神様の声が聞こえる ~シュウジと神様~

放課後の教室で、クラスの人気者シンジ君と、僕の憧れのフミちゃんが楽しそうに喋っていた。僕は仲間に入る勇気がなくて、そっと教室を後にする。

フミちゃんは丸っこい顔で、笑うと目が糸みたいになって、優しそうで可愛らしくて天使のようだ。
フミちゃんはいつもシンジ君と仲良くしてるけど、シンジ君のこと好きなのかな。
僕もフミちゃんに話しかける勇気があったらなぁ。
自分の部屋でなんとなく机に向かって高校受験用の参考書を開いてみるけど、まったく手につかない。
何か得意なことがあるでもなく、体型もぽっちゃり、自分に自信がなくて引っ込み思案の僕は、人に話しかけることを想像するだけで緊張してしまうのだ。
お腹空いたな。何か食べ物があるかもしれないと思い、階下のキッチンに行って冷蔵庫を開けた。

ん、誰だこんなところにパンダのぬいぐるみを入れたのは。
冷蔵庫には手のひらくらいの小さなパンダのぬいぐるみが背中を向けてちょこんと入っていた。つかんで取り出してみる。
「うわっ」
そのパンダは口から血を流していた。
(キモッ)
僕は瞬間的に心の中で思った、はずなのに。
「キモッってなんやねん。失礼ちゃうか」
男の低い声が聞こえた。僕はキッチンを見回した。誰もいない。
「俺や、お前が手に持ってるパンダが喋ってるんやで」
「ま、マジで。新種のスマートスピーカーかなんかかな」
「ちゃうわ、アホ。俺は神様や」
「か、神様?神様って大阪弁喋るの?なんか象の小説とかパクってない?」
「大阪弁と標準語の登場人物にすると、どっちが喋ってるか読者にわかりやすいんや。話し方を変えるのは作家のテクニックやで。象の小説は読んだことあるんやな。なら話は早いわ」
「読者って何なの?意味がわからないよ。でも僕が手に持っている口から血を流したパンダは神様ってことなんだね」
「そうや。わりと願いを叶えたりできるんやで。シュウジの悩みは勇気が出ないことやな」
「僕の名前知ってるの?悩みまで当たってる」
「俺は神様言うたやろ。わりとすごいんやで」
「ねえ、神様。僕は勇気が欲しいんだ。フミちゃんに告白する、というかそこまでじゃなくても話しかけてみることができる勇気」
「勇気な、俺の得意分野というか、俺は勇気の神様なんや。だからシュウジのところにきたんやで」
「すごいよ。勇気の神様で口から血を流したパンダさん。なんか長いな。名前はあるの?」
「・・・っぷ言うんや」
「・・・っぷさん?よく聞こえないよ」
「そうや、俺の名前は勇気を出せる者だけに聞こえるんや」
「ということは僕が勇気を出せた時に神様の名前が聞こえるんだね」
「シュウジは・・・っぷまで聞こえてるんやから、まったく勇気がないわけやないんやで。聞こえへんやつにはまったく聞こえへんからな。とりあえずシュウジの部屋に連れてってくれへんかな。冷蔵庫は寒かったわ」
僕は、そもそもなんで冷蔵庫に入っていたんだろうと思いながらも、パンダの神様を部屋に連れて行った。不思議なところがいっぱいあり過ぎて、何から聞けばいいのかわからない。

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