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ヤルセナキオの観客サービス「めし」

お正月なのでゴロゴロしてYouTubeを見ていたんですけれど、なんとなく成瀬巳喜男監督の「めし」を1本見てしまいました。
この作品は、まぁ、倦怠期を迎えた夫婦が離れたりくっついたりする、犬も食わないような話なんですけれど、主役の夫婦が上原謙に原節子と、当代きっての美男美女カップルとあって、目の保養にはなります。

成瀬巳喜男が好んで取り上げた、林芙美子原作の作品なんですけれど、物語の最初と最後に原節子のナレーションが入るんです。
これがなんともうまいんだかヘタクソなんだか、力が入っちゃって感傷的過ぎて、逆に安っぽく見えて、要らないんじゃないかなって思いました。
大体が原節子は着ような上有産ではないんだから、ナレーションまでこなせる資質はないと思うんですよね。

成瀬巳喜男は撮影所で「ヤルセナキオ」と呼ばれるほどに淡々とした職人肌の監督とお聞きしています。
エキストラの動きでも気に入らないと「今日は中止」と帰ってしまうような。
そんな成瀬巳喜男がめずらしく、この作品ではものすごく観客サービスをしているんですよね。

主演の夫婦が住む長屋のご近所さんのイカレポンチな息子役の大泉滉に、当時の流行語である「オー!ミステイク」を言わせているんです。
ここにどんな意味があるか、関心を持たれた方は「日大ギャング事件」のワードで検索なさってください。

私はたまたま高校生の時に古本屋さんで買った当時の雑誌でこの事件を扱った記事を読んでいたので、成瀬巳喜男の観客大サービスだ!とすぐに気付いたんですけれど、ふだんこんな通俗的なことはしないこの監督が、めずらしいことをしたものです。

あと、なんかこの作品のクランクイン前にはゴシップ誌が、「原節子がとうとう小津安二郎監督と結婚を決意したからこの作品にもご執心なんだ」とか書き立てて、原節子をおかんむりにさせたりもしています。

この作品での新しい発見はそのくらいかな?
あとは成瀬巳喜男の永遠の二番手女優、中北千枝子が、いつもはだらしない女の役が多いのに、この作品では戦後の動乱期を生き延びる戦争未亡人としてシャキッとした感じで出ていたのも新しい発見でした。
やればできるじゃないよね。

原節子の同級生役で花井蘭子が出ているんですけれど、ほんっとにこの人って地味。
なのに昭和25年版の「細雪」では美貌を誇る蒔岡姉妹の長女、鶴子を演じているんですよね。
ちがうだろー、って思ったんですがよくよく考えてみたらあの作品は姉妹全員ミスキャストだった気がします。

「めし」は単純ながらも、ちょっとした仕掛けが多く、成瀬巳喜男作品としては新しい取り組みの多い作品だと思います。
たまには寝転がって映画を見たっていいじゃないですか。
ぜひ、エンジョイしてください。




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