2-25の短い話
雨戸を打ち付ける雨の音で目が覚めた。足のぬくもりが長時間の睡眠を物語っている。雨戸の隙間から光が差しているし、夜は開けたのだろう。口腔内の不快感を無視し、布団を頭まで引っ張り上げた。携帯電話に触ることなく時間が流れるままにしていたが、連続して入る通知音に負け、とうとう体を起こした。
布団の中で脱いだ靴下を探し、底冷えするフローリングに足を下ろした。覚醒しきってない頭もそこそこに、トイレを済ませ、洗面台によりかかる。ひどい顔をしている。むくんだ顔を洗い、ついでに髪の毛も洗ったところでようやく意識がうまく作動し始めた。
通知元はXからのメッセージだった。ティーンエイジャーがよくやるような、短いメッセージを連続して送ってくるのはこいつしかいない。
「ごはん」「いこう」「よー」「おねがいおねがい」「おごって」
4コール目も終わらないうちにXは電話にでた。「おはよう、どこいく?ファミレスは嫌だし、海鮮の気分でも無い。焼肉は論外。トイレがビル共用扱いのレストランもいやだ。なんかある?」矢継ぎ早に届く情報を元に2軒候補を伝えるとXは大きな声で「1時間後ね」とだけ言い、通話を切った。突風のような奴だ。
中華屋でのXはいつも通り食べに食べた。店員がテーブルに近づくたびに何かを頼むか何かを下げさせていた。食べながらしゃべろうとするXを止めながら、私はエビチャーハンの残りを片付けた。満腹になったのかXはもじもじと「お願いします」と言い、指先を重ねてテーブルの上に置いた。どういう誠意なのかわからないが、私は毎回この一連の動きが面白いのでおごってしまう。
お会計を済ませ店を出た瞬間Xは活気を取り戻す。私が「じゃあ解散ね」というともっと元気になる。ここまでただ飯目的だとわかると清々しい。そうして私たちは14時も届かないうちに解散した。
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