量子計算学習ノート - 量子力学の公理6
この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。
今回の記事では量子測定の中でも特殊かつよく使われる測定である射影測定について議論することにする。
射影測定は測定されるシステムの状態空間上のエルミートオペレータである観測量$${M}$$の下に記述される。
この測定は一般的な量子測定の特別な場合だ。実際一般的な量子測定において、測定オペレータ集合$${\{M_m\}}$$として、互いに直交した射影オペレータの集合をとると、射影測定になる。
射影測定は多くの有効な性質を持っており、特に有用なのは期待値の計算の容易性である。実際、射影測定における観測量$${M}$$の期待値$${\lang M \rang}$$は次のように簡単な式として求めることができる。
$$
\lang M \rang = \sum_m m p(m) = \lang \psi | \sum_m m P_m | \psi \rang = \lang \psi | M | \psi \rang
$$
この期待値の式から、分散$${(\Delta M)^2}$$を次のように求めることができる。
$$
\begin{array}{l}
(\Delta M)^2 \\
= \lang (M - \lang M \rang I)^2 \rang\\
= \lang\psi| (M - \lang M \rang I)^2 |\psi\rang\\
= \lang\psi| (M^2 - 2\lang M \rang M + \lang M \rang^2I) |\psi\rang\\
= \lang M^2\rang - \lang M \rang^2
\end{array}
$$
したがって標準偏差$${\Delta M}$$は$${\sqrt{\lang M^2\rang - \lang M \rang^2}}$$により求まる。これらの統計量を容易に求められるため、ハイゼンベルグの不確定性原理のような結果を手際よく得ることができる。
この量子力学におけるよく知られた結果の一つであるハイゼンベルグの不確定性原理について少しだけ触れて終わることにしよう。$${A, B}$$をエルミートオペレータとし、$${|\psi\rang}$$を量子状態とする。このとき$${\lang AB\rang = \lang \psi | AB | \psi \rang = x + iy}$$と置く。すると
$$
\lang [A,B]\rang = 2iy, \lang \{A, B\}\rang = 2x
$$
を用いると
$$
|\lang [A, B]\rang |^2 + |\lang \{A, B\}\rang |^2 = 4(x^2 + y^2) = 4|\lang AB\rang|^2
$$
である。コーシー・シュワルツの不等式から
$$
|\lang AB\rang|^2 = |\lang \psi | AB |\psi \rang|^2 \le \lang\psi|A^2|\psi\rang\lang\psi|B^2|\psi\rang = \lang A^2\rang \lang B^2 \rang
$$
であり、これらの二式を組み合わせることで
$$
|\lang [A, B]\rang |^2 \le |\lang [A, B]\rang |^2 + |\lang \{A, B\}\rang |^2 = 4|\lang AB\rang|^2 \le 4\lang A^2\rang \lang B^2 \rang
$$
が成立する。
さて、$${C, D}$$を観測量とし、$${A = C - \lang C\rang I, B = D - \lang D\rang I}$$と置くと、最後の式は次のようになる。
$$
|\lang [C, D] \rang|^2 = |\lang [C - \lang C\rang I, D - \lang D\rang I]\rang |^2 \le 4\lang (C - \lang C\rang)^2\rang \lang (D - \lang D\rang)^2 \rang = 4 (\Delta C)^2 (\Delta D)^2
$$
この式を整理すると、一般的に知られているハイゼンベルグの不確定性原理の形を得る。
$$
\Delta C\Delta D \ge \frac{|\lang [C, D] \rang|}{2}
$$
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?