中古品へのこだわりと、新品でなければならない資材と。

愛用しているお財布とのお別れが近付いているという話と、作品作りのモットーめいたものの二本立て。

ヴィヴィアン・ウエストウッドのオーブデザインに心を撃ち抜かれた19歳の頃、パチもんのネックレスやオーブライターが出回っていた。NANAという人気漫画の映画化の影響で流行っていたのだ。
大学寮の友達に勧められて原作コミックスを読むも、その作品は残念ながら私には合わなかった。丁重に謝りつつ途中で返却させて頂いた。どうしても合わない趣味というものはあるのだ。

だが彼女の貸してくれたあのコミックスは、ヴィヴィアン・ウエストウッドの世界にハマるきっかけをくれた。

タバコを吸わないのでライターは意味が無い。ネックレスに憧れるも、いざお金を貯めて念願のスモールネックレスを1本買ったところでそれに合わせる服を買うお金が到底間に合わない。
それでも何とかして、あのオーブデザインのついた日用雑貨を持ちたい。

数日悩み抜いた末、辿り着いた答えは「財布」だった。

当時、周りでインターネットでの買い物やネットオークションを利用する人はほとんどいない時代だった。
手工芸部の学祭でのハンドメイドアクセサリーの売り上げを、この先長く使えるヴィヴィアンの財布に投資しようと決めた。学祭まで学業の合間を縫って作りに作った。
毎年のことながら地方部大会の日が学祭と重なり、地方部大会から学祭に帰ってきたら私の商品を前日並べていたはずのブースがなかった。先輩のブースに変わっていた。先輩の後ろに、 私の商品が撤収されていた。
手工芸部同士の同学年の友達曰く、不在である私の商品を4年生の先輩がどけた。4年生にとって最後の学祭は集大成となる稼ぎ所。不在である私の商品は数とラインナップこそ多けれど他の部員と作風がかなり違うため、他の部員ではお客さんにちゃんと商品を説明できない。先輩達の商品を多く並べたい気持ちもわかるので止められなかった。とのこと。
学祭終了後、私の商品の売り上げは4年生の先輩方の次位。1位を目指していただけに残念な気持ちはあったが、土曜日だけでもそれなりに売れた訳だし聖なる日曜日に商売をせずに安息とする戒めを守れたということだ。そもそもが4年生の先輩方がいたからこそ部活動自体がここまで続いてきたのだから、不在にした私は文句を言える立場にない。
学祭の売り上げを即通帳に入れてその夜からヤフオクで数日張り込みに張り込み、送料込み5000円「3・4回使用しました」チェック柄の財布with大きめオーブロゴのメタルパーツがついた中古の二つ折り財布を即決でGET。学祭の売り上げでギリギリ賄えた。

もうパチもんだろうが並行輸入品だろうがどうでもいい。オーブロゴがついて内側の皮地に「Vivienne Westwood」の箔押しがされた財布を手にできた、それだけで19歳の私の心は天にも昇る思いだった。
何のキャラクターでもないパンダの刺繍がついたマジックテープバリバリ布財布から、それを機にやっとこさ卒業できたのだから。

その日から16年になる。
中身がパンパンになってはカード類を断捨離することを繰り返し、その財布はまだ使えている。
……が、悲しいかなそろそろ限界が来ようとしている。
端の皮革も布地も徐々に擦り切れている。表の布地の裂け目からシワシワの芯地が見えてきた。カード収納ポケットは徐々に裂け始め、留め具のスナップボタンはかなりゆるゆるでバッグの中で開くこともしばしば。お気に入りのオーブロゴ部分も往年の傷が目立つ。内側の小銭ポケットが小さい分ファスナーはまだまだご健在ではあるものの、小さいが故に歳をとってくると中身が見にくい。
そろそろ金額で分けられる小銭ポケット完備の長財布にシフトしたい。

あの時にちゃんと新品で購入していたら25年以上使い続けていられたかも知れないが、私としてはこれでも充分に満足。「本物だからこそ長く使えた」のか「偽物だけどよくここまで長持ちしたものだ」なのかは今はもうわからない。けれど、どちらにせよこの買い物は私にとって正解だったと言える。
年間312.5円で、自分の手にしっくり馴染む理想の財布を心からの愛着をもって使い続けて来られた。
これは本当に幸せなことだ。

Facebookで、JKの娘がハイブランドの財布をねだってくる、自分の同世代の頃にはハイブランドはババアが持つものと敬遠していたが今の時代においてネットの影響の強さを感じたという記事を見た。
そのお母さんへ、同じ悩みをもつ保護者さんへ伝えたい。買ってあげるのなら、なにも新品じゃなくたっていいんだよ。正規の新品じゃないと嫌だと言われたら自分で稼げるようになってから買うものだと答えればいい。
心から欲しいと思える長持ちするものは、可能な限り自分で買った方がいい。自分にできる最善の稼ぎ方で手に入れる経験を経たものは手に馴染む。そうして手に入れるからこそ自分の一部になる。

オーブロゴのメタルパーツとがま口小銭ポケットのついた長財布を、先日からネットでちょこちょこ探し始めている。
このご時世だが、やはり中古品が欲しい。19歳の時の初心を、あの時学んだ精神を、次に巡り会う中古品で更新していきたい。

ビーズもリメイクに使う和服も、私は基本的にネットオークションやメルカリによる中古品を買う。実際に届いた商品の写真と微妙に異なる色合いや質感など、購入から開封までのギャップが楽しいのだ。
自分の感性に従う「このビーズ・和服が欲しい」を店に行って的確かつ合理的に買い求めるのはいつでもできる。店頭になければ何なら注文すればいい。
だが、「自分にはない他人の感性による材料の眠り在庫」はネットオークションとメルカリでなければ手に入らない。他人の持て余した材料を受け継いで生まれ変わらせる工程こそが何よりも楽しいのだ。一種のギャンブルと言われたら反論できないが、不自由の中で自由を模索しデザインを考えていく過程のワクワクは何にも変え難い。

私が作るものはいつでも、誰かのおうちで眠り続けていた在庫同士の掛け合わせで思いつく。誰かと誰かの形になる前に途絶えた感性を、私の部屋で1つにまとめさせて頂く。そうして完成した商品やキットが、また誰かのお嫁にいく。
これからもずっと変わらない。

……ここまで長々と語っておいて言うべきか迷ったが、勿論どうしても新品で購入しなければならないものもある。金具類だけは一社に絞って買った方がいい。
パーツクラブ、貴和製作所、MIYUKI(BeadsFactory)、TOHO、マミーの四季、 OuiOui、その他その他その他。それぞれの金具を買って見比べると一目瞭然。
銀・ゴールドとだけ言えばどこも同じように思えるかもしれないが、大きな間違いだ。会社によってどちらの色も色合いが全く違うことがわかるだろう。複数社の金具を混ぜて作ると完成後の違和感がすごい。

大事なことなので何度でも言う。
これからハンドメイドアクセサリーを始める人へ。
金具類だけは、マジで一社のみに絞った方がいい。
統一感に裏付けされた高級感が本当に違う。

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