量子計算学習ノート - 非クローン化定理


この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。


従来の計算においてはデータ、つまりビットのコピーは容易に行える。実際、コピー先となる0で初期化されたビットを用意できれば、cnotゲートを通すことでコピー元ビットを複製することができる。コピー元ビットを$${x}$$、cnotゲートを$${U_{CN}}$$とおくと、次の式で証明される。

$$
U_{CN}(x,0) = (x, 0 \oplus x) = (x, x)
$$

一方で、量子ビットにおいては量子ビットをコピーすることは不可能であることが知られている。これを「非クローン化定理」という。非クローン化定理は次のような命題に置き換えられる。

【非クローン化定理
任意の量子ビット$${|\psi\rangle = \alpha |0\rangle + \beta |1\rangle}$$が与えられたとき、2量子ビット$${|\psi\rangle |0\rangle}$$を$${|\psi\rangle |\psi\rangle}$$に変換するような量子ゲートは存在しない

ここからはこの定理を証明してみよう。このような量子ゲート$${U_{COPY}}$$が存在したとする。このとき任意の量子状態 $${|\psi\rangle , |\phi\rangle}$$に対して

$$
{U_{COPY}|\psi\rangle|0\rangle = |\psi\rangle|\psi\rangle}, {U_{COPY}|\phi\rangle|0\rangle = |\phi\rangle|\phi\rangle}
$$

となる。右辺同士で内積をとると$${\langle\psi |\phi\rangle^2}$$となり、左辺同士で内積をとると、$${U_{COPY}}$$がユニタリであることから

$$
\langle\psi|\langle0| U^*_{COPY}U_{COPY}|\phi\rangle|0\rangle = (\langle\psi|\langle0|)(|\phi\rangle|0\rangle) = \langle\psi|\phi\rangle 
$$

であることがわかる。つまり次が成立しなければならない。

$$
\langle\psi|\phi\rangle = \langle\psi |\phi\rangle^2
$$

$${|\psi\rangle, |\phi\rangle}$$は任意でよいので、例えば $${|\psi\rangle=0, |\phi\rangle=\frac{|0\rangle + |1\rangle}{\sqrt{2}}}$$のときも、上式は成立していなければならない。しかし実際には

$$
\frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{1}{2}
$$

となって矛盾する。よってコピーを実現するような量子ゲート $${U_{COPY}}$$は存在してはならない。Q.E.D.

ところで、量子回路では観測も許されているが、量子状態$${|\psi\rangle |0\rangle}$$にある量子ビットを観測して$${|\psi\rangle |\psi\rangle}$$という量子状態を得ることは確率的に可能ではある。しかし、このような観測はコピー元の量子状態$${|\psi\rangle}$$を知っているからこそ構成可能だ。このような一時的に構成した観測をベースにしてしまうと、元にした量子状態と違う状態に対しては一般的にコピーできない。つまり任意の量子状態に対し、量子状態を複製するような観測も存在しない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?