溶ける氷

酒の全ては氷ではじまる。

なんて言ったりもするらしい。一部の界隈で。
まぁどんなに凄腕のバーテンダーでも
100人並べば、お酒を作る上で胸に秘めた心得は
各々異なってくるでしょう。

音楽でも同じ気がする。
作り手には十人十色のこだわりがあって
出力先にまた、聴いてくれる人がいて、
その耳たちに十人十色のこだわりがある。

無人島に一つだけ持っていけるなら
どのプラグイン?
EQだ!!コンプだ!!
いいやサチュレーターだ!!!(過激派)
みたいな。

この"こだわりの相違点"の部分を、創作する段階で意識して自分の及第点を探す作業はいつも苦悩するし、それがやりがいかというと、割とそこはあんまり楽しくない部分というか、辛いところではある、、。

ただ、完成したものを少しでも
「良い」と思ってもらえたら救われる部分。

一昔前に音楽とお酒が共存するカフェ?(夜はBARにトランスフォームする感じ)で働いてたことがあって、夜になるとライブが始まって、お客さん達は音楽と酒を求めてその世界に浸るわけだけど。

そこの店主はなかなか手厳しいお方で、
何もかも知らない僕にカクテルの作り方を教えてくれてステア、アップ、炭酸と氷の扱い方、酒によって混ぜ方を変える!みたいなのを脳内に捩じ込むように教わった記憶がある。めちゃくちゃ辛かった。

そんなにカッチリしたお店ではなかった(もちろん良い意味で)けれど、こだわりが凄くて。でもお客さん達は既に音楽と酔いの世界にダイブしていて、大半がそのこだわりには気付いてなかったと思う。そもそもそういうニーズがなかった。どちらかというととにかく酒が欲しい!みたいな。需要と供給の不一致。それでこそ、みんな他愛ないから。("他愛ない"って酒に酔い寝入ったりして正体がないって意味もあるらしいよ)

まぁそれでも頑に、そういうこだわりを
持ち続ける意味が今になって少しわかる気がする。ほんのひと握り、いやもしかしたら酔っ払ってBPM完全無視で身体を揺らしてたあの人もあの人もあの人達もみんな、そういうこだわりの上にその営みがあることを心の隅で感じ取ってた、のかもしれない。

そしてその曖昧な世界を楽しむように
あの店主はお酒をかき混ぜてたのかもしれない。
憶測だけど。

作り手の"内なるこだわり"というのは
どこまでいっても自己満足で、周りの求めるものは他にも沢山あるわけで。
自分の作品に他者が求めるものをピンポイントで
突き詰めると、それは自分のやりたいことではなくなってしまっていたりもする。

でもそのこだわりに気づいてもらった瞬間にこそ、作り手は物影でガッツポーズする。
その姿が僕は好きなのかもしれない。

もちろん、その中で自分自身以外の人もまた、良いと感じるものになるよう応えることが大前提、というかそこは掘り下げないでベーシックに備わってるものだと思う。

何にせよ、人には人の乳酸菌。
人には人の正義があるわけだ。

一年前に「正義」を外側から表現した
"それはシャンデリーナ"という曲を作ったけど、

今回は内側からみた「正義」を
"COCKTAIL"という曲に落とし込みました。

昨今、情報伝達スピードが加速しすぎて、
正義と悪を審議する時間が本当になくなってしまったと思う。自分の中で問いただす時間が。

大衆の大いなる意見で、いち早くネット上で善悪に多数決が取られて、その投票結果が多い方、否、そう目に見える方が勝利して"正義"になる。

血に滲むような想いが、審議する間も無く消えてしまうことがあまりに多すぎる。

あらゆる感情、トレンドがいち早く自分の手元に届くことはえらく便利だと思うし、今となっては手放せない世界だとヒシヒシ思うけれど、

手元に届いた情報を、他の誰でもない自分自身の篩にかける時間を、篩の質を、これからはもうワンランク上に上げていく必要があるのかもしれない。

そして、そんな世の中に心苦しく立ち止まった想いを、凍りついてしまった気持ちが少しでも日差しにあたるようにと、"COCKTAIL"という曲を作りました。

この曲の主人公は、
酒ではなく、そこに沈む"氷"です。

酒の全ては氷ではじまる。

この酔っ払った世界に最も必要なのが、
君の心でありますように。

まだ聴いてない方は是非聴いてください!
この長々しい文章を読んだ後なら
もう少し美味く味わえるかもしれない。

それでは、「乾杯」!

ビートシー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?