量子計算学習ノート - 交換子と反交換子1
この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。
2つの線形オペレータの重要な性質を多く導く交換子と反交換子について定義しよう。
2つの線形オペレータ$${A, B}$$が与えられたとき
$$
[A, B] \equiv AB - BA, \quad \{A, B\} \equiv AB + BA
$$
と定義される線形オペレータをそれぞれ交換子、反交換子という。
交換子$${[A, B]}$$が$${0}$$のとき、線形オペレータ$${A,B}$$は積において可換である。一方、反交換子$${\{A, B\}}$$が$${0}$$のとき、線形オペレータ$${A,B}$$は反可換であるという。
交換子によって導かれる2つの線形オペレータに対する重要な性質は、同時対角化可能かということである。この記事では次の性質が成り立つことを証明しよう。
同時対角化可能であるとき、$${AB, BA}$$は次のように計算される。
$$
AB = \sum_i a_i b_i |e_i \rang\lang e_i|,\ BA = \sum_i b_i a_i |e_i \rang\lang e_i |
$$
よって、$${[A, B] = 0}$$である。
逆に$${[A, B] = 0}$$であるとする。このとき$${AB = BA}$$である。
$${A}$$の固有値$${a}$$に対する固有空間を$${V_a}$$とする。ここで固有空間$${V_a}$$のCONS$${\{|e^a_i\rang\}}$$とすると
$$
AB|e^a_i\rang = BA|e^a_i\rang = a B|e^a_i\rang
$$
であることから、$${B|e^a_i\rang}$$は$${V_a}$$の元であることがわかる。固有空間$${V_a}$$への射影作用素を$${P_a}$$とおき、$${B_a \equiv P_a B P_a}$$と定義しよう。$${B}$$も$${P_a}$$もエルミートオペレータであるから、$${B_a}$$もエルミートオペレータであり、スペクトル分解が可能である。$${B_a}$$はその定義により$${V_a}$$の直交補空間の元に対しては必ず$${\bold 0}$$を返すから、$${\{|e^a_i \rang\}}$$とは一般的に異なる$${V_a}$$のCONS$${\{|f^a_i \rang\}}$$を用いて
$$
B_a = \sum_i b^a_i |f^a_i \rang \lang f^a_i|
$$
と書ける。
$${|f^a_i\rang}$$も$${V_a}$$の元なので、$${B|f^a_i\rang}$$も$${V_a}$$の元となる。このことから$${P_a B|f^a_i\rang = B|f^a_i \rang, P_a |f^a_i\rang = |f^a_i\rang}$$が成り立ち
$$
B|f^a_i \rang = P_a B P_a |f^a_i \rang = B_a |f^a_i \rang = b^a_i |f^a_i \rang
$$
が導かれる。したがって$${B}$$はCONS$${\{|f^a_i\rang\}_{i,a}}$$を用いて対角化されることがわかった。一方、$${|f^a_i\rang}$$は$${V_a}$$の元なので、$${A}$$は$${\{|f^a_i\rang\}_{i,a}}$$を用いて対角化できることは明らかだ。
以上より、$${[A, B] = 0}$$のとき、$${A, B}$$は同時対角化可能である。
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