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イスラエルによるアパルトヘイトに対する国連人種差別撤廃委員会での取り組み

 ここ数年、イスラエルのアパルトヘイト政策に対する国際的圧力が高まっている。こうした中で国連の人種差別撤廃委員会も、人種差別撤廃条約第3条(*1)に照らしてイスラエルのアパルトヘイト政策に取り組み始めている。以下、同委員会での取り組みを紹介したDavid KattenburgのMondoweissへの寄稿記事を抜粋して紹介する。

 まず、イスラエルによるアパルトヘイト政策に対する国際社会からの批判として、近年は以下の動きが生まれてきた。

●2013年オランダ・南アフリカ人の法律家John Dugardとアイルランド人研究者John Reynoldsがイスラエルのアパルトヘイトを批判する論考を出版(だが、これは学者サークルの間でしか関心がもたれなかった)した。

●2017年、国連西アジア経済社会員会(ESCWA)は、Richard FalkとVirginia Tilleyの招集の下、イスラエルのアパルトヘイト・システムについての精力的な調査・分析を行い、報告書を完成させた。

●そして去年、イスラエルの人権NGOのB’Tselemと国際NGOのHuman Rights Watchによる報告書が出され、今年2月にAmnesty Internationalによる報告書が発表された。

 こうした中、パレスチナ国家は2014年に人種差別撤廃条約に加盟し(*2)、2018年には人種差別撤廃委員会の「国家通報」制度を使ってイスラエルの「人種隔離」と「アパルトヘイト」について申し立てを行った。

 これに対しイスラエルは、パレスチナ人はイスラエルの法制度の中で救済されていると主張してアパルトヘイトの事実を否認しただけでなく、パレスチナ国家は同条約の正式加盟国ではないために通報する資格がないとして説明責任を拒否してきた。だが2019年12月、人種差別撤廃委員会はこれらイスラエルの主張を認めず、パレスチナ国家は正式加盟国として通報できる資格を持つとの判断を下した(賛成13、反対5)。また2021年4月には、委員会は条約第3条を引用して(ただしこの時に「アパルトヘイト」の語は使われなかった)、イスラエルの「全体的な制度および実践」に根差した制度的な人種隔離の明白な証拠を引用し、パレスチナ国家による通報の受理を全会一致で決定した。

 上記の決定の際、委員会が依拠したのは2012年と19年に出した「定期報告書」だった。2019年の報告書は、「(…)イスラエル社会は、条約第3条に関わる問題となる(…)分離された地方自治体の存在、不平等な条件下での2つの教育制度などを含め、ユダヤ人と非ユダヤ人部門を維持するために隔離を続けている」(第21段落)と記すなど、イスラエルによる隔離政策を指摘している。

 昨日2月17日、委員会内でパレスチナ国家の通達に対応して調停委員会を設立する声明が出された。今後の見通しとしては、調停委員会が独自の報告書を発表するかどうかが一つのポイントとなる。報告書が発表された場合、それに対してイスラエルが説明責任を果たさなければ、報告書は条約加盟国である182か国に通知を送られることもある。加盟国で対応が検討され、国連総会でのイスラエルによるアパルトヘイト終結に向けた決議につながる可能性もある。
 
 しかし、この記事では国連人種差別撤廃委員会の取り組みが「不透明」と表現されており、同委員会の動きをイスラエルのアパルトヘイト終結に向けた実質的な動きと断言することは時期尚早である。委員会の動きを阻止するためのイスラエルと米国のロビー活動はますます加速するだろう。イスラエルのアパルトヘイト政策への批判を国連において実質的なものにするためには、パレスチナの脱植民地化に連帯する市民たちの声が不可欠である。イスラエルに国際法上の責任を負わせるため、国連や日本政府へも働きかけを強めていきたい。

*1 人種差別撤廃条約第3条は「締約国は、特に、人種隔離及びアパルトヘイトを非難し、また、自国の管轄の下にある領域におけるこの種のすべての慣行を防止し、禁止し及び根絶することを約束する」としている。

*2 パレスチナ国家は2012年に国連総会でオブザーバー国家の資格を得たことで同条約およびその下で設置された人種差別撤廃委員会に加盟できるようになった。

(Miheng K)
 

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