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【34話】不倫があっさりバレる

あの不倫旅行から少し時間が経った。私はまだC氏と電話で遠距離恋愛をしていた。

ある朝、夫が暗い顔をして近寄ってきた。「話がある」。何のことかすぐわかった。彼は私のオフィスの電話請求書を差し出し、「月に2000分も誰と喋ってるんだ。しかもかかってくる電話番号は全て同じ。写真を隠し持っていたのも知っている」。

「。。。。」私はしばらく無言で俯いていたが、隠し切れるわけも無かった。「ごめんなさい。別れる」と言った。

それっきり、しばらく夫との会話は無かった。そして彼に「夫にバレたからもう電話はできなくなった」と言った。今ならスマホを使い分けたり巧みにテクノロジーを利用できるんだろうけど、その頃まだ不倫するのは難しい時代。メールの内容をチェックされないだけでもまだマシだった。E mailだけまだ繋がってる。
他に良いアイディアは浮かばなかった。それ以上夫が私を責めれば確実に離婚になる事を私たちは知っていた。私も今すぐ夫と別れてまで彼の方に飛び込む大胆な考えをまだ持てなかった。もし浮気相手が寛容さを持ち合わせていたとしたら、別の展開になっていたかもしれない。

彼と電話ができなく寂しい日々が過ぎていった。でもまだ別れたわけでない。Yogaに行く旅に彼とのセックスを考えていた。

一方で私のエイジニアの出張通訳サポートは個人契約に切り替わり、新規多くの依頼が入って来た。建設現場はほとんどが何もない田舎だったが、たまに高級リゾートの現場もあった。ネブラスカ州、イリノイ州、アイオワ州、カンサス、テキサス州などから、フロリダの高級リゾート地まで、日本からのエンジニアをサポートしながら何週間もホテルに滞在した。

出張依頼がある度、彼と会えるチャンスを探っていた。2人がその気なら逢い引きは米国のどこかでできる。

私にとってこの仕事は最高だった。夫と離れる理由が正当化され、自由なホテル暮らしをしながら収入が確実に入ってくる。派遣エンジニアは皆良い人で真面目な人ばかりだった。次第に建設現場の仕事にも慣れ、ワーカー達との付き合いも楽しくなっていた。

元々目指していたメディアの仕事からは程遠いが、収入が定期的に入ると「自分は独立できるのではないか」(離婚)という希望が湧いてきた。

そして、ついに私の通訳担当現場が彼の住む同じ州にあてがわれた。絶好のチャンスだと思いすぐに連絡した。彼も嬉しそうに「すぐ会いに行く」と即返事があった。また久しぶりの再会に胸をときめかせた。私が滞在するホテルの部屋に彼を誘った。もちろん泊まりで。

作戦は成功した。2人とも勤務がない週末を選んで出張先のホテルで逢引きをした。まるで恋人同士のように映画を観たり、ディナーを食べたりデートを楽しんだ。人に憚る事なく2日間の週末を2人きりで過ごした。

でもこの再会以来、私は彼に会っていない。あれだけ燃え上がったのに、この時、私の中で潮が引いていくのを感じた。テキサスの田舎育ちの彼と都会育ちでサンフランシスコで暮らす私とは生活習慣や価値観があまりにも違いすぎた。

例えば、食べ物と言えば肉、毎日6パックの「バドライト」ビールを飲み干す彼に対して、オーガニックで質の良い食事やカクテルを愛する食生活の違いだったり、食事マナーや生活習慣などあらゆる面で住む世界が違うと感じた。

そういえば、彼がベイエリアに来た時もシーフードが美味しいレストランに案内したところ、メニューには地元のクラフトビールばかりでがっかりされたり、肉といってもステーキではなく皿にアレンジしてある肉の量の少なさに苛立ったり、些細な事だけど価値観の違いは鮮明だった。

潮が引いた後、「あの時、燃え上がっていた感情のまま、この人に飛び込まなくて良かった」と思った。その後彼から何度かメールをもらったが返事をしなかった。中途半端な対応をして彼を傷つける事は避けたかった。 こうして私の不倫騒動は終焉を迎えた。

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