示すのに用いる。論理学では複数の集合の共通部分を抜き出す演算子であり、A、Bがそれぞれ集合を表すとき論理記号A∩Bで表すことができる。

FIG. 1.6.1 A AND B

1.6.2「OR」
複数の構成要素を接続する等位接続詞の一。本書では、「AとBのいずれかまたは両方」の意味で用いる。論理学では複数の集合の共通部分および非共通部分を抜き出す演算子であり、A、Bがそれぞれ集合を表すとき論理記号A⋃Bで表すことができる。

FIG. 1.6.2 A OR B

1.6.3「XOR」
複数の構成要素を接続する等位接続詞の一。本書では、「AとBのいずれか一方」の意味で用いる。論理学では複数の集合の非共通部分を抜き出す演算子であり、A、Bがそれぞれ集合を表すとき論理記号(A∩B)'で表すことができる。

FIG. 1.6.3 A XOR B

1.7「従属接続詞」
従属接続詞とは、複数の構成要素のうちいずれかを主とし、他方を従として接続する接続詞をいう。本書では「IF」「IF ONLY IF」をその対象とする。

1.7.1「IF」(Conditional, every/all)
複数の構成要素を接続する従属接続詞の一。本書では、「AならばB」の意味で用いる。論理学では複数の集合の一方が他方に包含されていることをあらわす演算子であり、集合論理記号ではBがAを包含する場合「A⊂B」、AがBを包含する場合「B⊃A」と表す。前者(「A⊂B」)の場合、命題論理学記号では「A⇒B」とあらわす。これは「AはBの十分条件」であり「BはAの必要条件」であるという意味である。前者(「A⊃B」)の場合、命題論理学記号では「B⇒A」とあらわす。これは「BはAの十分条件」であり「AはBの必要条件」であるという意味である。命題については後述。

FIG. 1.6.1 IF A THEN B, IF B THEN A

1.7.2「IF AND ONLY IF」(Biconditional)

Fig. 1.6.2 IF AND ONLY IF A THEN B


1.8「命題」
 命題とは論理的にその真偽を検討できる文を言う。なお、一つの命題が従属接続詞により接続された複数の命題を含む場合、等位接続詞によって接続された複数の命題を含むこともありうる。このような場合、接続詞により接続された文はいわば節に「降格」される。従属接続詞によって接続された節を「主節・従属節」と呼ぶ。


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