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彼女の名前はラザン・アンナッジャール

ラザン・アンナッジャール という人

 ラザン・アンナッジャールは、2018年にガザ地区で死亡した当時21歳の看護ボランティアである。彼女はパレスチナのNGOであるPalestinian Medical Relief Society (以下PMRS)の一員として、ガザ地区とイスラエルの国境付近で救急医療に従事していた。
 ガザ地区では2018年3月から月に一度、占領に対するハマス主導の大規模な抗議活動である「帰還の大行進」が行われており、イスラエル側は国境に3月時点で約100人の狙撃兵を配備していたアンナッジャールは経済的な理由から大学に進学せず18歳の時からPMRSの活動に参加して救急救命の訓練を受けており、「帰還の大行進」開始当初から現場で救護活動に参加していたという。
 アンナッジャールは、デモ参加者ではなく医療従事者であることを示す白衣を着用し、他のPMRSのメンバーと共に参加者の救命救護活動にあたっていたが、6月1日に患者を救助しようとした際にイスラエル兵に胸部を狙撃され死亡した
 彼女は生前からThe New York Timesの取材を受けるなどメディアに露出しており、複数のインタビュー動画や救護活動中の彼女の姿を伝える写真が残っている。彼女の死はアルクドゥスアルアラビー(القدس العربي)やアルジャジーラといったアラブ系メディアではもちろん、CNNやBBCといった欧米のメディアでも報道された。日本では、PMRSと協力関係にあった日本国際ボランティアセンター(JVC)がイスラエルの過剰な武力行使を非難し、日本YWCAやパルシックなど他のNGOと共同で河野太郎外務大臣(当時)にイスラエル政府への働きかけなどを求める声明を出した
 アンナッジャールの死を受けて、ガザ地区で行われた彼女の葬儀には数千人が集まり、ガザ市では国連事務所の前でPMRSの医療従事者らが抗議活動を行った。またPMRSのトップであるムスタファ・バルグーティ代表によれば、彼女に影響を受けてPMRSのボランティアに参加する人数が増えたという。アンナッジャールの母親であるサブリーン・アンナッジャールも彼女の死後、PMRSの医療ボランティアとなった。

殺害の検証

 彼女の死の責任問題に関して、IDF(イスラエル国防軍)は彼女がハマースの「手先」であったという言説を作り出しこれを乗り切ろうとしていた。IDFのアラビア語メディア担当アヴィカイ・アドライ大佐はTwitterで以下のようなビデオを投稿している。

 このビデオでは、アンナッジャールとみられる女性がガザに打ち込まれた催涙弾を素手で投げ返す映像(催涙弾は数メートル先の茂みに落ちた)及びに彼女がインタビューに応答している映像を繋げた動画が使用されている。インタビュー動画は元の動画からかなり編集され、アンナッジャールが「私は人間の盾です」と答えている箇所が切り抜かれているが、本来彼女は「私は前線で怪我を負った人の救護者としての、人間の盾です」と語っていた。しかし、上記のツイートは、彼女がハマースの「人間の盾」であったと主張するものである。

 またIDFの幹部は、IDFのスナイパーは暴力行為や国境のフェンスを切断するなど脅威となる行為に対し、最終手段として実弾を発砲するとしている。しかしThe New York Timesが当時撮影されていた1000以上のビデオや写真を用い、大規模な3D検証を行った結果、当時アンナッジャールが負傷した現場と発砲したスナイパーのいた場所の間において、暴力行為はなかったことを検証している。IDFは「黄色いシャツの男」が暴力行為をしており、アンナッジャールを殺害した弾丸は彼に向けたものであったとしたが、周囲で撮影されていたビデオにはそのような証拠はなく、また「黄色いシャツの男」とみられる人物はフェンスから120ヤード離れていたことも明らかになった。

 2018年の「帰還の大行進」だけで、ガザでは6,000人以上のパレスチナ人が撃たれ、180人以上が亡くなっている。死傷者の中には、アンナッジャールのような医療ボランティアや、ジャーナリストも含まれている。

 IDFは武力行使に関して、対外的には「最後の手段」としている。しかしThe New York Timesの記者はこの発砲を以下のように書く。

Though Israel later admitted her killing was unintentional, the shooting appears to have been reckless at best, and possibly a war crime, for which no one has yet been punished.             By David M. Halbfinger Dec. 30, 2018

「イスラエルは後から彼女の殺害が意図しなかったものだったと認めたが、発砲は良くても見境のないものであり、戦争犯罪の可能性もあるが、これに関してまだ誰も罰されていない」

Y.S. 

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