![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141351314/rectangle_large_type_2_356790dc71c426a1c9cc47bd9c7ffbf9.jpeg?width=800)
第十八回:かさばっていた時代第十八回:かさばっていた時代
川崎大助『スタイルなのかカウンシル』
Text & Photo : Daisuke Kawasaki
ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。「音楽誌には絶対に載らない」音楽の話、その周辺の話など
![](https://assets.st-note.com/img/1716275500362-eavW1GVgZJ.jpg?width=800)
いつまで経っても片付かないので、自分なりに一念発起して、古い段ボール箱をいくつか開けてみた。すると、VHSテープの山があった。
![](https://assets.st-note.com/img/1716275525039-RGixLKDgpw.jpg?width=800)
この段ボールは、書庫に積まれていたものだ。まあ書庫とはいえ、レコードやCDも収納されている。さらにまあ、そこに収納しきれないものが、他の部屋という部屋の壁面や、作業デスク周辺のそこかしこに、縦に横に積まれている……のだが、そのこと自体はしょうがないにしても(しょうがなくはない、のだが、本当は)。なによりも見逃してはならないものとして「棚の周辺に積まれた無数の箱」が、気になってはいた。かなり前から。
そこで一念発起したのだが、あからさまに「発起」が遅かった。なぜならば、僕の手元にはもうVHSデッキはない。これらを観てみる手段はない。だから手放すことになると思うのだが、その前に、一部を積み上げてみた(あくまでも一部だけを)。
![](https://assets.st-note.com/img/1716275558009-7RqXCvJ1xF.jpg?width=800)
買った時期は、おそらく90年代からゼロ年代初頭までのあいだに集中しているようだ。いまよりもずっと円が強かった時代、渡米してはあれやこれや、まるで輸入業者のように持ち帰っていたなかに、かの地で市販されていたVHSテープがあった。DVDは、ある時期まではさほど買ってはいなかった。リージョンを切る、などという不条理な行為を、メーカー側がおこなっていたからだ。たしかタイ製の全世界対応リージョン・フリーDVDプレイヤーを手に入れてからは、購入の中心はDVDに移ったのだが、それまでのあいだに、段ボール箱いくつか分のVHSが溜まっていた、らしい。国内のレンタル店放出のモノ、配給会社からいただいたサンプル品なども、かなり溜まっていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1716275582578-lGkY6j0nw8.jpg?width=800)
なかでも、まとめ買いしたボックス・セットが大いに場所をとっていた。日本ではコストコと呼ばれている(しかし本当は t は発音しないので「コスコ」ぐらいが正しい)ディスカウント店をよく利用していた。オアフ島にいる親戚が会員だったからだ。ちょうど90年代終盤ごろ、同店では「ボックスものVHS」の花盛りだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1716275601931-W9vAwS5xbl.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1716275620407-PsBXhc9fMr.jpg?width=800)
ついこのあいだ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のVHSに、競売で7万5000ドルの値が付いたというニュースがあった。まあ出品者がビフ・タネンを演じたトム・ウィルソンで、パッケージに彼のサインなどがあったせいでの金額だったとは思うのだが、なんらかの形でVHSへのニーズがある、ということのあらわれであったとするならば、面白い(だからといって僕の放出品に高値が付くことはまずないと思うが)。
VHSは、かさが張る。そこが、かわいいと言えばかわいい。まるで大型のカセット・テープみたいだ。むかしのレコーディング現場や、TV収録の現場を記憶している人なら「弁当箱」の簡易版にも思えるはずだ。かつてそういった場所では、ソニーのUマチック・ヴィデオテープが最も信頼性の高い媒体として使用されていた。その通称に「シブサン(テープ幅が4分の3インチだから)」というのと、外見の連想からの「弁当箱」があった。音楽作品のマスター・テープをおさめる器としても「弁当箱」はよく使用されていた。
いま人類は、歴史上初めて「パッケージなしで」文化的制作物を流通させることに成功しつつある。ゆえに、ちょうど逆方向への意識の流れとして、失われゆくものへの惜別の情を超えて、パッケージに「新しい意味」を見出すかのような時代が始まっている、ようだ。現在のアナログ・レコード人気再燃は、うまくすれば、写真技術が普及したあとの複製絵画のような位置を得られる可能性すら感じさせる(ダメかもしれないが)。VHSがレコード同様の位置に付くことは、まずないだろう。けれどもしかし、あってもいいような気も、しなくもない。
次回もお楽しみに!
![](https://assets.st-note.com/img/1716275650205-xDiFjzUhM8.jpg)
かわさき・だいすけ。作家。
その前は雑誌『米国音楽』編集長ほか。
近著は『日本のロック名曲ベスト100』『僕と魚のブルーズ 評伝フィッシュマンズ』。
ほか長篇小説『東京フールズゴールド』『教養としてのロック名盤ベスト100』、翻訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生』など。
Yahoo!ニュース個人オーサー。
Twitter:@dsk_kawasaki(https://twitter.com/dsk_kawasaki)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?