大学が理工系分野に女子枠を設けなければいけない理由
2024年京都大学は理学部と工学部において女子枠を新設すると発表した。書類審査と面接、大学入学共通テストの成績などによって合否を判定する「特色入試」の枠組みを使い、39人の生徒を男性とは別に募集するようだ。この女子枠新設について京都大学は「女性には潜在的に能力がありながら、挑戦する機会、研究へのアクセスを許容してこなかった社会背景は大きい。制度として展開することに意味がある」と語る。
噛み砕いて言えば「女子は理系への能力や適性があるのに親の進路制限等の社会的圧力により進路として理系を選択出来ない人間が沢山いる。そういった人間を掬い上げるために女子枠を設けた。男子はそういう圧力を受けない特権階級なので平等の為に許容して貰う」ということだろう。実際に中央大学物理学教授田口善弘は女子枠新設について次のように語っている。
またお茶の水女子大学理学教員神山翼も女子が不当に社会的抑圧を受けている根拠として、男女の進学率を取り上げて次のように語る。
まとめれば日本において理数系に進む女性が少ないのは社会的抑圧が原因であることは確定しており、それは日本が特異的に理数系に進む女子が少ないことや男女進学率という形で示されてる…という事になるだろう。そして女子枠はこうした社会的抑圧から被差別階級である女子を守るために必要…というのが大学側の見解だ。なるほど、これは
完全に陰謀論としか言いようがない
というより中央大学物理学教授田口善弘の主張は陰謀論通り越して完全にデマである。何故ならOECD調査では1貫してどの国においても理系に進む女子が少ない現象が確認されているのだ。
最大限好意的に解釈しても「どの国もSTEM(理系)に進むのは女性は少ないが、日本はその中でも特異的に低い」ということが出来るかどうかだろう。
またお茶の水女子大学理学教員神山翼の述べた現象に関しても「女子は社会から進学制限圧力をかけられてるんだ!男子はそんな事ない特権階級なんだ!」という結論ありきと言える。何故なら上記の話は短期大学・専門大学の進学を除いた話であり、高卒の割合は男子の方が多いという現実を無視しているからだ。
都道府県別高卒就職者に占める女性比率
高卒で働く比率が全国的に男性>女性という現象は素直に解釈するなら「男子は女子より進学より働け!的な社会的抑圧を受けてる」となるだろう。短期大学は女子の割合が88.4%、専門学校は55.6%であり、「高校卒業後の進学率」は日本においては女性の方が2~3%程度高くなるのだ。
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1419591_00001.htm
また上記以外にも男子の方が社会的抑圧により進路制限を受けている事を直接示唆するデータもある。例えば内閣府男女共同参画局より『「多様な選択を可能にする学びに関する調査」によると,親や家族から,勉強や進路,将来のことについて,性別を理由に制約を受けたり,推奨されたことがある割合は,勉強及び進学,職業選択のいずれも男性の方が高くなっている。特に勉強は男女差が大きく,かつ若年層で男女差が広がっている。年代別に見ると,女性は若くなるほど言われた割合が低くなっているが,男性は20代が32.8%と言われた割合が最も高くなっており,女性と異なる傾向を示している(I-特-19図)。
男女平等のパラドックス
更に言えば「女性は男女平等が進むほどに理数系に行かなくなる」現象は世界的に男女平等のパラドックス(Gender-Equality Paradox)として観測されている。
青少年の科学、数学、読書の成績に関する国際データベース ( N = 472,242) を分析した結果、国家的な男女平等が進むにつれて学力や理系学位の取得の程度における性差が増加したことが示された。以下の図は横軸が理系(科学・技術・工学・数学)の学位を持った女性が全体を占める割合で、縦軸が男女間の不均衡を示す世界男女格差指数を示すものであるが、男女平等先進国のフィンランド等の北欧国家で理系女子の割合が少なくなる1方で、逆に男女格差の大きいアルジェリアなどは理系女子の割合が高くなっている。これに関して研究者は「男女不平等な国だと女性は食いつながなくてはいけないので実用的な学問に進むが、男女平等な国だと女性は食いっぱぐれる心配がないので好きな分野に進む」と結論した。要は男女不平等だから理系に行かないのではなく、男女平等だから興味がない理系に行かなくなるのだ。良い悪いは別にして日本の芸大・美大の男女比が著しく女性に偏る理由もコレで説明出来ると思われる。
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0956797617741719
女子枠の問題点
ここでは「男女の(理数系)能力に性差があるか?」は置いておく。それに関して思うところはあるが本題ではない(ここら辺はnoteに書いた事があるので興味ある方はどうぞ)。
この女子枠を巡る最大の問題点は「女子枠を設ける全てのロジックが"女子は社会的抑圧により男子に比して進路制限されてる"という結論から逆算して作られている」に尽きるだろう。それこそ事実を懇意的に隠して拡大解釈したり、果てには捻じ曲げることすら行われている。客観的なデータに基づけば大学の女子枠設置は「女子より社会的圧力を受けて高卒後進学率の低い男子のポストを更に奪い、男子より社会的抑圧による進路制限を受けず高卒後進学率の高い女子にポストをあてがう逆進制度」に他ならない。またお茶の水女子大学理学教員神山翼は「今女子枠を作ってる人間は差し違える覚悟を持ってる」と反権力に抗い被差別民たる女子を守る騎士を自称しているが、実際は国が女子枠を増やすよう言っている。
まとめ
・どの国でも理数系(stem)に進むのは男子の方が圧倒的に多く、理工学部に女子が少ないのは日本の特異的な現象とは言えない
・どの国でもstemに進むのは男子の方が圧倒的に多く、理工学部に女子が少ないのは日本の特異的な現象とは言えない
・高卒後の進学率は女子より男子の方が低く、高卒後就職率も男子の方が高い
・親や家族からの進路圧力は女子より男子の方が受けている
・女子は進路制限がなくなり国家が男女平等になるほどstemに行かなくなることが世界確認されている
・上記のような客観的事実に反するデマを大学関係者が積極的に流布している
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