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唯一無二のコワモテ美人、ジャンヌモロー

私、おばさんなんですけれど、一応は昭和生まれなんです。
だから、ジャンヌモローを初めて見たのは「ファスビンダーのケレル」なんです。
第一印象は「なんなんだ?このババァ?」って思ったんです。
船乗りばかりが集まる娼館のマダムで、(つまり男同士に部屋を貸すってことです)時々ヘタクソな英語で「誰もが愛するものをダメにしてしまう」みたいな内容の歌を歌っているんです。
(アメリカ資本も入っている映画なので、得意ではない英語の歌を歌わざるを得なかったんでしょう)

この頃、前後してマレーネディートリッヒの最晩年のインタビュー映画を見たんですけれど、この時も、なにを質問されても「ナイン」(ドイツ語でNOの意味)しか言わないから、「なんなんだ?このクソババァ?」って思ったから、老女優って大概ロクなもんじゃないって思っていたんです。

それからしばらくしてルイマル監督の「死刑台のエレベーター」を見たんです。
この映画で名を上げたのはマイルスデイヴィスの即興演奏だけで、肝心のルイマルは置いてけぼりを喰らっちゃったんですけれど、ヌーベルヴァーグの監督で一番うまかったのはルイマルだと私は思っています。
一作ごとにガラリと作風を変えて、それが標準以上のクオリティで完成していたのはルイマルだけだったと思います。

死刑台のエレベーターでのジャンヌモローは、若い愛人との結婚を夢みて、自分の夫殺しを計画する鬼嫁なんですけれど、まったくのコワモテでほうれい線美人としか言いようがないんです。
それが、エレベーターに閉じ込められてしまって会えない恋人を捜し求めて腑抜けのように、恋人の名を呼びながら夜の街を彷徨う姿は、フランス映画の名シーン10選に入ると思います。

この映画の威風堂々としたジャンヌモローの印象が強過ぎて、たとえばフランソワーズトリュフォーの「突然炎のごとく」みたいな名作にも出ているんですけれど、私の中のジャンヌモローはやっぱりコワモテ全開の死刑台のエレベーターと、ケレルなんですよね。
あの年増美がたまりません。

デビュー間もない「小間使いの日記」なんかも見てはみたんですけれど、他だ若いだけの小娘って感じで、別にどうなの?って思っただけです。
彼女はシワが増えてきたくらいからが絶頂期だったんだと思います。
まさにヌーベルヴァーグのミューズのひとりだったんじゃないかしら。

ジャンヌモローはヌーベルヴァーグの頃、たくさんの映画に出ていますが、不思議とジャンリュックゴダールの映画には出ていないですね。
彼も大スター監督だったのに。
でも、ゴダールには自分と寝た女しかキャスティングしないようなところがあったから、それをジャンヌモローは嫌ったのかも知れません。

残念なことにジャンヌモローは89歳の天寿を全うして2017年にお亡くなりになりましたが、素晴らしい映画人生だったと思います。


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