量子計算学習ノート - 量子力学の公理9


この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。


ここでは量子状態の位相について取り扱う。位相には二種類ある。

まずはグローバル位相だ。状態ベクトル$${|\psi\rang}$$に対し、$${e^{i\theta} |\psi\rang\ (\theta \in\mathbb{R})}$$なるベクトルもまた状態ベクトルとなる。このように書かれた$${e^{i\theta}}$$をグローバル位相と呼ぶ。グローバル位相のみが違う状態に対する観測による統計は全く同じものになる。実際、測定オペレータを$${M_m}$$とし、状態$${e^{i\theta} |\psi\rang}$$における$${m}$$の観測確率$${p(m)}$$は

$$
p(m) = \lang \psi | e^{-i\theta} M^*_m M_m e^{i\theta} |\psi\rang = \lang \psi | M^*_m M_m |\psi\rang
$$

となって、状態$${|\psi\rang}$$を前提とした時と結果が変わらない。このことを根拠に、私たちはグローバル位相を量子システムの観測される性質に無関係であるとして無視することにする。

一方で相対位相という位相もあり、これは非常に重要だ。次の状態を考える。

$$
\frac{|0\rang + |1\rang}{\sqrt{2}},\ \frac{|0\rang - |1\rang}{\sqrt{2}} \left(=\frac{|0\rang +e^{i\pi} |1\rang}{\sqrt{2}}\right)
$$

$$|0\rang$$にかかる係数は双方の状態共に同じだ。この状況で$${|1\rang}$$にかかる係数は第一の状態は$${1/\sqrt{2}}$$であるのに対し、第二の状態は$${e^{i\pi} \cdot 1/\sqrt{2}}$$となっている。このように二つの振幅$${a,b}$$に対して、$${b = e^{i\theta}a \ (\theta \neq 2n\pi, n \in \mathbb{Z})}$$が成り立つとき、振幅$${a, b}$$は相対位相が異なるという。

明らかだが、相対位相は二つ以上の状態をある基底で書き下した時に初めて議論できる、基底依存の概念である。グローバル位相と異なり、相対位相がある基底で異なることは、量子測定の結果に影響を与える。実際、測定オペレータ集合$${\{|+\rang \lang +|, |-\rang \lang -|\}}$$での射影観測を双方の状態について考えると、左の状態については$${p(+)=1, p(-)=0}$$であり、右の状態については$${p(+)=0, p(-)=1}$$である。このため相対位相の相違を私たちは無視することはできない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?