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阿片は描いても檳榔は描かないと思っていたのに

「檳榔」ってご存じでしょうか。
主に台湾なんですけれど、南アジア全域で用いられる噛みタバコのようなものです。
台湾の場合ですと、檳榔の実を縦に割って石灰のようなものを挟むんです。
これが長距離運転の場合なんかに目覚ましの役割を果たすらしくって、もう一種の伝統食ですね。

私も食べてみたことがあるんですけれど、石灰の成分でしょうか、とにかくエグい。
そして心臓がバクバクするのが自分でも分かりました。

この檳榔は噛むところまではいいんですけれど、噛んだあとに吐き出したものが血塊のようで、非常に見苦しいんです。
ですから、街中の至る所で「ここで檳榔を噛むな」とおどろおどろしい赤いペンキで描かれた注意書きを見つけたりします。

そのことは台湾人も分かっているようで、檳榔を多用するのは民度の低い人ってコンセンサスが出来上がっているようで、私、土建屋の社長さんの家に数週間居候をしていたんですけれど、賓館(ラブホ)建てるわ、ソープの開店祝いに私を同行させるわと、儲かればなんでもいいって主義だったみたいなんですけれど、唯一私に見られたくなさそうにしていたのは、ドライブに行った時、檳榔を買っている姿でした。

私が檳榔から目を離さなかったので根負けして1粒くれたんですけれど、あーもう、充分って感じでした。

日本のテレビ番組でもたまに、台湾の「檳榔シャオチェ」を取材していませんか?
若くてきれいな女の子に半裸みたいな格好をさせて、檳榔を売らせるんです。
ほんとうに民度が低いですね。

そんな民度が低い存在の檳榔を扱った映画は「ない」って信じ込んでいたんです。
少なくともユーザーが「恥」と感じている嗜癖の闇をわざわざ引きずり出して描く監督はいないと思い込んでいたんです。

阿片はまだ悲劇の活写に役に立つと考えていた監督はいるようですが、檳榔に関しては完全にノーチェックでした。
あの台北の喧噪をうまく描き出すエドワードヤンの作品でも、檳榔のビの字もも出て来ませんでした。
ニュータイワンシネマ格の監督では檳榔までを引きずり出して、リアルな台湾を描く力強さがなかったのかも知れません。

ヌーベルヴァーグの監督たちが、パリの街に散乱している犬の糞まで描かなかったのと同じ理屈でしょう。

ところが、チャレンジャーはいたんですね。
2016年の台湾映画ですから、私は完全にノーチェックでした。
日本公開もされていないようですし、日本語字幕のソフトも出ていないようですが、「窗人生」と言う名前の映画です。
どうも檳榔シャオチェたちの日常を追ったもので、赤い吐き跡はどのくらいの頻度で出て来るのか分かりませんが。

北京語が分かる方で見てみたい方は、台湾バージョンのDVDが5,000円弱で売られているので、ぜひご覧になって、内容を説明してください。
よろしくお願いいたします。



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