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「遠さについて 特装版」鳥居 万由実

2000年代の伝説の詩集が、夢幻画家矢野ミチルの挿画27点と共に蘇る!
初期詩篇2編をおまけとして収録。

中原中也賞最終候補となり、各方面からも高く評価された詩集が、美麗な挿画と共に、今息を吹き返す。脳味噌の裏をくすぐるような、夢意識をわたりあるく、矢野ミチルの描きおろし画を多数収録。


ああ 冬眠に失敗しちゃったんだね、あねき。
冬眠に失敗した熊は、氷に埋もれ
いい頃合いに光りはじめる
涙 とも いのちの火 とも ちがう

(「名寄の冬」より)

推薦の言葉

鳥居万由実の詩が歌うのは、<ことば>が<ことば>であるがゆえの遠さなのか。それとも、<ことば>がもはや届かない距離なのか。ひそやかな魂の旅から、光、音響、律動、心象が次々と生まれ出ては、さまざまな人称、数、性、種(動物や植物)にひととき宿り、そしてしずかにそれらを破壊してゆく。もう誰が歌っているのか分からない。こうして読者は、いつか不思議な寒冷地へ導かれ、かつて見たことのない空を見るだろう。(鵜飼 哲)

鳥居万由実の『遠さについて』はやんちゃな幼児のおもちゃ箱のようだ。歪んでいる音、ピカピカした反射、そして手垢にまみれた布地。それらが不恰好なパッチワークのようになっている。調性もなく超越的な高みをめざしてもない、整然とした印象とは真逆である。しかし、突然いまここにないはずの不思議な明るさと鼓動が鳥居の詩には天使のように出来する。鳥居は「悪い子だけにあたえられた特権」としてだれが見ても異端的でだれがみても魅力的な超越への接触をこころみているのだろうか。私はそれを畏怖する。
(佐藤 雄一)

更新履歴

2022年8月25日:随所にスペースを入れて読みやすくしました

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