【2019年3月19日掲載】OFC (Optical Fiber Communication Conference and Exhibition) Report
Cloud&SDN研究所の加藤です。2019年03月03日から03月06日まで米サンディエゴにて開催されたOFC (Optical Fiber Communication Conference and Exhibition) に参加してきました。これまで私は研究開発に関わる内容として当ブログにてOpenStack Summitのレポートであったり、クラウド相互接続、オープンソースなソフトウェアやスイッチについての記事を書いてきました。しかし気が付けば物理層寄りのネットワーク技術も扱うようになり、今回の投稿はこれまでの内容とは異なる、光技術周りの調査の出張レポートになります。
OFCとは
OFCは光通信技術のカンファレンスです。OFCチェア曰く「この会でビジネス上の課題を議論し、顧客の要求を満たすための潜在的な技術的解決策をしましょう。」とのことで、ここでは光通信技術の産学関係者が集まり、展示会や技術カンファレンスや研究発表が行われます。最近の当社はデータセンタ・インターコネクト(DCI)について力を入れており、日々伝送技術を追っています。そして今回、データセンタネットワークの最新の技術とこれからの技術を見るため、サンディエゴの地へ行きました。
今年のOFCのテーマは 「OFC 2019 Closes Strong with Focus on 800G, 400ZR, Real-World 5G and Next Steps in Network Speed and Efficiency」でした。800G… 既に少なくとも私どもが使う機器では扱いきれない速度の通信を視野に入れた内容や、直面する5世代目携帯網に対する研究発表であったり、そこへ向けての光技術専門の会社や大学、通信機器のベンダなどの取り組みとデモ展示が行われました。
OFC全体のノリ
OFCは5日間開催されました。最初の2日間はカンファレンスのみの期間でネットワークから光素子の実装周りまでの幅広い技術研究発表が行われ、残りの3日は展示会や公開セッションが開かれました。また、全体の期間中は合間に学術ならびに企業の研究内容のデモや、ポスターセッションの時間もありました。
最初の2日間は非常にアカデミックな内容から装置ベンダの取り組みまで幅広い研究の話を聞くことが出来ました。残りの3日間の展示会は企業の展示だけではなく、多種の400G対応機器とトランシーバの相互接続試験や、多種の伝送装置にて伝送網を作る Open Line System (OLS) のデモンストレーション、各ブース間を接続しての動態展示が行われ、Interop に引けを取らない非常に説得力のある展示内容でした。
Optical Network Switching
私は主にデータセンタネットワークに関する情報を収集していましたが、私の知るデータセンタネットワークと、OFCで話されるデータセンタネットワークに大きな違いがある事に、まずは衝撃を受けました。直近の我々が話すデータセンタネットワークは主に「スケールしやすいネットワークを目的に、L3スイッチをLeaf/Spine構造で接続し、IP終端する」事を指していましたが、OFCで話されるデータセンタネットワークの殆どが、L1スイッチでデータセンタネットワークを作る Optical Network Switching についてでした。(データセンタ関連の発表に参加すると、必ずこの話が出ます)
なぜ Optical Network Switching か
① 光技術の成長が 400G、そして既に800G超を視野入れているのに対し、スイッチ用ASICの実装が遅れている事、② L2/L3ネットワーク機器経由することは光⇔電気の変換 (OE) 変換をすることであり、装置を出入りするトランシーバを経由する度に必ず遅延が発生する事、(そしてL2/L3の複雑なトポロジの場合にはそれを繰り返すことで遅延が蓄積する事)④ L2/L3ネットワーク機器をたくさん並べる事は大量の電力消費を意味し、データセンタ網を光の切り替えることで消費電力の効率化ができる事
これらを軸に Optical Network Switching のデータセンタ利用における優位性の話がされていました。 ただし、研究発表の場ということもあり、概念の話が主であるのと、その中でプロトタイプを作った話が幾つかあるくらいでした。「将来技術」として研究をしているのが現在の Optical Network Switching の状況となります。実際に語られた Optical Network Switching の実装例は下記の内容になります。
STRATトポロジ
エンドポイント全てをフラットメッシュに接続する案Arrayed Wavelength Grating Router (AWG-R)
光の波長をベースにルーティングを行う実装案RotorNet (Rotor Switch)
sigcomm 2017にて話されたOptical Networking の実装案
また、上記のように主に概念や試験が語られる研究発表の中で、 Delta Electronics社 の OPTUNS は 現状で伝送技術として枯れている Add/Drop の組み合わせにより、小規模 (≠メガデータセンタ) の Leaf/Spine 構成の撤廃と、各ラックで光のパス (トンネル) を Transport SDN (OpenFlow) で自由に組むことが出来る構成の研究発表とブース展示を行っていました。
ただし、昨今のデータセンタが求めるのは先述のとおり「簡単にスケールする」部分です。これらの提唱するネットワークでできる「高速な光パスの作成」が必ずしも欲しいものと一致するかと言うと、そうだとも言えないところではあります。しかし光技術からのアプローチの場合にネックに思っている部分は我々が見落としている部分を正しく指摘してします。本来データセンタが正しく取り組めたらよいところである省電力に注目する点については、目から鱗が落ちるところで、考え方が広がるよい機会となりました。
Open Line System (OLS)
Open Line System (OLS) は Telecom Infra Project (TIP) が提唱する、伝送網のオープン化の仕組みとなります。平たく書くと、これまで伝送網は1社の装置群で組む流れがありましたが、伝送も標準化されていますよね?伝送網は光の特性に依存するものですよね?役割を分けて多種の装置も組み合わせで伝送路 (Line System) は作れますよね?ということで、多種の伝送装置の混在もさせて組む伝送路が OLSであり、 伝送網の Disaggregation の動きとなります。
OFC ではFujitsu社製のトランスポンダをCiena社製とFujitsu社製のROADM (※1) を通り、Ciena社製のトランスポンダと接続し、データの送受信させるOLSの動態デモンストレーションが行われていました。各社のROADM は OSS SDNコントローラであるOpenDaylight を使用して、伝送路をコントロールしていました。
光を通すだけのパッシブなMux/Demux (合波/分波装置) については特に何もする事ははありませんが、光を動的にコントロールするROADMについては、コントローラが必要です。OLSとして異種のベンダのROADMを混ぜて伝送路に使用した場合には、ベンダ毎のコントローラが必要となります。そこで仕様が統一されたAPIとしてOpenROADMの仕様が現在整えられていまして、コントロールの一元化する動きがあります。恐らくはここで使われていたであろう、OpenDaylight Transport PCE もOpenROADMに影響を受けているコントローラの一つになります。
先刻の Transport SDN として使う OpenFlow もそうでしたが、L1の世界でもよく知るコントローラ名が出てきまして、個人的には「やってよかった SDN」です。
またOLSとは少し離れる部分ではありますが、伝送装置のうち発光・受光・OE変換を行うトランスポンダの相互接続については、装置毎の実装の違いから難しいというのが私の認識でした。しかし、 今回のOFCではOLSのデモンストレーションとしてFujitsu社、Ciena社の接続が行われていたほか、NTT未来ねっと研究所による異なるDSP (Digital Signal Processing) チップ同士の相互接続デモンストレーション が行われていました。トランスポンダ筐体はホワイトボックスである EdgeCore社の Cassini を2台利用し、筐体に複数社の異なるDSPを積んだトランシーバが接続されていました。
200G CFP2 ACO※2 (Lumentum製) <=80km=> 200G CFP2 DCO※3 (Acacia製)
200G CFP2 DCO (Lumentum製) <=80km=> 200G CFP2 ACO (FOC製)
200G CFP2 DCO (Lumentum製) <=> 200G CFP2 DCO (Acacia製) (口頭確認)
これによりトランスポンダのDSPも同じ機種を使わずに接続が出来る未来が見え、非常にありがたい内容でした。メーカーは違えどDSPチップが同じ場合も考えられましたが、ACOが利用するDSPはほぼNTTエレクトロニクス社のチップが主流である事、DCOはそれ以外 (Acacia, Lumentum) であると想定すると十分に相互接続は取れている事が見えてきます。
※1 ROADM: Reconfiguarable Optical Add/Drop Multiplexor
動的に光波長の出し入れする装置
※2 ACO: Analog Coherent Optics
挿す筐体側のDSP用チップを用いて変調を行う為の伝送装置向けトランシーバ
※3 DCO: Digital Coherent Optics
DSP用チップをOpticsに内蔵して単体で変調を行う伝送装置向けトランシーバ
Transceiver動向
OFCの展示会では多くのファイバのコネクタから発光/受光の素子などの部品から伝送部品、400Gスイッチ迄、幅広いプロダクトが出展されていました。その中で光部品がパッケージングされた集大成である、トランシーバも多数のブースで見かけました。
400G
サードパーティの400G用のトランシーバは既に多くのトランシーバを生産する企業が展示をしていました。200G/400Gについてはトランシーバの形状の変わり目でQSFP-DD (QSFP56-DD) とOSFPが主流になりつつある現状、OFCの展示では
展示数: QSFP-DD > OSFP >>>>> CFP8
といった具合の展示数でした。(CFP8についてはほぼ見かけませんでした) QSFP-DD が非常に多く、QSFP-DDだけを扱うと企業もありましたが、逆にOSFPだけを扱う企業は見かけなかった印象です。会場ではQSFP-DDからOSFPへの変換アダプタも見かけるほか、 トランシーバの実装面積の大きさがOSFPに比べて小さいにも関わらず光を扱える種類がOSFP同等 (≒実装密度を上げることに成功している) ように見え、数量含めてQSFP-DDに勢いがあるのかなと思える展示状況でした。
次に、その400Gが扱う光の種類について書きます。
OFC会場では 400G-SR8、DR4、FR4 がほぼReady、そしてLR4 を扱っているところが出始めていました。また、LR8の規格は存在するものの殆ど会場で見ることはありませんでした。SR8については MMFファイバで新しくできた16心MPOが必要ですが、MMFファイバ数を半分+従来の12心MPOで接続が出来る SR4.2 (BD4.2) の実態デモも一部では行われてまして、MMF周りの400Gにはもうひと動きありそうです。
また、SOURCE Photonics社のブースではOFCで唯一の 400G-ER8 の試験デモンストレーションが行われていました。40kmのボビンファイバを経由させてFEC (Frame Error Correction) で訂正可能な範囲での伝送を行うデモになります。今回は長距離伝送用のQSFP-DDトランシーバが表に出始めていることから、小型化しつつ距離を伸ばせる技術が進んでいることが実感できます。
そして、400Gについてはさらなる長距離伝送の動きがあります。400G-ZR/ZR+です。QSFP-DD/OSFPに収まる80/120km DWDM 伝送用トランシーバになります。前述のDCOとほぼ同等です。これはスイッチメーカーでも挿さることを想定しているらしく、近しいデモや装置ベンダ側でもパッケージングして出す計画などを耳にしているため、こちらについてもこれからの動向に注目です。(そしてCFPとは…という気持ちになってきます)
100G
OFC会場でトランシーバを取り扱う企業は何処でも100G のものを展示していまして、十分入手しやすい状況であることを実感しました。ただ、その中でも幾つか100Gの新しい動向もありました。DR、FRのコモディティ化の兆しです。これまでのSR4、LR4、CWDM4はいずれも方式は違えどデータレートが 25G の光を 4レーン使用して100Gの接続を実現していましたが、DR、FRはデータレート50Gの光をPAM4(Level4 Pulse Amplitude Modulation) 変調する事により1波長で100Gの接続を実現します。今回こうして話題となっていたFR、DRのトランシーバもOFC会場のどこでも見れるようになり、より扱いやすい100Gが提供されつつあることを改めて実感しました。
また、DWDM伝送路に流しやすい波長 (C-Band: 1530-1565nmの波長帯) 2つ「うまく」使っての100Gの80km伝送を想定したトランシーバが複数出展されていました。有名どころですと、Microsoft社と共同で開発と実績を積んでいったInphi社のColor-Zになります。これまでですと、この仕様のトランシーバは Color-Z 一択の状況でしたが、今回のOFCで同様のもののプロトタイプを他の企業で見かけはじめたのも、大きな市場の変化でしょう。
OFCでは1波長で 400G伝送を可能とする ZR/ZR+ といった、DCO (DSPチップを積んで光コヒーレント技術※4 を使ったもの) の話がされている中で、100G にも手軽に入手出来る ZR みたいなものがあると、現状のデータセンタ内機器で直接のバックボーン延伸が出来て個人的には嬉しく、これからの動きに期待したいところです。
余談としては、数量、価格もこなれつつある100Gトランシーバですが、さらなるコストを優先したのQSFP28 50GBase-LRのトランシーバを会場に見かけましたのも新鮮でした。こちらのトランシーバはIPバックボーン的な観点ですと?となるものですが、中国系の5Gインフラを展開する際の需要(主にコスト面)があって出来たトランシーバと聞きます。
※4 光コヒーレント技術:
同特性の光に対し振幅や位相変調する事により、多値を取ることが出来る技術
現地で見たトランシーバまとめ (MSA寄り表記)
LAN-WDM: 1306 – 1318nm 帯の波長
CWDM: 1291 – 1351nm 帯の波長 ※CWDM8の場合は1264.5 – 1417.5nm
SWDM: 840- 950nm帯の波長
Over The Top (OTT) の動向
OFC展示会中のセッションではOTT事業者のFacebook、Microsoft の方が登壇し、自社の取り組みについての話がありました。
Microsoftでは同じリージョン内のデータセンタは0-80km圏内(ほとんどが40km内)に置く方針、そして、リージョン間をつなぐための伝送用データセンタの存在を説明したうえで、リージョン内の各データセンタが伝送用データセンタへ Inphi社 Color-Z を用いて接続している事、伝送装置を入れていたものを年々縮退させて、上記のWDMトランシーバに推移していることを発表されていました。ここ3年、自社網でのDWDM装置の使用率が年々増加しているようで(各センタで伝送装置を置く方針から、センタ内のネットワーク装置が直接長距離伝送する方針)、いかに100Gの長距離伝送トランシーバが有効か、そして、400Gになった時も同様に対応が出来るといった話が主でした。
Facebook社についてはここ2年でホワイトボックス・トランスポンダのVoyagerを設計して、新しいトランスポンダのあり方を世の中に広めていました。この動きは一つの回線を伝送装置で多重化して、シンプルに帯域を太くしたい+既存の伝送路に乗せられるくらいの動きだったかと思いますが、今回のOFCではOpenRoadmの仕様の話に力を入れているといったメッセージを残し、本格的に伝送路のオープン化 (OLS) に手を入れ始めようとしているように見えました。
その他気になったもの
身近な100G、400Gの周りの展示についてはどれも目を奪われ、大体の内容は既に上記のとおりとなります。敢えて紹介していない毛色の違うものを挙げると「Innovium TERALYNX」です。私の不勉強かもしれませんが、OFCへ行くまで全く知らなかったASIC が400G Readyの状態で出ていて、複数の企業でデモンストレーションで同ASICを積んだスイッチが使われている事に驚きでした。Innovimu社のCEOが元Cavium、CTOが元Broadcom とのことで、非常に面白い動きをここでも垣間見ることが出来ました。
所感
今回初参加のOFCですが、商用のイベントとは異なり産学がしっかり協調されてしっかり先端を追うイベントであることを肌で感じました。またそこで話される内容がこれからの光技術であったり、現在の大手の動向についても直接知ることが出来、非常に有用なイベントとなりました。Optical Network Switchingについては研究寄りではありましたが、データセンタネットワークを再度考えさせられる内容であったり、方式はいずれにしても伝送を含めて、光周りの技術はデータセンタには欠かせないということを再認識させられました。
あとは、研究寄りが色濃いかというとそうでもなく、商用イベントとしてもしっかりしていました。国内の展示会とちょっと違うなと感じたのは、展示会では色々な企業ブースは限られた区画の中で展示のほか個室を広くとって商談用のスペースを作るところ、秘密のデモンストレーション行うなど商売気も多く、プロダクトを探すといった目的でも十分なイベントでもありました。会場では、
私「xxxなトランシーバ探しているんです。」
某「へぇ・・・作るよ!」
私「えっ」
某「年何個消費します?」
私「すみません。興味本位で言いました。許してください。」
といった一幕もあり、目的が合致するとビジネス寄りの話もガッツリとできる場のようです。5日間となりましたが、技術的にも動向を知る分にも非常に満足できるイベントでした。来年、機会がありましたら参加できればと思います。