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10代オルタナ嗜好論

先日、『神田伯山真打ち昇進襲名披露公演』を観たくて、池袋演芸場に朝から並んでたのだが、

そこに、末廣亭等ではあまりお目にかかれなかった、10代のヤングガンズ(Young Gunz)
が並んでるのを見た。

彼らは、WEGOとかで買えそうな、柄柄のパンツや、カラフルなナイロンアウター、ミリタリーアウターを着込んでいて、ともすれば伝統芸能とは無縁な雰囲気さえ漂わしていた(人のこと言えないナリでしたが)。

池袋演芸場

この日、池袋演芸場に入れる人数は92人限定、
新宿、浅草と続いた披露目興行の池袋の楽日、そして、その次の国立は悪しき病の風評で中止となり、実質の最終日になった。

当日11時からの整理券配布のために、前日から、令和のニュースターのお披露目を見ようと並ぶ人々が集まっていた。
自分も友と共に、朝の7時から並んだ。彼らヤングガンズは我々よりも前にいた。6時台かもっと前から並んでいたんだろう、それ程までの気合の入り様だ。

そこで、一緒に並んでいた友と、話したことだが、

講談・落語のスターダムは、もしかしたら、オルタナティブなヒーローとして、10代に刺さっているのではないか?という解釈だった。

オルタナヒーロー


例えば我々が10代の頃、
まだK-1/PRIDE草創期の日の目を見る前の総合格闘家だったり、
M-1が開催される前、ルミネができる前の若手芸人だったり、
まだ日韓ワールドカップ前の、中田の出てるセリエAの深夜放送しか流れてないくらいの頃のサッカー選手だったり、
まだインディーズで革新的なサウンドを鳴らすバンドマンだったり、
当時ミクスチャーという流れに汲み取られたラッパー、DJ、レゲエの人たちだったり、
街のヒーローだったスケーターだったり、グラフィティライターだったり、
ストリート雑誌に載ってるが街で会える読モだったり、
まだ一部の好事家達の世界だったアイドルだったり等、

そういう人たちに注がれていた羨望の眼差しは、メインカルチャーに匹敵する破壊力を秘めた、オルタナティブな立ち位置のそこはかとない魅力に対してだった。

同時にそこには、『学校や家族は知らない、新たな才能や新鮮な楽しみを、他でもないこの自分が、誰より先に気付いている』という優越感にも似た先行者としてのトキメキを伴っている。

自分も間違いなくその嗜好があったし、あったから今現在、こういう生き方をしている所がある。上記の人々に憧れたし、高校の図書室で出会った五代目圓楽師匠の本を読み漁ったり、何故か落語に詳しい父母に、2人の若い頃の噺家の話を聞いたりしていた。

伯山自身も、高校生の頃に、落語から入って寄席に通ったと言っているから、同じく、落語家達をオルタナヒーローとして見ていたのであろう。 そして彼もまた、そのヒーローになった。今やメインストリームの世界の人でもある。

演芸場の前には、なるほど彼ら以外、同世代の子が朝も早くから、池袋西口の地球飯店(すごい名前)の前で、雨とあの悪名高い流行り病への不安に耐えながら並んでいる姿は見えない。寄席慣れしているだろう愛好家が、並び慣れているだろうグッズとともに座っているだけだ。

10代にとってオルタナティブな存在は、今まで無自覚に帰属していたメインカルチャー/メインストリームの世界、つまり家族や、学校内の社会/村社会に対し、

自我が芽生え、自覚的に帰属を決める時の、自身の成り立ちに寄与する、重要な存在だ。

自分は何が好きで、何が嫌いなのか、俺とアイツは何が違うのか、"A"に対し"not A"を見つけ出した時、初めて自分の存在が、既存の有象無象に塗れた帰属から抜け出し、自分自身の輪郭として、浮き彫りにされていく。

10代に得た経験、過去の記憶は常に永遠。
(永遠の記憶feat. T.A.K. THE RHYMEHEAD / ZEEBRA)

そこで得た自意識は、今後の自分を形作っていく。

20年代のオルタナ


アイドルは歌番組で楽曲ごと評価されるような舞台に上がり、ラップ・ヒップホップ、レゲエでの成功者も増え、格闘技は隆盛期から次の世代に引き継がれ、あの日インディーズだったバンド達は有名になったり形を変えて世の中に浸透していたり、あの若手芸人は冠番組を持ったりMC横芸人になったり、
あの日のオルタナティブがメインストリームに召し上げられ、あの日の好事家達の娯楽が、会社帰りのOLにまで浸透している今、

彼らにとって神田伯山を筆頭に、寄席からスターダムに躍り出た芸人は、新たなるオルタナティブな存在となり得ているのだろう。

もちろん、新たなアイドル、新たな格闘家、新たな音楽家、新たな若手芸人は日々生まれている。TV及びSNSを賑わすスターの中に、伝統芸能がフィーチャーされることで、思春期に出会うオルタナティブの一角に収まることになったのだろう。


そんな話をし終えた所で、整理券が配布された。彼らは順調に列に促されていった。

定員は92名、整理券の配布は、
自分と友の数人前で、締め切られた。

さぁ、未来は次の世代につながれた。
彼らヤングガンズには大いに楽しんでほしい。彼らが次の世代のオルタナヒーローになるやもしれない。

そして自分達は、新時代を担う彼らに、声をかけるべきだったかもしれない。


『そのチケット、俺らに譲ってくれないか』と。

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