量子計算学習ノート - 量子力学の公理4


この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。


この記事では観測(測定ともいう)について説明する。これまでは閉じた量子系についてその状態変化をユニタリオペレータによって記述した。他の量子系と相互作用のないシステムの場合はそれでよいが、観測を行うとき、量子系は観測機器と相互作用し、測定結果を得ることになる。すなわち量子系はもはや閉じた系ではない。したがってユニタリオペレータによる時間発展にはならない。

なお、観測機器を含んだ量子系としてはユニタリオペレータで状態変化が記述され、そこから観測についても議論することができるとする見解もあるが、ここでは量子計算を議論するために実利的なアプローチとして時間発展による状態変化と観測による状態変化を結びつけることをあえてしない

そこで、観測の効果を記述する公理として、次を設定する。

測定は測定対象の状態空間上のオペレータ(測定オペレータ)の集まり$${\{M_n\}}$$によって記される。インデックス$${n}$$は実験で生じる測定結果を示している。測定結果$${n}$$が生じる確率は$${p(n) = \lang \psi | M^*_n M_n | \psi \rang}$$で記述され、測定後の状態は$${\frac{M_{n}|\psi\rang}{\sqrt{\lang \psi | M^*_n M_n | \psi \rang}}}$$とする。測定確率$${p(n)}$$に対して、その和は$${\sum_n p(n) = 1}$$となる。

量子測定の公理

測定確率の和が$${1}$$となる要請は$${\sum_n M^*_n M_n = I}$$の要請と同値である。実際

$$
1 = \sum_n p(n) = \bigg\lang \psi \bigg| \sum_n M^*_n M_n \bigg|\psi\bigg\rang
$$

が任意の状態ベクトル$${|\psi\rang}$$に対して成り立つから、$${\sum_n M^*_n M_n}$$をスペクトル分解するCONS$${\{|e_i\rang\}}$$に対しても成立する。したがって固有値がすべて$${1}$$であることが示されるため、$${\sum_n M^*_n M_n = I}$$が導かれる。

次回以降は観測における応用である量子状態の識別と、量子測定の中で特別な例である射影測定POVM測定について議論していく。


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