アイプラ初期☆5の話(TRINITYAiLE、LizNoir、長瀬麻奈編)

はじめに

 以前書いた記事の後半戦となっております。どういう意図でこの記事を執筆するにいたったのかと言えば、一言で表すなら『初期☆5のスキル性能ってそのアイドルの“核”を解釈する上でめちゃくちゃ有用じゃない?』と考えたからです。後から実装された☆5も勿論キャラクター理解の上で重要な資料ではあるけれど、そのアイドルの根底にある意識や思想、本質的な部分を考える上でまずは初期☆5カードが最も重きを置かれるべきであるのではないでしょうか。これについては前半戦(月スト、サニピ編)の「はじめに」でも触れているので一度ざっと目を通していただいた方がわかりやすいかと思われますが、読まなくてもこれ単体で十分わかる内容になっているはずです。

 この記事内でも前回と同じようにスキルを解釈していくにあたり、私が各スキルやその所持が意味するものをどのように捉えているか、について軽くまとめておきます。

  • SPスキル:明確なここぞ!というタイミングで発動させる大技、これを持っているアイドルはライブで大きめのアピールを出してタイミング良く会場のボルテージを大幅に上昇させることができるタイプ

  • Aスキル:観客に見せるアイドルとしての魅力のようなもの、Aスキルを複数持つアイドルはそれだけ多様な魅力をファンに見せている

  • Pスキル:外からはパッとわからないけれどライブ中裏でサポートしたり自分にバフをかけたりといったもの、Pスキルを多く持つアイドルは、ファンに見せるパフォーマンスを高めるための努力をそれだけ多く行っている

 ただ一つ断っておきたいのが、Aスキルが少ないからと言ってそのアイドルの魅力が少ないとも、Pスキルを持たないアイドルが努力をしていない、あるいは努力が足りない、とも、考えているわけではありません。AスキルやPスキルはこのカードにおいて運営が強調したいそのアイドルの性質だと思っているので、これがそのキャラクターの全てであると言うつもりも毛頭ありません。本記事では、AスキルとPスキルの数を、このアイドルを解釈する際に観客側からもわかる魅力を重視するべきなのか、それとも裏での様々な動きに注目するべきなのか、という指針にしています。
 また、この記事の内容は私個人の解釈と偏見に基づくものであり、他の意見や考えを否定したり、これが絶対的な正解であると主張したいわけでもありません。こういう見方もあるのだな、くらいの認識で読んでいただけると幸いです。

TRINITYAiLE

天動瑠依

 最初に瑠依から見ていきましょう。ボーカルのバッファーで、各ユニットのセンターで唯一SPスキルを持たず、Aスキルを二つ、Pスキルを一つ所持しています。一つ目のAスキルではスコアラータイプ二人にボーカル上昇効果、二つ目のAスキルでは自身にクリティカル上昇効果、PスキルでSPスキル発動前のアイドルに強化効果増強、となっています。この記事では、瑠依がバッファーであること、二つ目のAスキル、Pスキルに焦点を当てていきます。
 ゲームを初めてすぐの頃から瑠依の初期☆5がバッファーであることは知ったのですが(ライブ直前の読み込み画面に出るアイドルのタイプ説明でトリエルの三人が引かれているため)、当初はかなり驚いたものです。アニメしか見ていない私でも彼女の強烈な眩しさを感じていたので、スコアラーかと勝手に想像していました。けれど、ゲームシステムを理解し、番外編でTRINITYAiLEというユニットや天動瑠依の解像度が飛躍的に向上したことにより、このカードの性能が非常に天動瑠依らしさを表すものであると考えるようになりました。
 まず、瑠依はセンターに立つことでとびきりの眩しさを放つアイドルではありません。カリスマ性も持ち合わせていますし、間違いなくセンターに立つ眩しいアイドルではあるのですが、麻奈やさくらのような、自らの光で自分自身が一番輝いているタイプとはまた違っています。むしろ琴乃のように、自ら先頭に立ち、どんな向かい風にも負けず折れない翼で羽ばたいて、皆を導くアイドルであるように見えます。天動瑠依の強さは、仲間を更なる高みへと連れていく。だからこそ、スコアラーではなくバッファーなのだと私は思います。実際、番外編で優にダンスバトルを挑んだ際も、東京編で月ストのコーチを務めた時も、彼女たちの眠っていた実力や魅力を引き出し、ライブパフォーマンスのレベル向上に繋げています。また、バッファーのアイドルは一人で輝くというより周りをもっと輝かせながら自分も輝くタイプであるので、その点も瑠依らしいと言えます。番外編の様子を見る限り瑠依は視野が狭くなりやすいというきらいがあるので、おそらく瑠依一人ではここまでは来れなかったでしょうし(さくらや莉央が一人でも来れた、と言いたいわけではないのですが、この二人、特にさくらは、ソロであったとしてもある程度はアイドルとしてやっていけたのではないかと思います。さくら本人はサニーピースでの活動の方が楽しんでいるようなので本人はユニット活動を選ぶでしょうけれど)、優やすみれと出会ったからこそ、天動瑠依は絶対的センターたり得るのではないでしょうか。これらの理由から瑠依がバッファーであることはとてもよく彼女の特性を反映していると私は考えます。
 次に、二つ目のAスキルに話題を移しましょう。バッファーである天動瑠依は当然スコアラータイプのバフ効果を多く所持しています。しかし、二つ目のAスキルではバフをかける対象は彼女自身です。冒頭で述べた通り、Aスキルは観客から見てわかるアイドルの魅力、Pスキルはライブ中に裏で行っている努力、というざっくりとした認識で見て行くと、天動瑠依が自分自身にバフ効果をかけているのは、観客から見てもわかる新しい彼女の一面なんですよね。別のアイドルの魅力を高めるのも、自分自身を強くしているのも、どちらもファンの立場から観測可能な瑠依の魅力です。そこからは、三人で最高峰までたどり着くことを夢として掲げる瑠依が、二人のことも自分のことも魅力的に見せて三人で輝く、ということを心の底から望んでいるのだとわかります。そしてその姿勢を彼女は微塵も隠そうとしない。後述の優とはある意味正反対とも言えます。だからこそ、この自分自身にバフ効果をもたらすスキルもまたAスキルなのだと思います。
 余談ですが、同じような自身へのバフ効果持ちのバッファーに一ノ瀬怜がいます。彼女のPスキルの対象は全て自分自身でした。これは、怜が上昇志向の強い人間であることと、ステージ上では最高のパフォーマンスを披露するのと同じくらい楽しむことを重視していること、この二つの要素を両立させるためと思われます。あくまでサニーピースの一ノ瀬怜は楽しむことに重きを置いており、ゆえにステージで前面に出す魅力(=Aスキル)では全体に対してダンスを上昇させ、裏では自分自身の技術も上げてガンガン自分でも会場を盛り上げて行きます。こうして似たスキルを持つアイドル同士を比較してみるとそれぞれのまた違った性質が見られて楽しいですね。
 PスキルではSPスキル発動前のアイドルの強化効果を増強します。この強化効果を増やすスキルがPスキルとして所持されているのも、非常に瑠依らしいと思います。彼女はなかなかに不器用な性格で、加えて、自分が当事者である際視野が狭くなりがちな一方で、俯瞰で見た時にその場における最善を見つけ出すことにたいへん優れています。ゆえに、相手の実力を最も引き出すためには、突き放すような冷たいと勘違いされるかもしれない行動も躊躇いなく取ります。番外編でも優とのダンスバトルや、東京編序盤にて月ストのコーチをしていた時の態度などを思い返すと、なるほど、とより納得していただけるように思います。いずれの場合も、これらの行動により結果的に相手の真の実力を表に出すことに成功していて、後者に至っては自分からは月ストの5人にネタバラシや弁解を一切行わないつもりでさえいました。これらから、瑠依は誰かの能力だったり既にかかっている強化効果を増強するのに長けているけれど、わかりやすい形でやることはあまり多くはないと言えるでしょう。ゆえに、このスキルはやはりPスキルの形で備わっているのがとても彼女らしいと思います。

鈴村優

 続いて、優。ビジュアルのサポーターです。Aスキルでスタミナが低い一人のスタミナ回復、一つ目のPスキルで全員にビートスコア上昇、かつ全員の低下効果回復。二つ目のPスキルではSPスキル発動前のアイドルのスタミナ回復とスタミナ消費低減。同じスタミナ特化型でも渚とはまた違ったスキルなのが面白いです。ここでは、本編においても似ているアイドルとされている渚の初期☆5との比較を中心に見ていきます。
 渚のスキルは、Aスキルで全体のスタミナ回復、一つ目ののPスキルがスタミナが50%以下のアイドル一人ののスタミナ回復とAスキル上昇、二つ目でSPスキル発動前のアイドル一人にクリティカル係数上昇効果と消費スタミナ低下効果、といった性能です。優とかなり似ているように見えますが、相違点も存在します。
 まず、渚はAスキルが全体を対象としておりPスキルで対象を一人に絞っている一方、優はAスキルと二つ目のPスキルで対象を一人としていて、全体が効果対象となっているのは一つ目のPスキルです。この違いは二人のパブリックイメージの差によるものと推測されます。
 ファンのほとんどが『優は瑠依を一番に立たせようとしている』と認識するくらい、優が瑠依にゾッコン(四コマのキャラ紹介より)なのはあの世界で公表されています。対して渚については、琴乃を献身的に支えているというイメージはまだなかなか付いておらず、世間では月のテンペストの皆のサポート役といった印象が強いように見えます。イノセントフラワー渚のストーリーでようやくそういった特集の記事に呼ばれるくらいですので。ゆえに、渚のAスキルは全体を対象とするもので、逆にファンからはあまり見えない部分で琴乃を支えているためPスキルはいずれも対象を一人としているのではないでしょうか。また、優のAスキルの対象が一人である理由もこれで説明ができます。ファンからパッと見た時、優の魅力は全体というより誰か一人に対するサポートを行うものだと考えられるためです。
 全体回復がPスキルであるのは、上記の理由に加え、そもそも優自身が、汚れ仕事だったり一筋縄ではいかないだろう交渉やプロモーションの計画だったり、瑠依とすみれには負わせたくない仕事を一手に引き受けている、というのもあると思います。東京編でもプレタポルテとの交渉に牧野が向かった時、葵と共に同行していましたし(この時は発覚していましたが)、全体に不利益が生じないように、あるいはそういう不利になってしまう要素が発生した時挽回して普段の調子を取り戻すために、彼女は八方手を尽くしているのではないか、と考えられます。そのために自分を蔑ろにして瑠依に本気で怒られる、といったエピソードも番外編にはありました。一つ目のPスキルについては、こうした背景もあるのかもしれません。
 また、二つ目のPスキルの内容はとりわけ似通っていますが、異なるのは、消費スタミナの低減の他に付与される効果が、渚はクリティカル係数の上昇であるのに対し、優はスタミナ回復である点。このスキルの発動タイミングが「誰かがSPスキル発動前」なのも面白いです。琴乃はSPスキル所持アイドルなので渚がこの文言になるのは非常にわかりやすいのですが、他方瑠依はSPスキルを持っていません。では、このスキルで優が強化したいのは誰なのか、彼女がステージでこっそりとサポートしている相手は誰なのか。TRINITYAiLEでSPスキルを持っているのは誰かを考えると、この答えは自ずと見えてきます。そう、奥山すみれです。
 鈴村優は天動瑠依に対するムーブが強烈で目に付きますが、「TRINITYAiLEのまとめ役」と評されるほど、かなりユニット全体のことを考えているアイドルでもあります。月のテンペストのまとめ役と言われているのが沙季であり渚ではないことからも、二人の違いが窺えますね。優は、渚以上に”この三人で頂点に立つ”という意識が強いように思えます。瑠依だけでなくすみれのサポートも、この初期カードのスキルに入っているのではないでしょうか。しかしアイドルとしてのイメージがいかに重要かを芸能界慣れしている分人一倍理解している優は、それを表にガンガン出していくのは得策でないと判断している。その結果としての、Pスキルでのすみれへの支援、と考えられます。自分も含めた三人で、という意志を瑠依ほど公に表出しない点は、反対とも言えますね。実際、すみれの初期☆5は、Aスキルが「残スタミナが多いほど効果上昇」という性質を持っていることを始め、全体的にスタミナをどう管理するかが編成において最も考慮される要素なので、この優との相性は非常に良いことがわかります。

奥山すみれ

 すみれの初期☆5はビジュアルのスコアラーで、TRINITYAiLEで唯一のSPスキルを持つアイドルです。また、ここまで読んできて気付いた方もいらっしゃると思いますが、TRINITYAiLEはスコアラー、バッファー、サポーターが一人ずつ、というたいへんバランスの良いユニットであることがわかります。SPスキルで自身にスコア上昇効果を持ち、Aスキルは残スタミナが多いほど効果が上昇します。Pスキルはスコアアップ状態の時、という限定付きでスコアを獲得する性能です。さて、この記事ではすみれがスコアラーである理由と、スキル性能だけをつらつら書き並べただけではわかりにくいのですけれども、このカードのスタミナ消費が比較的大きい点をメインに考えていきたいと思います。
 第一になぜ彼女がスコアラーなのかを見ていきましょう。瑠依の節でも軽く話した通り、スコアラータイプは、自らの光で自分を一番輝かせることのできるアイドルである、と私は思います。長瀬麻奈や川咲さくら、早坂芽衣、成宮すずなどを思い浮かべていただけるとイメージしやすいかもしれません。特に代表的なのが麻奈とさくらですね。さらに、麻奈のカードが現在実装されているものがいずれもスコアラーである点も根拠として引けるでしょう。芽衣やすずにも、麻奈も持っていた輝きがあったからこそ、二人ともスコアラーなのだと思います(後で詳しく述べますが、神崎莉央はこの二人とは少々異質なスコアラーだと思っているのでここでは例にあげませんでした)。結論から言うと、私は奥山すみれもまた、長瀬麻奈と同じ類の輝きを持つアイドルである、と考えています。
 そもそもすみれをTRINITYAiLEに瑠依と優が誘ったのはすみれが個人練習している姿を見て、何かの輝きのようなものを感じ取ったからでした。これまで全く接点がなかったのに、”この人と一緒なら頂点に行けるかもしれない”と二人に思わせたんですよ。瑠依と優に声をかけられたという事実自体が奥山すみれの持つ、知らず知らず注目して目が離せなくなる、という早坂芽衣と同じベクトルで長瀬麻奈と共通の輝きを持っている証左となっていると言えます。おそらく、すみれはソロアイドルとしてデビューした場合もある程度アイドルとして成功できたのではないか、と思われます。実家の問題で誰にも「助けて」と言えず、成功後ほどなくして引退し、事務所を退所せざるを得なくなるでしょうけれど。長瀬麻奈のライブ映像を見た時、他二人が気後れする中一人「誰にも負けないアイドルになっちゃおう!」と言葉にできるその強さ、眩い光は、まさにすみれのスター性を象徴していると思います。
 次いで、このカードのスタミナ消費について考えます。琴乃ほど(SPスキルでのスタミナ消費900超、Aスキルでは300超)ほど極端ではないにしろ、Aスキルの消費スタミナは他の初期☆5のスコアラーアイドルと比べても多い方と言えます。見てみると、すみれのAスキルの消費スタミナが170であるのに対し、ほとんどの消費スタミナは150後半で、すみれ以外だと芽衣がAスキルの消費スタミナ188と大きいのですが、その分芽衣はAスキルをもう一つ所持しておりPスキルを持たず、二つ目のAスキルの消費スタミナも140と小さいため、そこまでスタミナを気にする必要はありません。また、後述の莉央のPスキルは消費スタミナが非常に大きく、SPスキルは残スタミナが多いほど効果上昇という特性を持っているのでこちらもスタミナは気を付けた方が良いと言えば勿論そうなのですが、こちらはAスキルでボーカルアップ状態の時に自身のスタミナ回復効果を発動できる分、スタミナ回復スキルを持つアイドルを編成する必要性はすみれほど高くはありません。したがって、スコアラーという括りの中で見た場合、すみれは初期☆5の中でも最もスタミナ消費に注意する必要があると言えます。お恥ずかしいことに、私は、この記事を書くにあたり攻略サイトのカード紹介で「全体的にスタミナ消費が大きい」と記述されているのを見るまではこのすみれのスタミナ消費を細かく気にしたことはありませんでした。初期琴乃はスキル発動後本当にがっつりスタミナが消えているので気を配っていたのですけれど、よく見ると少し数値が大きく、積もり積もってスタミナが足りなくなる、といったすみれの性質には気が付けなかったのです。しかもスタミナが足りなくなることで未発動になりやすいのはすみれの場合AスキルよりPスキルです。発動できなかった時にライブ全体に甚大な影響を及ぼすAスキルと異なり、Pスキルが発動できなくともそれに注目していない限り特に知らないままライブは終了します。つまり、よほど熱心に取り組んでいない限りすみれのスタミナ不足はその存在を知ることすら難しいのです。この性質を認識しているプレイヤーはどれだけいるのでしょうか? これらの条件では私のような状態のプレイヤーは決して少なくないように思います。
 ここで私が思い出したのが、番外編での奥山家の話です。すみれは自分が我慢することで解決するならそれが一番良い、最善なのだ、と考えて行動し、事務所を去ってしまいます。瑠依と優が山形まで追いかけてきてくれるまで、ずっと誰にも助けを求めようとはせず、自分が傷ついていること、限界を迎えていることを家族にも言いませんでした。すみれの兄と姉二人が小さな手がかりからようやっとSOSに気が付くくらい、下手な心配さえさせてくれない、物わかりの良すぎる少女なのです。これは、気が付かないうちにスタミナをどんどん消費し、気が付かれないままスタミナ不足でPスキル未発動になることが大いにありうるカードの特性と非常に重なって見えるのは偶然ではないと思います。また、このすみれと相性の良いサポーターが初期優である点も、こうした人間関係に基づいているように感じられます。優の全体回復やSPスキル所持アイドルへのスタミナ回復がPスキルである理由を前の節で様々に話しましたが、その一つにすみれ自身助けを求めるのが苦手だから、というのもありそうです。限界を迎える前にそっと裏から支援の手を差し伸べる、その上ですみれが手を取るのか取らないのかを自分で選択する。番外編の時のような関係性をこれらのスキルからも読み取ることができます。

LizNoir

神崎莉央と井川葵

 この節のタイトルに驚いた方も多いでしょう。これまで一人ずつスキル性能を見ていったにもかかわらず、突然一つの節で二人のアイドルについて考えようとしているのですから。しかし、今回初期☆5のスキルについて考えると決め、記事の構想を練っている時、この二人はどうしても二人一緒に話したい!と思ってしまったため、この形となりました。愛、こころ、麻奈に関してはこれまで通り一人ずつ書いていくので、このような形で話すのはこの二人だけです。
 二人について詳しく述べるに際して、莉央と葵だけは初期の☆3と☆4についても軽く触れていきます。なぜなら、他のアイドルは☆5のスキルだけを見ても十分”核”を感じられるのですが、この二人は☆3、4も含めた文脈の中で捉えた場合とそうでない場合の解像度の違いがかなり大きいと思うからです。取り上げるカードの数が単純計算で六倍になっているので、少しでもわかりやすくするために、属性とタイプをまとめた表を下に掲載してみました。

Excelにて作成

 今回二人の初期☆5の性能で注目したいのは、主に二つ。二人のタイプと各スキルです。と、本題に入る前に、どうしてこの二人だけは一緒に話したいと考えたのか、その理由を述べたいと思います。思い出していただきたいのは、前回のものも含めた二つの記事のコンセプトです。初期☆5の性能という視点から各アイドルの”核”となる部分を解釈すること。これが、本記事の根本的な目的でした。私は莉央と葵のそれぞれの”核”において、互いの存在が非常に大きな割合を占めていると考えています。二人が出会い、二人で進んできた、その中で形成された二人のアイドルの根底にある性質に互いが与えた影響は計り知れません。それらを一切考慮せずに神崎莉央と井川葵のキャラクター解釈は成立し得ないでしょう。このような考えから、この二人の話だけはセットにして記事内で扱おうと決めました。
 さて、一つの節で二人を取り上げる根拠を語ったところで、いよいよカードの話に移りたいと思います。表を見ていて、何か気が付くことはないでしょうか。……そう、二人のタイプです。莉央の☆3、4ではバッファーで☆5ではスコアラー、対照的に葵は前者でスコアラー、後者でバッファーです。
 ☆3,4をキャラクター解釈の中でどのように位置づけるべきか、たいへん頭を悩まされましたが、ここではアイドルとしてステージに立つ前のキャラクターの性質、としたいと思います。アイドルになる前から本人が持っている特性、アイドルにならなかったらどのような性格だったのか推察させる資料、と言い換えることもできます。ただ、神崎莉央と井川葵の場合には、という注釈付きの定義にはなってしまうのですが。というのも、二人の他にも何人かこの見方で☆3、4を解釈することがキャラクターを深く考えるために重要になるアイドルもいますが、節の頭で書いた☆5のスキルだけでも”核”がわかるということだけでなく、前回の記事で☆3と☆4には一言も触れなかったのは、それ以上に☆3、4のスキルはいまいちそのキャラクターの特性と合っていないことの方が多く、また不調効果の付与や回復など後から登場した要素に関するスキル調整も多々あったので、参考にしない方が良いのではないか、と考えたからです(優の☆5は不調効果回復の性能が追加されていますが、元々あのカードがスタミナ回復特化型のサポーターだったため基本的な優の解釈に影響は特にないと判断しました)。この節でも☆3、4に言及するものの、細かいスキル性能というよりはそのタイプに絞って考えていきます。
 前段落で全体の方針として☆3、4はあまり参考にしないと決めたと書きはしましたが、ここまで二人のタイプが好対照となっているのを見ると、本当にこれを偶然で片づけて良いのだろうか、と思わざるを得ませんでした。あまりに出会ったことによる二人の変化と非常によく似た構図に見えたのです。
 葵は、自分は踊れさえすれば何でもいい、と、それゆえに自由なダンスができていたものの、莉央と出会ってからは「莉央がいい」「僕と一緒にずっと楽しく踊ろうよ」などの言葉からわかるほど”神崎莉央と一緒に踊るダンス”が特別なものになっていきます。そもそも踊れるなら場所も何もかもこだわらないのであれば、莉央が実家に帰ってしまった後に別の人と新生LizNoirとしてステージに立っても構わないはずです。他の誰でもない神崎莉央を待っていたことからも、彼女のダンスに向ける意識に変化があったと言えます。一人きりで自由気ままに踊っていた井川葵は、自ら光を放ち輝くスコアラータイプであったことでしょう。目が離せなくて、一般の常識には縛られない彼女には、長瀬麻奈と類似の輝きがあったはずです。自分が輝きたい、とまで思っていたわけではないと思いますが、実際に三枝が声をかけるくらい目を引く少女でした。けれど、「君を長瀬麻奈に勝たせたかった」との言葉からわかる通り、莉央と出会ったことで、彼女は自分自身ではなくパートナーを、明確に”輝かせたい”と思うようになっています。誰かではなく自分のために踊っていた葵が今ステージに立つ理由の根本に、神崎莉央がいるのです。元来スコアラーであった井川葵をバッファーにしたのは、紛れもなく神崎莉央なのだと私は思います。
他方莉央は、葵と出会うまで自己研鑽は積んできたけれど、自ら星のように一等輝くことはできていませんでした。それより周囲を刺激し、更なる高みへと連れていく、まさしくバッファーの性質を持っていたことが番外編からわかります(周囲と割と早く打ち解け、良い刺激を与えていたような描写があります)。けれど、LizNoirとしてステージに立つようになってから、彼女は自ら誰より輝いていくスコアラーのアイドルへと変わります。長瀬麻奈にLizNoirとしてだけでなく神崎莉央個人としてもライバルとして見られていることも、その証左と言えるかもしれません。この非常に大きな変化は、遡っていけば、葵との出会いが最後のトリガーになったことは明白です。三枝さんが葵をバンプロにスカウトしたのも莉央の実力をもっとはっきり外に出せるようにするためでした。元々SPスキルを持たないアイドルだった、つまりここぞというタイミングで会場を盛り上げるタイプではなかった莉央が、ぶちかませるようになったのは、隣に井川葵がいるから、と解釈できます。すなわち、SPスキルを持たなかった神崎莉央をSPスキル所持スコアラーにしたのが井川葵である、とも言えるのです。すみれのところで莉央が他とは毛色の違うスコアラーであると書いたのはこういう理由によります。
 続いて二人のスキルをそれぞれ見てみます。直前で二人は互いに影響し合いアイドルとしてのあり方(=タイプ)までも変えてしまった、と書きましたけれど、面白いことに初期☆5の互いのスキルはそこまで相性が良いわけではありません。ボーカルのスコアラーである莉央は、SPスキルが残スタミナが多いほど効果上昇という性質を持ち、Aスキルはボーカル上昇効果が付与されている時自身のスタミナを回復、Pスキルが自身にボーカル上昇効果とスタミナ消費低下効果を付与する、といった性能になっています。一方葵はAスキルを二つ持っており、一つ目ではスコアラータイプ二人にクリティカル率上昇、二つ目ではスコアラータイプ二人の強化効果延長、PスキルでSPスキル発動前のアイドルにダンス上昇効果、をそれぞれ付与します。葵の強化効果が対象を広く設定しているためこの莉央に対するバフも勿論かけられるのですが、クリティカル率上昇とダンス上昇はいずれも直接的に莉央の獲得スキルを飛躍的に向上させるような効果ではありません。二人はアイドルとしてどのようにステージに立つか、を互いに変えられているのに、ステージ上のパフォーマンスを相手にとって最適なものにしようなどとは思っていないのです。二人はやりたいようにやっているだけ、バッファーがスコアラーに、スコアラーがバッファーになったのも個人が勝手に選択したことで、互いを縛り付けることは決してしていないのです。このある種食い違いにも見える点を私はたいへんLizNoirらしいと思います。番外編で、莉央が岡山に帰ってしまった時も、莉央がバンプロに帰ってきた時も、結局葵は直接的に莉央の決定に何かの作用を及ぼせたわけでもありません。同様に、葵が莉央と組みたいと言った時も、莉央が葵にこうしてほしいと考えて取った行動は一つもなく、葵が莉央を選んだのは完全なる井川葵の独断によるものでした。芽吹く黒百合の蕾やバレンタインイベントの愛とこころもそうでしたけれど、LizNoirは最終的な決断に他人は一切介入できないんですよね。周りがサポートしたり背中を押したりすることはできますが、もう一度走り出す決断自体は個人で完結しているのです。以下のツイートは、同じ内容を語っていて表現がかなりわかりやすいと思ったので引用しました。

 莉央がスコアラーとして輝いているのも、葵がバッファーとして莉央を輝かせたいと思っているのも、全部彼女自身がそれぞれ決めたこと。どちらか一方に合わせた結果、ではなく、あくまで自分たちの選択に起因する現在としてパートナーである莉央と葵らしいスキル性能だなと思います。
 また、葵のスキルで特筆すべき事項があり、これは物凄く井川葵らしさ、というか、井川葵が神崎莉央に向けている感情を的確に表現したものに思われるんですよね。それは、他のバッファーとは比べ物にならないほど効果の持続時間が長い点です。バッファーの強化効果の持続時間は30ビート弱くらいが多く、40ビートを超えたら長い方に数えられる傾向にありますが、葵の一つ目のAスキルはスキルのレベルを最大にした時その持続時間は80ビートにもなります。さらに二つ目のAスキルにより強化効果の延長も可能。ゆえに葵は上手くいけばライブ中ずっと強化効果をかけっぱなしでいられるのです。ここで、LizNoirとしてデビューしてすぐ、三枝さんがバンプロを離れることを伝えられた際のライブ終わりの楽屋での葵の言葉を思い返してみます。「僕と一緒にずっと楽しく踊ろうよ」、と彼女は莉央に言っていました。葵は思ってもいないようなことはまず言わないので(隠し事はする)、これが本心に基づいていることは間違いありません。この言葉から窺えるように、葵は莉央とのダンスが永続することを望んでいます。これを踏まえた上で葵のスキルの特徴を見ると、この非常に長い強化効果の持続時間は、いつまでも莉央と踊っていたい、ずっと莉央を輝かせたい、そんな葵の願いを反映しているようにも思えてきます。

小美山愛

 愛の初期☆5はダンスのスコアラーです。LizNoirのもう一人のスコアラーである彼女は、SPスキルで自分自身にダンス上昇効果を付与。Aスキルは強化効果が多いほど効果上昇の性質を持ち、Pスキルで自身のビートスコアを上昇させます。今回注目したいのは、愛がスコアラーである点と、Aスキルにある「強化効果が多いほど効果上昇」という性質の二つ。また、ここだけ抜き出して書いた時に想起されるのは、初期☆5がスコアラーで強化効果が多いほど効果が上昇するSPスキルを持つ川咲さくらです。優の時と同じく、愛とさくらとの共通点および相違点にも言及しながら書いていきます。
 愛の実装されているカードの中でスコアラーやSPスキルを持つものはこの初期カードのみです。それなら愛の本質はむしろスコアラーではなくバッファーやサポーターなのではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし私は、小美山愛の”核”はスコアラーである、と声を大にして言いたいのです!
 現在愛は、「LizNoirの端っこ」と悩んでいますが、水着のカードエピソードで牧野が指摘している通り、愛が目立たない最も大きな原因は自信のなさです。逆に言えば、自信さえあれば彼女は周囲が目を離せないほど眩く輝くアイドルである、ということでもあります。実際FPSのイベントでも、水着での撮影でも、その場にいる全ての人間の視線を無意識的に独り占めしていました。屁理屈のように聞こえますが、例えば繋がる心Binaryの時の衣装の沙季のカードエピソードなどを参照してみると、沙季はど真ん中でセンターを張って輝いて皆を照らすタイプではなく、一人ひとりのファンと誠実に向き合うことで本領を発揮するアイドルで、スコアラーとはまた違った輝き方をしていることがわかるので、そういうアイドルと比較した時にやはり小美山愛はスコアラーなのだと思います。初期☆5が愛の”核”であるとするなら、現在実装されている他の☆5にスコアラーがないのは、理由は一つ、愛が自信を持てていないから、と説明できます。彼女がアイドル小美山愛に心の底から自信を持てた時、どんな輝きを見せてくれるのか、今から楽しみです。
 続いてAスキルの話に入りましょう。愛のAスキルはさくらのSPスキル同様、バフ効果なら何でも獲得スコアの上昇に直結する性質を有しています。さくらのこのスキルを、前回の記事で私は次のように解釈しています。

さくらは誰のことも否定しない。サニピの5人は皆がそれぞれ違っていたけど、それでも”この5人だからサニーピースだ”と言えるまでになった、その過程で、こういったさくらの性質が大きな役割を果たしたことは明らかです。どの効果も全部全部取りこぼさないで、ありのままを肯定して、その上でさらに輝くさくらのSPスキルは、川咲さくらを象徴するような性能であると言っても過言ではありません。

アイプラ初期☆5の話(月のテンペスト、サニーピース編)(https://note.com/beans_sprouts/n/nb8dcd38e8387#55789d0d-7e0b-488d-8f9f-6d4ea8fdb315)
より引用

 上では、強化効果を限定しないさくらのスキルは、さくらが他者に与える肯定を想起させるものである、と述べています。では愛もそうなのか、と言われたら、その答えは否となります。愛のAスキルがいかなるバフ効果をも獲得スコアに直接つなげることができるのは、さくらとはまた違った理由によると思われます。
 ところで、アイドリープライドの各アイドルにはそのキャラクターを一言で言い表す二字熟語があることをご存知でしょうか。ゲームのリリース前から様々なメディアで紹介されていましたが、ゲームではファン人数が一定を超えた時に獲得可能な称号になっています。どれもそれぞれのアイドルの本質を見事に表現しているので、それについて考えるだけで個々人の理解が深まるように思えます。愛のAスキルの特性を考えるにあたり、愛を表す「真剣」という言葉が非常に有用であると思いました。
 愛は常に「真剣」です。レッスンもライブもトレーニングもこころの悪戯にも、全てに全身全霊を注いでいるのです。その成果として、愛の実力は確実に向上しています。目の前の全部に全力で挑むからこそ、目の前の全てが何一つ余すことなく、アイドル小美山愛の力になるのでしょう。したがって、愛のAスキルが効果を上昇させる強化効果を一切制限していないのは、彼女が全てに「真剣」に取り組み、その全てを吸収し輝きとして放てるアイドルだから、と結論付けることができます。そういう点からも、このカードが小美山愛の”核”を的確に映し出していることがわかります。

赤崎こころ

 LizNoirの切り込み隊長、こころの初期☆5はビジュアルのサポーター。全員のCTを減少させる、とても珍しいAスキルを所持しています。一つ目のPスキルでAスキル発動前のアイドルにAスキルスコア上昇効果を、二つ目のPスキルで自身にビートスコア上昇効果を、それぞれ与えます。ここでは、こころの持つAスキルの性質にフィーチャーしてこのカードの性能を考えていきます。Aスキルの内容を考える中で、こころがサポーターである理由にも触れていきます。
 こころのAスキルは既に書いた通り極めて珍しいスキルとなっており、オリジナリティを求めてなのかトリッキーなスタイルのアイドルであるこころらしいと言えます。しかしこのスキルで赤崎こころらしいと私が感じる部分はここだけではありません。このスキルで特記しなくてはならないのは、CT減少の珍しさの他に、この性能が他のアイドルのCTを減少させるものである点と、獲得スコアが非常に大きい点の二つがあります。
CTが減少すると、他のアイドルがスキルを発動するまでのインターバルが短縮する分、スキルの発動回数が増加します。記事の冒頭に書いた通り、今回の初期☆5カードの性能を見ていく試みでAスキルは次のように定義されています。

Aスキル:観客に見せるアイドルとしての魅力のようなもの、Aスキルを複数持つアイドルはそれだけ多様な魅力をファンに見せている

記事内「はじめに」より引用

 この定義に則れば、CTの減少によってアイドルが自分の魅力をより観客にアピールしやすくなる、と言えます。Aスキルで獲得可能なスコアは当然発動しなかった場合よりも大きいのでその分会場を盛り上げている、と言えるので、こころのスキルは間接的に観客のボルテージを上昇させているとわかります。注目したいのは、こころはあえて会場の盛り上がりのために、自分自身が目立つのではなく他のアイドルの魅力を見せやすくする方法を選んでいるところです。普段から次のセンターを狙っているなどの言動が多く、自分の可愛さを活かそうとしている、自分が一番目立っていたいように見える彼女のAスキルは他のアイドルを立てるものなんですよ。信頼度が上がってきた後のメッセージなどからも、素直になりきれずふざけていると勘違いされがちですが、LizNoir全体の魅力を底上げしたい、他のメンバーの良いところ、可愛いところをもっと沢山の人に知ってもらいたい、と彼女が本心から思い、尽力していることが読み取れます。カードエピソードのテーマが”長瀬麻奈でも神崎莉央でもない赤崎こころ”である聖歌隊こころがバッファーである点も、赤崎こころのアイドルとしての”核”が何か、という議論における一つの答えになっていると思います。ちなみに聖歌隊こころのスキルの強化対象は全て他のアイドルであり、自分自身へのバフ効果が一切ありません。このカードの性能と、初期☆5のAスキルの内容を考えると、赤崎こころは周囲のサポートやプロデュースで本領を発揮するタイプと言えそうです。したがって、こころの初期☆5がサポーターであるのはたいへん理に適ったものであると思います。
 さて、話題はこのカードのAスキルの獲得スコアに変わります。このスキルで獲得できるスコアは最大レベルで610%と、強化なしで獲得可能なスコアでは少なくとも初期☆5では最大で、おそらく2022年9月現在実装されているアイドル中でも最高クラスになると思われます。前段落でこころは周囲の長所を伸ばしたりと言ったサポートに長けていると述べましたけれど、それは決して彼女自身は陰に隠れて縁の下の力持ちをやり続ける、という意味ではありません。勿論自分がサポートに回っていることはなるべく隠したがるとは思いますが、だからと言って自分は前に出ないとは一言も言っていません。そう、他のアイドルをもっと輝かせつつ、彼女自身もどんどん会場を盛り上げていくのです。こころは周囲の背中を押すだけで満足する人間ではなく、自分も輝きたいという強い情熱を持っているアイドルです。このAスキルからはこころのそうした一面も感じられます。

長瀬麻奈

 ついに最後の一人となりました。トリを務めるのはやはりこの方、アイドリープライドにおける絶対的スターこと、長瀬麻奈です。ここまで長くお付き合いくださりありがとうございました。前回より人数が少ないにもかかわらず、既に前回の字数を超えています。不思議ですね。
 閑話休題、この記事では、長瀬麻奈の初期☆5は、恒常ガチャに登場こそしていませんが、長瀬麻奈のデビュー曲であり代名詞でもあるFirst Stepで着用していた衣装が描かれているカードがそれにあたる、として考えていきます。ボーカルのスコアラーで、SPスキル、Aスキル、Pスキルを一つずつ所持しています。SPスキルはクリティカル率が多いほど効果上昇という性質を持ち、Aスキルは自身にクリティカル率上昇効果付与に加えテンションアップ状態では隣接するアイドルのクリティカル率をも上昇させます。Pスキルでは自身にテンションアップ効果をもたらします。今回長瀬麻奈というアイドルを考える上で重視したいのは、このカードの総合的な評価、Pスキルの性能、そしてAスキルの性能です。
 総合的な評価、は私一人の偏見で記述するよりも、少しでも多くの人の偏見を反映した方が良いと考えたので、攻略サイトから以下に評価を引用させていただきました。

SPスキルはスコア獲得と同時に、「クリティカル率アップ段階数が多いほど効果アップ」が付与されています。クリ率のバフが多いほどスコアが稼ぎやすく、クリ率アップ状態なのでSPスキルでのクリティカルも期待でき、編成やタイミング次第では非常に高いスコアが獲得できるアイドルとなっています。

Aスキルでは自身のクリ率アップバフもしっかり所持していますが、それだけでは物足りないので同じボーカルであれば長瀬琴乃・水着芽衣・佐伯遥子などでクリ率を上昇させましょう。

AppMediaアイプラ攻略Wiki
「【アイプラ】[You're my every thing]長瀬麻奈の評価とライブスキル/エール」
(https://appmedia.jp/idolypride/26925127)より引用

 私もこの長瀬麻奈を所持しており、ライブで編成することもあるのですが、使っていて感じることは概ねこのサイトでの評価と同じです。私自身そこまでがっつりゲームをやり込んでいるプレイヤーではなく、バッファーを組む時はなんとなく『クリティカル率が高い方がクリティカルが頻繁に出てハイスコアが狙えるなあ』くらいの気持ちでしかないのですが、そのようなふんわり戦略であってもクリティカル率上昇がそのままSPスキルの効果上昇に繋がる麻奈のカードは非常に獲得スコアを増やしやすいので、とてもありがたいです。割と安定して高いスコアを獲得しやすい彼女は、生前の麻奈のライブを彷彿とさせます。余談ですが、この長瀬麻奈は、この攻略サイトが作成する属性ごとのカードのメインライブ最強ランキングで初期☆5さくらと並びSSという最高ランクに位置しています。たった一人でどれだけ大きな会場をも盛り上げ、わずか二年のアイドル活動でVENUSプログラムを物凄い速度で駆け上がっていった長瀬麻奈らしいと言えます。
 続いてこのカードのPスキルについて考えていきます。このスキルの効果にある「テンションアップ状態」は、AスキルやSPスキルで獲得できるスコアは上昇する一方、スキルの成功率がわずかに低下するというデメリットも
あります。デメリットは小さいものであるとは言え、他のバフ効果に比べ博打的な側面を有しているのは確かです。しかし、麻奈はそんな強化を自身に付与し、しかもこのスキルの持続時間とCTから考えるとライブ全体の8割弱で麻奈がテンションアップ状態にあることがわかります。このスキルからは、ステージに対し異様とも言えるほどの執着を見せ、「待っていてくれる人がいるなら、どんなに体がボロボロだったとしても、這ってでもステージに向かう。そして自分の全身全霊を込めて歌わなきゃいけない」とまで言う彼女の狂気性を少し感じられます。番外編でも自分の体調よりもファンの待っているステージに立つことを優先しているエピソードがありました。麻奈は自身に多少のディスアドバンテージが生じようと、パフォーマンスのレベルを少しでも高くするためならば、いかなるリスクがあろうとより大きなリターンのある選択をするアイドルです。テンションアップ状態などというものを知ったなら、間違いなく自身をその状態にすることを選ぶでしょう。多少成功率が下がっても問題ないくらいに自分の技術力を高めることでそのデメリットをカバーしようとするでしょう。そう考えると、麻奈が自身をテンションアップ状態にするスキルを所持しているのは腑に落ちます。
 しかも、このスキルがPスキルである点も、非常に長瀬麻奈らしいと思います。この記事冒頭の定義では、ファンからは彼女のこういう面はわかりにくいものであると言えます。

Pスキル:外からはパッとわからないけれどライブ中裏でサポートしたり自分にバフをかけたりといったもの、Pスキルを多く持つアイドルは、ファンに見せるパフォーマンスを高めるための努力をそれだけ多く行っている

記事内「はじめに」より引用

 ファンに見せない部分でそれこそ血反吐を吐くような努力を積み重ねた上で舞台ではそれを感じさせず眩く輝く。まさに自分を燃やして光を放ち、見ている人間に自身が燃えていると気づかせずその輝きだけが目に映る、星のようなアイドルであり、舞台裏の努力にも力を入れているアイドリープライドという作品を代表するアイドルに相応しいスキルであると思います。
 最後に麻奈のAスキルについて考えます。ここで取り上げるのは自身にかける強化効果ではなく、そこに続く「テンションアップ状態では隣接するアイドルのクリティカル率を上昇させる」という言葉です。攻略サイトのライターさんは触れていませんでしたが、この性質は私がこの麻奈を使う大きな理由の一つになっています。スコアラーでありながら、バッファーのようなはたらきもできるのです。しかも強化対象に属性やタイプの制限がないので、他のスコアラーの強化は勿論のこと、普段強化効果をなかなかかけにくいバッファーやサポーターに対してもクリティカル率上昇効果を付与できます。さらに前述した通り麻奈はライブ中8割弱の時間この追加効果の発動条件を満たしています。どのアイドルと組んでも相手に強化効果を付与できる、これは長瀬麻奈を考える上で非常に興味深い点です。なぜかと言うと、麻奈はずっとソロアイドルであり、それなら全スキルが自己強化効果である方が一人でステージに立ち続けてきた彼女らしいのでは、という見方もできるからです。しかし現実にはこのカードは他のアイドルへのバフ効果を持っています。これはどういうことなのでしょうか。
 私は、一言で表現するなら、長瀬麻奈が挑戦者であるから、だと思います。ライブバトルで戦う時も、常に相手のライブに刺激を受け、自分の成長に繋げようとした彼女は、同様に自分のパフォーマンスで相手も刺激を受けて技術を上げていくさまを見ることが好きだったことが窺えます。神崎莉央をライバルと認め意識していたのも、彼女が麻奈に勝たんとして麻奈のライブを受けてさらなる高みへ到達していくのが見て取れたから、というのも理由として挙げられるでしょう。麻奈が頂上で誰かを待っていることはありませんでした。いつだって自分も頂点を目指し、切磋琢磨する挑戦者だったのです。ゲームで閲覧できる麻奈の日記でも、ライブバトルの対戦相手のここが良かった、参考にしたい、などの記述は多数見受けられます。また、アニメ放送後のインタビューで長瀬麻奈を演じた神田さんは、次のように語っています。

―旅立っていった麻奈の視点で、(長瀬)琴乃や(川咲)さくらたちに声をかけてあげるとしたら?

神田:麻奈は「NEXT VENUS グランプリ」(若手アイドルのトップを目指す大会)で頂点に立つことなく旅立ってしまったんですよね。最終話でステージ上の琴乃に対して「まだまだ道は遠いよ」と声をかけましたが、それは「自分が先にいるから、ここまでおいで」という意味ではなく、「私と一緒にがんばろう」という、同じラインからのメッセージだったんじゃないかな、と思うんです。
彼女自身もまだまだ挑戦者としての立場を崩していないと思うので「よきライバルになってほしい」と伝えるんじゃないでしょうか?

【ネタバレ注意】「ふたりは普通で特別な存在」『IDOLY PRIDE -アイドリープライド-』
テレビアニメ終了記念 長瀬麻奈役・神田沙也加、牧野航平役・石谷春貴 インタビュー
(https://repotama.com/2021/03/149587/)より引用

 この「まだまだ挑戦者としての立場を崩していない」というキャラクター解釈は、非常に的を射ていると思います。麻奈は常にライブを楽しみ、ファンとその都度持てる全てを出し尽くして向き合ってきました。対照的なのが麻奈の死後開催されたNEXT VENUSグランプリでのLizNoirです。番外編で葵が「僕らは挑戦者だ」と改めて口にするのが印象的ですが、逆説的にこの台詞は莉央と葵の二人が前回のファイナリストであるがゆえに挑戦者ではなく頂点に最も近い者としてグランプリに臨んでいたことを示唆しています。挑戦者として走り続ける長瀬麻奈だからこそ、他のアイドルにだって輝いてほしいと願う。なぜなら自分ももっと沢山の刺激をもらえるから、周囲からの刺激は自分を更なる高みへ押し上げてくれる原動力になるから。ソロアイドルだった長瀬麻奈とは一見矛盾するようにも見えるこのAスキルは、むしろ彼女の本質と密接に結びついているのです。

おわりに

 以上でこの記事は終わりとなります。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。そして、どの口が、と思われるでしょうけれど、お疲れ様でした。なんとこの章を書いている間に、ついに字数が2万の大台に乗りました。本当になんということでしょう。
 AppMediaの攻略Wikiには前回に引き続きたいへんお世話になりました。客観的なスキル性能の評価を知ることができただけでなく、これまで正確な意味を把握していなかった要素(テンションアップなど)の定義を確認できました。本当にありがとうございました。
 流石にこじつけだろう、と言いたくなる部分も多々ありましたし、結論を出すまでに非常に時間がかかったり、言い回しが回りくどかったり、物凄く読みにくかったと思います。ここまで書いてはいますが、この内容が絶対的な正解だなどとは微塵も思っていないので、他の解釈などがありましたらむしろ是非教えていただきたいです。この記事が、アイドリープライドへの新しい切り口を提示できていれば、執筆した甲斐がありました。
 長くなってしまいましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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