そこにある音。

家で過ごす人が増えたためか、ここ2ヶ月はビデオ電話でいろんな人と話す機会が多かった。

そして、電話中にいろんな方から、「ねえねえ、そっち、周りに鳥がいるの?」と聞かれた。
「すっごくたくさん鳴いているよね」と。

思いもよらない問いかけに、会話を止め、鳥の声に耳を澄ませてみる。

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ネパールのカラスは日本のより小型で首のあたりがグレー色

ああ、本当だ、結構いろんな種類の鳴き声がしている。

人に言われるまで、あまり鳥の声を意識したことはなかった。もちろん、家の周りにいろんな鳥がやってくるのは知っているし、いろんな鳴き声はいつも聞いている。
でも、それは、ここでの生活の当たり前の音であって、普段仕事をしている時、それらの音を私はちゃんと聞いてはいないのだ。
海辺に住む人が波の音を普段は意識しないのと同じように…。

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閉まったシャッターの前で、お散歩中の鳥。名前は不明。

改めて鳥の鳴き声に意識を向けてみると、朝から暗くなるまで、いろんな鳥の鳴き声が、ほぼ絶えることはない。
コンクリの家の間に、空き地と小さい畑がところどころ残っている程度の住宅街にしては、鳥の種類は多いのかもしれない。
カラス、スズメ、ツバメと日本の街中でもお馴染みの鳥たちに加え、メジロ、ムクドリ、カササギ、フクロウ、トンビあたりもこのあたりでは定番メンバーだ。

いや、鳥の声だけはない。
意識を向ければ、私の周りは、たくさんの音で溢れている。

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牛と白い鳥。牛の鳴き声も時々聞こえてくる。

犬の鳴き声、雨の音、風の音、朝のドーナツ売りの声、バイクの音、水を屋上に汲み上げるモーターの音、ゴミ収集車が来たことを知らせるブヒブヒというラッパホーン、子どもの泣き声、ビヨンビヨンという布団打ち直し屋の音、とうもろこし売りの声、大音量のヒンディー音楽、息子を呼ぶ母親の声、間違いだらけのギターの音、雷がゴロゴロなる音、ヒョウがトタン屋根にぶつかる音、バシッパシッという音はバトミントンか、そして、御飯時になると聞こえてくるシューッと蒸気が圧力鍋から勢い良く出る音、朝と晩に響くリンリンリンリンリンという祈りのベルの音…。

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最近はバドミントンの音が、朝晩響く。

当たり前に、いつも聞こえてくる音だけど、改めて意識してみると、ここの暮らしはなんといろんな音に溢れているのだろう。

そう言えば、毎年ネパールに通いつめているネパール好きのアメリカ在住の友人が言ってたっけ。
「アメリカの住宅街では、こんなにいろんな音が聞こえることはないよ」ってね。

そりゃ、そうだろう。
彼女の住んでいる高級住宅街とここでは、人口密度も、家と家の距離も全然違う。
その上、この辺りの家はまだまだエアコンがない家の方が多いから(うちもそうですが)、暖かい季節には、みんな窓を開け放っている。
家の中の音も、結構外にだだ漏れなのである。
隣の家の子どもたちの兄弟喧嘩も毎日のように聞こえてくる。

鳥がさえずり(けたたましい時もよくあるけど)、犬が吠え、人々の声や生活音に溢れた場所、そんなところに私は住んでいる。
そう風に思うと、最近ちょっと感じていた孤独感が少し軽くなった。

さっきまで聞こえきた鳥の声に代わり、虫の音が聞こえる。
原稿を書いている間に、いつの間にか外は暗くなっていた。
虫の声と雨の音を子守唄に、今日も眠りにつこう。

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雨の粒が大きいのか、雨の音も日本より大きい気がする。夜中に雨の音で目が醒めることもある。

そして、翌朝、起きたら、まず、家中の窓を開ける。

ほら、たくさんの音が倍の音量になって、私の部屋になだれこんでくる。

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【text by Chikako from Nepal 】

宮本ちか子 瀬戸内海の島で海に囲まれて育つも、なぜか海のないヒマラヤの国ネパール在住。夫も仕事も家財道具も全て捨て、ネパールに移住したのは30歳のとき。ポカラで15年ホテルを経営するが諸々あって、泣く泣くホテルを売却。現在はフリーランスライター、タマラエネルギーワーク、仕入コーディネイト等々。バツイチで結婚は2回、娘が1人、ネパール人配偶者はアーユルヴェーダの治療師。「刺身が食いたい」とつぶやく回数が最近さらに増えてきたアラフィフである。

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